旅と暮らし
TOKYOの食をリードするガストロノミー
銀座に新生『ファロ』が10月1日誕生!
2018.10.03
2020年に向け、東京は勢いを増して変わっている印象だが、ホテルやシンボリックなショッピングモールを中心に、食スポットでもリニューアルが続いている。各レストランが、新たなTOKYOの食シーンをどのようにプレゼンするのか。楽しみは尽きないなか、銀座のシンボルレストランのひとつ『ファロ資生堂』(東京銀座資生堂ビル10階)が、10月1日、未知のジャンルを目指し、新生『ファロ』として生まれ変わった。
空間は和の素材が目を引く。天井のオブジェや壁、照明に至るまで高級和紙が贅沢に使用されつつも、店のデザインはクラシカルな欧州テイスト。エレベータを降りて店内に導かれた日本人の多くが「へぇ~」と感じ、外国人の多くは「ワ~オ!」と声をあげそうなニュアンスだ。
席に着くと、テーブルにセッティングされたB6サイズの紙には細かな文字で「あさり」「アガベシュガー」「枝豆」「カカオ」……120もの食材の名前が、あいうえお順に並んでいた。「なるほど、今日のお料理の素材なのだな」と想像できるものの、どんな料理が運ばれるかは、素人にはイメージがつきにくい。それにしても、メニューの代わりに素材表が提案されるとは、面白そうなことが始まりそうな予感。しかも、こんなに多くの素材を使う料理とはどのようなものなのだろう。聞いたことがない素材も多く、好奇心が刺激される。
料理は、ランチとディナー共に1種類。ランチは4品~(8000円)、ディナーは10品~(2万円)。「~」とあるのは、その日の素材に合わせて、皿数や内容が変化するからだそうだ。値段だけを見れば、高価だ。ハレ感マックスでもある。この価格帯で料理やサービスにがっかりすると、普段使いのお店でがっかりする何倍も落胆してしまうケースもある、などと野暮なことを考えるうちに、出されたひと皿目は「ハーブと花のタルト ホタテチップ ディルクリーム」。続いての八寸は、「シイタケキアヌ」「枝豆とリコッタのパニーノ」「南瓜とパプリカ 梨焼酎」「キャベツの再構築」など文字どおり8種。
目においしいだけに気を引っ張られず、ひとつひとつの料理が完成された味わいだ。しかも、いままで経験したことのないコラボレーションだったり、何がどうしてこの味わいなのだ? と感じたり。その都度、前述のあいうえお順素材カードで確認する。そうか、なるほど、そういうことね、と、ここでファロの術中にハマっている自分に気づく。
こうして並べられた料理は前菜からパスタ2種をはさんで魚料理と肉料理、ドルチェは3品。その日の素材によってメニューは変化し、だから、ここで明確に料理を紹介することはできないが、前半はどこまでも繊細で、後半はパンチが効いているという印象を受けた。
前半に供される小さな逸品たちには、いちいちうならされたし、後半の魚料理、肉料理はしっかりと強めの味わいが響く。ファロの料理がイタリアンベースにあることを象徴するパスタは「たかがパスタ」の域を超えて、メイン料理のひとつと考えてもいいものに感じた。
根底にあるのは「和の素材」と「調理法としてのイタリアン」。和風イタリアンなるもの、一時の流行に乗っていくつかの店でプレゼンされてきたが、いずれも中途半端な印象が残るなか、ファロで提案された皿には、意外性と驚き、そして、その後に満足と笑顔が続いた。
また、ドルチェも和のテイストを加えたもの。この日は、一休寺納豆のパウダー、リコッタチーズをトッピングした「マガオペッパーアイスクリーム」やたばこの葉、コーヒークリーム、炭酸水を加えた「ブルーグランチリリケのチョコレート」など、パッと見るだけでは味がイメージできない。そこにパティシエールのたくらみを感じる。
自家製パンを除き、八寸を1品として、計13品。3時間近い宴は終わった。
イタリアからスターシェフ・能田耕太郎氏を抜擢し、若きスタッフを中心に繰り広げられる料理は、新生ファロが志を持ったチームで、新たなTOKYOの食シーンを作り出そうとしていることを教えてくれた。東京には日本中から、各地の生産者が精魂込めて作り上げた素材が集まり、その味わいを最大限に生かせる料理人たちがいる。そして、そのひと皿をより魅力的に届けるフロアースタッフもいる。
大げさではなく、それは世界に誇れる東京の魅力のひとつだと感じた。こういう店がスタート時の思いを正しく貫いてくれれば、TOKYOの食の面白さを世界にアピールできるはず。もちろん、日本人の私たちもその恩恵にあずからない手はない。
Text:Sachiko Ikeno