旅と暮らし

映画『十二人の死にたい子供たち』が残したメッセージ
[美しき映画ソムリエ]

2019.01.09

東 紗友美

写真・図版

ショッキングなタイトルの映画が、新年早々から公開されるのだなと私はあからさまに頭を抱えていた。その名は『十二人の死にたい子供たち』。ホームページやプレスシートには廃病院、集団安楽死、死体、自殺、他殺、そんなワードがいまをときめく若手役者たちの姿とともに並んでいるものだから、なんとも言えない気持ちに包まれながら試写室に足を運んでいた。

しかしこの映画に私は、ハッキリと一本取られたわけなのだ。推理を楽しむ要素を期待する以上に「負」のパワーを浴びる覚悟していたのに……。
そうなのだ、これは死を論じた物語ではない。ある種『スタンド・バイ・ミー』や『GO』などと変わらない力強い青春映画だったのだ。

『天地明察』の冲方 丁(うぶかた・とう)がデビュー20年目にして初めて書いたと言う長編ミステリーの原作を『SPEC』『トリック』シリーズで有名なヒットメーカー堤 幸彦監督が映画化した。12人ものメインとなる登場人物がいるにもかかわらず、各キャラの印象が一切ごちゃつかず、それぞれの特徴がわかりやすく仕上がっていて爽快感に包まれた良作だった。

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廃業した病院に現れた初対面同士の十二人の子どもたち。
彼らは集団安楽死をするという目的のために、この病院にやって来た。
時間どおり十二人が集まり、すんなり集団安楽死は決行されるはずだった。
しかし、「集いの場」に現れた人数は13人。
そしてその13人目の彼は既に死体となり、静かに横たわっていたのだ—―。
この場には死にたい人だけでなく、殺したい人が交ざっているのか?
13人目を殺害した犯人探し、自分が病院に着いたときの状況、自殺の動機など徹底的に追及し合う密室スリラーが幕を開けた――。

さて、映画をよく知る方々には言うまでもないが、これまでも「12人の〜」から始まる映画があった。まず1957年に製作されたアメリカ映画『十二人の怒れる男』はもともとテレビドラマだったものを後に『狼たちの午後』などでアカデミー賞にノミネートされることになるシドニー・ルメット監督が映画化し、陪審員制度の良い面と悪い面をあぶり出した。

そして後に三谷幸喜氏が脚本を担当した『12人の優しい日本人』では、上記の『怒れる男』のオマージュ作品として、もし日本に陪審員制度があったら……という架空の設定で裁判員制度が導入される時代を先取りし当時大きな話題となり、シチュエーション映画の傑作が生まれたのである。

さてこの2作品の面白みに共通しているのは、ひとりの「ちょっと待った!」というべくして発した反対意見をきっかけにディベートの末、その意見が覆るところにカタルシスが存在する。

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映画を通じ改めてわかったのは、人間は誰しも相反するあべこべな感情を持ち合わせているということ。たとえば死にたい人間は、同時に生きる理由もどこかで模索していたりする。

例えば、私たちの日常もそうではないか。
仕事を辞めたい人は、辞めなくて済む方法もあるのではないかとどこかで探しているし、恋愛においても恋人と別れたいと思っている人は、このままうまくいく方法があればと心のどこかで探していたりするものだ。
逃げ場がない人ほど、手探りのキボウを誰よりも探していたりする。
そんな切羽詰まった人間の心を氷解させるヒントがこの物語から見え隠れした。
それは、言葉にしてみること。人に話してみること。ちゃんと聞いてもらえると案外、大したことがなかったと思うものだ。
要するに人は皆、聞いてもらいたい生き物だと痛感する。

私だって、この映画の話を聞いてほしくて。だから居ても立っても居られなくなって、こんなふうにコラムを書いているのかもしれない。自分に起きたことを不特定多数に発信するSNSをやっている人のほとんどにも言えるのではないだろうか。

そして悩みを打ち明けた際には「そんなこと、あなたは気にしてるの?」という自分以外の人間の反応が実はとても大事なんじゃないかと思う。例えばソフトバンクの孫正義社長が、社外取締役にユニクロの創業者であり会長兼社長の柳井 正氏、日本電産創業者の永守重信氏(現在は退任されている)を選任していたことからもわかるように、自分に意見を言ってくれる人、本音を話せる存在が必要と考えていたのだとわかる。

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ここ数年、話す能力よりも「聞く力」が通信教育、ビジネス書、著名人の書籍などでもフォーカスされている印象を持つが、自分の人生を左右する局面にあたった際、上辺ではなく話を真剣に聞き、本心でのアドバイスをくれる存在が自分に何人いるのか新しい年の始まりに一度、思い返してみてはいかがでしょうか?

『十二人の死にたい子供たち』は、人間同士が向き合う上で当たり前すぎて忘れてしまいがちなメッセージを大人にも届けてくれる。
もちろん、ミステリーとしても存分に面白いので、子どもたちの選択する人生を見届けてほしい。

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『十二人の死にたい子供たち』
公開日:1月25日(金) 全国公開
監督:堤 幸彦
原作:冲方 丁『十二人の死にたい子どもたち』(文春文庫刊)
脚本:倉持 裕
企画・製作日本テレビ放送網
制作:プロダクションオフィスクレッシェンド
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会
オフィシャルサイト

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