紳士の雑学

「稼げる人材になれば貯金なんて必要ない」
さくらインターネット株式会社 田中邦裕代表インタビュー[後編]

2018.10.02

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18年現在、さくらインターネットは“働きやすい職場”としてたびたびメディアに取り上げられている。離職率はわずか2%、育児休暇後の女性の職場復帰率は100%、男性の育児休暇取得率も16年に半数を超えた。結婚時の特別休暇や配偶者に関する制度はLGBTや事実婚もその対象だ。

「男性の育休を女性がフォローするのはうちではよくある光景です。とはいえ、子育てする社員をことさらにフォーカスするつもりはありません。育児する人、しない人、介護する人、しない人、男性も女性もLGBTも皆がフラットに働ける会社でありたいんです」
過去最高益を出したころ、働く環境にも改善の必要性を感じた。いまよりずっと離職率は高く、けれど新しく人を取ることもない。社員制度はそれなりにあったが使う人は少ない。極端な長時間労働こそなかったものの働きやすい会社とは言い難かった。

「要するに色がない会社。売上を伸ばしながら人を育てる、ここで働きたいと思える会社にならないと先はないと思ったんです」

「人を育てる」、田中の言うそれは究極的には「いざというとき、転職ができるくらいの人材」だ。

「もちろん、大前提はずっとうちで働いてほしいです。けれど、同時に応用の利くキャリアを築いてほしい。かつて『一生この会社で面倒みますよ』と言っていたような企業が大量の社員をリストラしました。その会社でしか使えないスキル、稟議書(りんぎしょ)の上げ方や独特の根回し、独特の商品知識を覚えたあげくに次の仕事が見つからない。それはとても怖いことだと思うんですよ」

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意外に思えるが田中は貯金をしないという。入ったお金、全部使っちゃうタイプなんですと笑う。

「異論はあるでしょうけど、20代の若い社員が貯金を考える必要はないと思うんです。貯金をすれば安泰、いい会社に入ったから安泰、そんな時代ではありません。自分でお金を稼げる過程を作ること、そのほうがずっと大事だと思います」

同社では起業や副業などを支援するパラレルキャリア制度を導入しているが「人材の育成」は社内に限らず、社外にも向いている。グリーやメルカリなど同社のサーバー支援を経て成長した企業は多くスタートアップ支援にはかねてから積極的な姿勢を取っている。

若手起業家から学ばされることもある。一部上場への市場変更もその交流がきっかけだったという。

「あるとき、『上場を目指すコミュニティー』でメンターを務めたんです。『上場だけが企業経営ではない』とカッコよくまとめたつもりでしたが参加者のひとりが『だけど、自分は上場したい。そのためにここにいます。目的ではなく手段だけどとても大切な手段なんです』って。確かにそうだよなぁって。一部上場した企業が言うならまだしも東証マザーズで迷っていたころでしたからね。そういう下からの突き上げもあって(笑)決断した部分もあります」

人生は連続性のあるもの選択で未来は変わる

昨年5月、創業以来初めてとなる長期休暇を取った。1カ月の休みを取り、夫婦でダイビングに行ったという。その妻は創業期からの社員であり、いまでも同社に勤めている。「社内に知らない人も多いと思いますよ。役職もないですし」、さらりと話す姿に同社の風通しの良さを感じる。撮影で田中がオフィスに入ったときも、その場の空気に緊張が走ったり、分断されるようなことはなかった。社員も社長もフラットな状態で仕事をしている、そんな印象を受けた。

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田中に経営者の資質を尋ねてみる。「威張らないことですかね」、本人の印象そのままの答えが返ってくる。

「会社を成長させ社会にポジティブな影響を与えたいと思うなら独善的だと続かない気がします。皆のおかげでうまくいっている、そう思う気持ちが大切」

だが、実際の成長過程で驕(おご)れる瞬間はなかったのだろうか?

「いやぁ、いつもそうですよ(笑)。チヤホヤされると調子に乗ってしまいます。だからこそ、常に自分を律することが大事なんです」

今年40歳。自身を振り返り30代のビジネスマンがやっておきたいことは? 少し考えた後に田中はこう答えた。

「40代、50代でも新しいことはできますが、30代での選択や経験の延長線上にそれがある気がしています。30代で多くの価値観に触れるほどその後の可能性は広がるはず。一方で自分が何に時間を使いたいのか見極めることも大切でしょう。人生は連続性のあるもの。経営者になりたい、いまの会社にコミットしたい、家族を持ちたい……、その選択が先へとつながってきます。30代は人生において非常に重要な地点だと思いますね」

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プロフィル
田中邦裕(たなか・くにひろ)
1978年、大阪生まれ。京都府の国立舞鶴工業高等専門学校在学中の96年12月、18歳でさくらインターネットを創業。当時国内ではまだ珍しかった共有ホスティングサービス(さくらウェブ)をスタートする。98年有限会社インフォレスト設立、さくらウェブの事業を継承し代表取締役へ就任。次いで、99年にはさくらインターネット株式会社を設立した。00年同社社長を退任し、副社長へ。最高執行責任者を歴任し、07年11年、2度目となる代表取締役社長に就任。JDCC副理事長、CSAJ副会長、JAIPA常任理事。趣味はプログラミングと旅行で、旅先ではダイビングやシュノーケリングなども。昨年は1カ月の長期休暇を取り、父島とプライベートでは初の海外であるタヒチに行った。いわく、お酒好きでもあり「連日飲んでますよ」と笑う。社長業のほかに個人で画像生成サイトなども運営し、現在は東京と地元の大阪を行き来する日々。

Photograph: Kentaro Kase
Text: Mariko Terashima

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