紳士の雑学

この場所で確かな手工業を続けていく、Alt81

2018.07.05

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こだわりあるセレクトショップやカフェが次々とオープンし、脚光を浴びるようになった台東区・蔵前エリア。若手経営者やオーナーたちによって再び活況を呈するこの下町で、ひっそりと店舗兼事務所を構えるレザーグッズ専門ブランドがAlt81(オルトハチジュウイチ)だ。製品そのものの魅力はもちろん、持続可能な新しいビジネスのあり方を模索し、評価を高めつつある注目すべきブランドのひとつだ。

元広告プランナーという異色のオーナー

偶然通りすがったとき目に留まったのが、大きなガラス窓からうかがえるショールームのような空間。ためらいながらも扉を押し、足を踏み入れると、美しく仕上げられた革製品が木製の什器に整然とディスプレーされていた。ほんの数分だったが、レザーの魅力を引き出すミニマルなデザインと作り込まれたディテールに引き込まれた。後にネットで調べてみると、それはAlt81という日本のブランドであることがわかり、さらに興味を抱いた。オーナーの髙崎真行氏に、ブランド立ち上げの経緯から話を伺った。

「もともと皮革産業で仕事をしていたというわけではなく、20代半ばのころは広告代理店に勤務していました。当時クライアントだった、日本製にこだわる某ブランドとの仕事を通じて、革素材の面白さに引き込まれていきました。さらには現場の職人さんたちと接する機会も多くなりました。コストを抑えるため海外生産が主流になり、国内の職人さんの仕事が奪われていく。技術を継承させていくことが難しいという状況を目の当たりにして、危機感を抱いていました。そうした状況をなんとか変えたいと思い、何か自分にできることはないかと考え、その会社の社長さんに相談すると、“ウチで仕事をやってみないか?”と誘われて、そのブランドでさまざまな勉強をさせてもらいました。その後、独立して2013年にこのショップ兼オフィスを構えたのです」

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Alt81のベストセラーで、圧倒的な収納力を誇るラウンド型長財布。素材は独特な縞模様が浮き出るルガトショルダーと呼ばれ、肉厚な植物性フルタンニングによるステアレザーを採用。一番人気はこちらのネイビー。あまりの人気の高さゆえ、現在は入荷待ちとなる。各\34,000(税込)

本質的な価値を自分たちの手で伝える

こだわりのレザーグッズを手がける日本ブランドは以前から多数存在し、“メイド・イン・ジャパン”や“職人の手仕事”という売り文句すら、ありふれたものになった現在。Alt81が大切にしているのは、WEBをきっかけとした顧客とのコミュニケーション。WEBには自分たちで撮影した商品画像が、熱のこもった文面とともに紹介している。厳選した7種類のレザーに関する記述や、ネン引きと呼ばれる手間のかかる処理を施すこだわりなどを写真やイラストとともに解説。そこには元広告プランナーとしての経歴を生かした、髙崎氏らしいアイデアと手腕が発揮されている。

「決してウンチクで売ろうという意図はありません。確かなクオリティーの製品であっても、手に取って買っていただけなければ、絵に描いた餅でしかありません。多くの人にとって革小物を選ぶときに思い浮かべるのは、海外の高級ブランドでしょう。そうした状況下でAlt81は、なぜこの素材なのか、なぜこのデザインなのか、なぜこの製法なのかを明確に提示することから始めました。価値を知ってもらうためには、価値を生み出した人の努力や苦労を伝えなければならない。そう考え、自分たちの手でWEBサイトを運営しています。やはり男性はレザー好きが多く、ネットを通じてAlt81に興味をもっていただける方が非常に多い。同じレザーであっても部位によって質感が異なりますし、使う人によって経年変化もさまざまです。そうしたことをお客さまにしっかりお伝えし、理解していただく。我々が卸販売をせず、実店舗とWEBだけでしか販売していないのはそのためです」

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ブランドオーナーの髙崎真行氏。ブランド名の由来は、代わりになるもの……という意味をもつ英単語のAlternativeと、国際電話における日本の国番号の81。この2つを組み合わせAlt81とした。アノニマスでありながら、日本製であることの誇りを感じさせる。

日本製の価値を理解し共感してもらうこと

現場の生産性を高め、製品を安定的に供給するためには、高付加価値であることが絶対条件となる。その点、ヨーロッパの高級ブランドに分があるのは疑いようのない事実である。ただ目が飛び出るほど高額で、実質的なモノの価値とかけ離れている場合も少なくない。一方、途上国での大量生産による安価で高品質なブランドが世界市場で支持されており、この二極分化は甚だしい。Alt81では海外高級ブランドと同等、もしくはそれ以上の工程を経て製品化されている。モノの本質的な価値とプライスについて、髙崎氏はどのようなビジョンを持っているのだろうか。

「価格設定については最初にプライスありきではなく、作っていただいた職人さんの工賃に見合う適正な価格であることを重視します。そのうえで我々がお客さまに提案したい価値を加え、必要ない付加価値や中間コストを削ぎ落としています。我々の価値観に共感していただければ、きっと納得していただけるプライスだという自負があります。また、Alt81を選んでいただき、所有することで得られる満足感、思わず周囲に自慢したくなってしまうストーリーも大切にしています。例えば、風合いや色めが微妙に違うものから、自分だけの一点をじっくり選ぶ楽しみや、名刺交換をするときに相手の名刺入れもAlt81だと気付き、“お互い良いモノがわかってるよね”と思わずニヤリとしてしまう。そんなふうに日本製の価値に共感していただけるお客さまを増やし、持続可能なビジネスとして成長していくことが理想です」

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紙幣とカードをコンパクトかつ美しく持ち運ぶために生まれたのが、こちらの二つ折り純札入れ。どうしても厚みを帯びてしまう小銭入れは思い切って排し、オリジナルのシェイドワックスレザーを採用し、きめ細やかな縫製と仕上げによって製品化されている。各\25,000(税込)

モノづくりの町が再び盛り上がっている

多くの女性から注目を集めているショコラティエの出店をはじめ、多くの若手経営者らが蔵前エリアを活性化している。そうしたモノづくりを大切にする地域で、髙崎氏がビジネスを始めた理由はごく自然な流れであり、職人やパーツの納入業者とのコミュニケーションを円滑にするための必然でもあった。

「廃校になった小学校をデザイナーズビレッジとして再利用し、新たに起業するデザイナーやオーナーに安い賃料で提供する区のバックアップもあって、新しいブランドや経営者が増えています。さらに、年1回催されるMonomachi(モノマチ)というイベントや、JR東日本が主導する2k540 AKI-OKA ARTISAN(アキオカとは秋葉原と御徒町を指す)という複合施設もこのエリアを盛り上げる要因になっています。我々がショップを構えたころは、ちょうど蔵前に新しいショップやカフェが次々とオープンしはじめたころでもありました。レザーやパーツの問屋が数多く、仕事上便利だからという理由でこの場所を選んだのですが、いまとなってはこの町でなければやっていけないと感じています。問屋さんとの付き合いはもちろん、同業者とのコミュニケーションも大きな刺激を受けますから。手を動かして物を作る職人さんへのリスペクトと、その価値を伝えるブランドでありたいと考えています」

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Alt81の製品は同じモデルであっても、表情や手触りは一点一点異なる。ゆえに実際の商品を手に取ってもらい、こだわりを知ってもらうためにも実店舗が果たす役割は大きい。

住所 東京都台東区蔵前2-1-23 蔵前立沢ビルA号
営業時間 11:00-19:00
Tel 03-5809-2117
https://alt81.com/

Photographs:Fumihito Ishii
Text:Takuro Kawase

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