旅と暮らし
ハワイ育ちのシンガーソングライターが初来日
卓越したギタープレイが味わえる一夜
2018.10.04
あなたはロン・アーティス・ザ・セカンドをご存じだろうか? 自分はごく最近まで知らなかったし、知って驚いた。こんなにすごいミュージシャンがハワイにいたのか、と。
数年前からハワイの音楽業界で「すごいやつがいる」と話題になっていたらしいロン・アーティス・ザ・セカンドは、ギター、ウクレレ、ピアノ、パーカッション、ドラムなど多種の楽器をこなすマルチプレイヤーでシンガーソングライター。とりわけギターの技術は破格のレベルで、どれだけ破格かは彼がパフォーマンスしている映像をYouTubeで見れば5秒でわかるはずだ。
ハワイのミュージシャンと聞いて、例えばジャック・ジョンソンのようにひたすら心地いいアコースティック&オーガニックなサウンドをまず思い浮かべる人は多いだろう。ロンはそういった柔らかな音楽も奏でるが、バンドでゴリゴリのロックもやるし、ファンクもやるし、ソウルも歌う。かなり広いジャンルの音楽を自分のものにしていて、決して“ユルさが気持ちいい”といったようなタイプではない。
出身はカリフォルニアで、1986年生まれ(ということは31歳か32歳)。5歳のときに家族そろってハワイに移住し、オアフ島ノースショアのハレイワで育った。テキサス州出身のいまは亡き父親は、画家兼ミュージシャン。ロサンゼルスでモータウンの仕事をするなどし、なんとマイケル・ジャクソンとスタジオに入ったこともある人だったそうだ。
またカリフォルニア州出身の母親はシンガーで、そんな両親の影響から彼も音楽に親しむようになった。初めて覚えた楽器はピアノで、それは4歳のころに始めたらしい。兄弟は10人(男がロン入れて6人、女が5人)もいて、弟のひとりの名前はサンダーストーム・アーティス。“Ron Artis Ⅱ& Thunderstorm”の名義で、ロンとデュオで活動している(サンダーストーム・アーティスは今年ソロでギター弾き語り作品『Haunted -EP』をリリース。Spotifyで聴いたが、これも非常にいい)。また別の弟のステヴォン・アーティスは、ロンのトリオ・バンドである“Ron Artis Ⅱ & the Truth”のドラマーだ。
幼少のころから音楽に親しみながらも、ロンがプロの歌手になる決断をしたのは20代半ばと意外に遅かったようだが、それからハワイで徐々にその名が知られるようになり、キャリアを重ねるなかで日本でも人気のウクレレ奏者ジェイク・シマブクロと一緒に活動したりもするように。ノースショアに住んでいることで以前から知り合いだったジャック・ジョンソンのライブのオープニングアクトを務めたりもしながら実力を発揮し、ほかにもG・ラヴ、ミック・フリートウッド、ブッカーT、ジョン・クルーズらと共演してきたようだ。ジャック・ジョンソンはロンの才能に対して「An Amazing Voice」と、そしてG・ラヴは「The Next Big Thing!」とコメントを寄せている。
日本初作品は優しさと熱のあるソロ弾き語り
そんなロンはいくつかの形態で作品も発表しているが、自分がSpotifyで聴いてぶったまげたのが弟のステヴォンと一緒にやっているバンド、Ron Artis Ⅱ & the Truthのアルバム『Soul Street』。今年4月にリリースされた作品だが、これがすごい。1曲目からジミ・ヘンドリックスばりのギターがギュインギュインとうなるブルーズ・ロックで、ロンの歌も初期衝動の爆発を感じさせるもの。
かと思えば2曲目はオーティス・レディングのスローソングを想起させる60年代的なソウルで、ボーカルは包容力に満ちている。ほかにも例えばレニー・クラヴィッツ、キザイア・ジョーンズ、ヴィンテージ・トラブルなんかが思い浮かぶロッキンなソウルやファンキーな曲があったりするし、かと思えばサイモン&ガーファンクルのようなフォーキー・ソングもあり、そのすべてで彼はさまざまに表情が変化する恐るべきギター音と人肌感のあるボーカルを聴かせているのだ。あまり知られていないのがもったいないとしか思えない傑作。ぜひ聴いてほしい。
それからもうひとつ紹介したいのが、今年6月にリリースされたソロの弾き語りCD『Acoustics』。これは彼にとっての日本初リリースとなる作品で、そもそも日本リリースを目的に録音されたのだそうな。
アコースティックギターの弾き語りが7曲、ウクレレ弾き語りが2曲、インストが2曲の計11曲を、自宅近くのウクレレ工房を借りて一発録音。こちらは「Let Me Dance」など彼の優しさがあふれ出ている柔らかな曲がとても染みるが、一方「Little People」という曲などはキザイア・ジョーンズ、あるいはラウル・ミドンのようにパーカッシブなギターを弾いてソウルフルな歌声を聴かせている。YouTubeにティーザー映像があるので、まずはそれでチェックするのもいいだろう。
さて、その彼の初来日公演が10月23日にビルボードライブ東京、10月24日にビルボードライブ大阪で行われることが決定している。これは上記の日本初リリースCD『Acoustics』を携えてのもので、つまりバンドではなくソロの弾き語り公演。しかし繰り返すが、ソロといえども彼の表現の仕方は多様で、優しくフォーキーに聴かせもすれば、ロッキンだったりファンキーだったりの在り方でガツンと聴かせもすることだろう。
楽器もギター、ウクレレと持ち替え、もしかしたらピアノも弾くかもしれない。単に心地いいだけじゃない、生々しさと熱のある音楽を聴かせてくれるだろうことは間違いないので、いまから本当に楽しみだ。
プロフィル
内本順一(うちもと・じゅんいち)
エンタメ情報誌の編集者を経て、90年代半ばに音楽ライターとなる。一般誌や音楽ウェブサイトでCDレビュー、コラム、インタビュー記事を担当し、シンガーソングライター系を中心にライナーノーツも多数執筆。ブログ「怒るくらいなら泣いてやる」でライブ日記を更新中。
公演情報
Ron Artis II
ロン・アーティス・ザ・セカンド
【東京公演】
公演日/2018年10月23日(火)
会場/Billboard Live TOKYO
料金/サービスエリア 6,900円 カジュアルエリア 5,900円
問/03-3405-1133
【大阪公演】
公演日/2018年10月24日(水)
会場/Billboard Live OSAKA
料金/サービスエリア 6,900円 カジュアルエリア 5,900円
問/06-6342-7722
その他詳細についてはオフィシャルウェブサイトにて
www.billboard-live.com