お酒
アルザスやドイツのリースリングにも引けを取らない蜜のような味わい
ライトフット&ウルフヴィル ワインズ - テロワール シリーズ リースリング 2016
[今週の家飲みワイン]
2018.09.07
国際派ソムリエ梁世柱さんによる、知られざる各国ワインの魅力、第3弾は、カナダワインだ。カナダというと、少しワインに詳しい人でも、アイスワインのことしか聞いたことがないというのが正直なところではないだろうか? アイスワインとは凍結したぶどうで造る極甘のデザートワインのこと。「アイスワイン以外のカナダ産ワインは、ソムリエの間でも、まだ、ほとんど注目されていないというのが実情。僕、くらいでしょうか(笑)。昨年は、念願かなって、東海岸の注目のワイナリーをいくつか回り、近年、カナダのワインが進化しているという直感は、確信に変わりました」と梁さん。
カナダのワインは長らくは国内消費がほとんどで、国外への輸出に関しては消極的だった。ところが7~8年前に国際市場に出はじめると、そのクオリティーの高さに、一部マニアは驚いたのだという。醸造の技術力でねじ伏せるタイプがアメリカのカリフォルニア系だとすると、まったくそれとは異なる、自然に逆らわない、ぶどう畑のテロワールを最大限に生かすワインの造りが、カナダワインの特徴だ。
「まず、味に対するクオリティーの高さは驚きです。実は、それを可能にしているのが、皮肉にも地球の温暖化なのです。ワインの嗜好も食の嗜好に合わせて、パワフルからナチュラルに変化しているいま、多くのワイン産地では、アルコール度数を抑えるために、ぶどうの糖度が一定に達したところで摘まなければならないという現象が起きています。
ところが、それでは、植物的熟成には足りず、骨格のしっかりしたワインができにくいのだが、カナダの冷涼さであれば、十分に植物的熟成を待ってもぶどうの糖度がそこまで上がらずに摘める。だから酸もほどよく残り、きれいでありながら凝縮感のあるワインを自然に造ることが可能なのです」と、梁さんはカナダの利点を説明する。
まず、1本目は、カナダ東海岸のノヴァスコシア州のアナポリス渓谷に位置するワイナリー「ライトフット&ウルフヴィル」の産。ここは、世界一潮の満ち引きが大きいことで知られ、緯度が高いのに降水量が多く、湿度がとても高い。ぶどうを造るには劣悪ともいえる環境のなかで、ビオロジックの認証を取って、丁寧にぶどうを栽培している。そもそもはボルドーもブルゴーニュも、そのブドウ品種を育てるためには限界のエリアだったということを知れば、地球の温暖化によって、ノヴァスコシアも新しく偉大な産地の仲間入りをした、というようにも考えられるのだそう。
ぶどうにとっては厳しいテロワールが、緊張感のあるワイン造りにつながり、よい結果をもたらしているのだとも。アルザス地方やドイツ、オーストリアなど緯度の高いエリアが原産のリースリングが、見事にノヴァスコシアのテロワールに合い、できあがったこの一本。白い花のような魅惑的な香り、青りんごの爽やかさのなかに潜む、膨らみのある上品な甘み。「これでアルコール度数が11%以下というのが素晴らしさの大きなポイント」と、梁さんは言う。つまり、不必要な濃さを感じることなく、ぶどう品種そのものの味をストレートに感じることができるから。他の有名産地に比べて遜色がないという以上に、リースリングってこんなにピュアな味わいだったんだと、新しい側面を知ることができる一本だ。
Photograph:Makiko Doi