腕時計
バーゼルワールド2018 レポート
ハリー・ウィンストン
2018.07.26
年明け1月のSIHH(ジュネーブサロン)に続いて、バーゼルワールドがスイスで3月22日~27日に開催された。1917年から始まった商品見本市をルーツとして、昨年に100周年を迎えた国際的な時計と宝飾の展示会。多彩な新作が数多く披露された。今年のトレンドは最後にまとめるとして、日本でも人気の高い有力ブランドから注目のモデルをピックアップしていく。
ニューヨークの活気を感じさせる独創的なスタイルがさらに進化!
ハリー・ウィンストンは女性なら誰もが知るハイジュエラーであり、「キング・オブ・ダイヤモンド」と称えられてきた。1989年から時計界に進出したが、第一作から2つのレトログラード機構を搭載した永久カレンダーを発表。宝飾界でのステイタスにふさわしい、ハイエンドな時計づくりからスタートしている。
デザインもスイスの老舗ブランドとは異なる独創性を発揮。高度で複雑な機能をユニークなスタイルで表現してきたが、そのセンスと技巧はますます洗練されてきたといっていい。それを象徴するのが今年の新作「プロジェクト Z12」だ。
「プロジェクト Z」は、ハリー・ウィンストン独自開発による特殊合金「ザリウム」をケースに使用したシリーズで、軽量で硬度が高く、腐食などにも強いとされる。この新作は第12作となり、これまでは時分針をオフセンターに配置した非対称なデザインが特長だったが、それを良い意味で裏切る同心円状の完全対称なダイヤルになった。ただし、ハリー・ウィンストンだけに単純な丸形ではない。
ダイヤルの最外周は日付表示だが、1から31までの数字が半透明な固定ディスクにエングレーブされており、蛍光素材がこのディスクの下を移動することで日付を明示する。この日付表示の内側は、上部の半分が時間、下半分が分表示。どちらもお得意のレトログラードを採用しており、分表示は60分になると針が瞬時に左側のゼロ位置に戻る。その上部は、これを受けた時間表示だが、1時間ごとに針が動くジャンピングアワーになっている。そして、12時が終われば針は同じく左側に1時に戻る。つまり1日2回、12時59分から1時になる時は、ダイヤル上下の2本の針が同時に左側に戻るというダイナミックな動きが見られるのである。
時間表示は偶数の数字しかないので錯覚するかもしれないが、針は刻々と動いていくのでなく、60分になった時点で次の時間にジャンプする。バーになっている奇数の時間も同じだ。ジャンピングアワーをレトログラードと組み合わせた発想と技術力には感心させられる。
このダイヤルを中央部で仕切るように、トラス構造(三角形を連ねた骨組み)のマンハッタン橋を模した大きなブルーのブリッジが横断。本店が所在するニューヨークのシンボルを洒脱なアクセントとして表現している。この遊び心が、高度な時計技術を独創的なスタイルに変えていく源泉になっているのではないだろうか。
ハリー・ウィンストンでは最もスポーティな「HW オーシャン・コレクション」は今年で誕生20周年。この記念すべき年に新たなスタイルの永久カレンダー「HW オーシャン・バイレトログラード パーペチュアルカレンダー オートマティック 42㎜」が登場した。時分針の下で左右の2つのレトログラード針(曜日と日付)が動くという立体感が特長だ。
さらに、その下の階層にムーンフェイズ(6時位置)と月表示(閏年インジケーター付き、12時位置)をレイアウト。このように表現すると複雑に感じられるかもしれないが、高度なレリーフやテクスチャーなどを駆使しており、それぞれの視認性は極めて高い。針が元の位置に戻るレトログラードの動きを待ちかねながら、ダイヤルのディテールを隅々まで観察すれば、いくつもの新しい発見があるはずだ。
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問/ハリー・ウィンストン クライアントインフォメーション 0120-346-376
プロフィル
笠木恵司(かさき けいじ)
時計ジャーナリスト。1990年代半ばからスイスのジュネーブ、バーゼルで開催される国際時計展示会を取材してきた。時計工房や職人、ブランドCEOなどのインタビュー経験も豊富。共著として『腕時計雑学ノート』(ダイヤモンド社)。