特別インタビュー

面白いくらい批判しかされなかった
アソビュー株式会社 山野智久代表取締役社長インタビュー[前編]

2019.01.17

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「学生時代にフリーペーパーを立ち上げたことがあるんです。そこでの学びはいまでも生きてますね。『自分の手掛けたことが社会にインパクトを与えた喜び』と『世の中にできないことなんてないと思えたこと』。この2つが仕事の原動力になっている気がします」

こう語るのはアソビュー株式会社の山野智久代表取締役社長だ。2011年に創業した同社は日本最大級の遊びの予約サイト「asoview!(アソビュー)」を運営する。全国の約6500もの事業者と提携し、アウトドアから陶芸などのモノづくりまで2万にも上る遊びのプランを紹介している。

「僕らの業界はツアー&アクティビティーと言われてますけど、EC化率は5%程度。逆に言えば、勃興期にあるんです。今後はクロスボーダーでビジネスを展開し、国や地域を問わず、全世界誰でもどこでも楽しく遊べる状態を作っていきたいですね」

原宿にほど近いオフィスで山野は楽しそうにこう語った。

人は変わることより、変えたくない思いのほうが強いんです

冒頭のフリーペーパーの話をしよう。大学1年生のころ、山野は地元、千葉県柏市の居酒屋でアルバイトをしていた。

「市内の古着屋さんや一軒家カフェのスタッフが常連さんだったんです。彼らが言うには『いいものを仕入れて都内よりも安く販売しているのに、お客さんが来ない』って」

山野には思うところがあった。自身、洋服を買うのにわざわざ原宿まで出かけていた。地元の柏におしゃれなショップやカフェがオープンしたことは、自分も仲間も知らなかった。

「そこに情報の非対称性を感じたんですね。どうにかして『解消できないかな』と思ったのが始まりです」

柏のフリーペーパーを創刊したい、熱く語る山野に、しかし、周囲の反応は冷ややかだった。

「批判しかされませんでしたね。『学生にはムリだよ』『フリーペーパーなんてできないでしょ』『やめたほうがいい』。いま思い返すと逆に面白いくらいなんですけど、基本的に人間って、変わることよりも現状の生活を守りたいというニーズのほうが強いみたいで。変えようとする人が出てくると、良かれと思ってなんですが、変えないようにアドバイスするんです(笑)」

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実際のところ、立ち上げは困難を極めた。ショップに営業に行っても相手にされない。名刺を破られたこともある。けれど、途中でやめてしまうのは信義に反していた。どうにか1号目を発刊すると待っていたのは予想以上の反響だった。「こんな情報が欲しかった」、そんな声が届いた。自分が始めたことを喜んでくれる人がいる、山野にはそれが単純にうれしかった。やがてフリーペーパーは柏の駅前認知度60%、累計30万部を超える媒体へと成長する。

「震える足で踏ん張ってみたんですよ。そうしたら、できた。できないって言われるようなことでも、やってみれば意外とできるんだなって」

3年で独立する、そう決めてリクルートに入社

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学生起業家となった山野だが、このときの手取りはせいぜい10万程度。経費のこともよくわからず、持ち出しも多かった。2007年の卒業後は事業を譲渡、自身はリクルートに就職する。

「思いを持って立ち上げた事業なので、かなり迷ったのですが、その後の展開を考えたとき、拡張性が見出だせなかったんです。柏の次は「松戸」、その次は「流山」って横に広げるくらいしか(笑)。インターネットが一気に浸透し、グローバルで情報の拡散性が、みたいな話になっている時代で、それはどうなんだろうと疑問があったのは事実ですね。もっといいやり方があるはずだし、もっと学ばなきゃと思う気持ちも強かった。3年間会社で学んでから、再び独立しようと決めました」

いわく、生意気でストイックな新人だった。「人よりも3倍働いて、人よりも3倍の能力を身に付けよう」と決め、そのとおりに行動した。3年目には新人にして新規事業部に抜擢。だが、上司はのちに山野のその構想を知り激怒することになる。

「『半年後には独立します』、そう言ったら『は?』と。そりゃそうですよね。上司からするとリスクを背負って引き抜いてくれたんですから。実を言えば、仕事も楽しかった。給与だって安定していましたし。だからといって、このままリクルートの看板を背負ってあぐらをかいてしまう自分を想像すると、自分らしくないなと。『3年で独立する』と決めてきたわけで、それをしない選択は自分の大義ではないと思いました」

モノがあふれる世の中で「余暇をいかに過ごすか」に着目

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2010年5月、山野はリクルートを退職した。彼が突き抜けていたのはこのとき、事業のアイデアは「なかった」という点だ。先行きがまったく見えないなかで再度、起業家としての一歩を踏み出した。

「バカと紙一重ってことです(笑)。しばらくは知人の会社でコンサル業をやりながら、事業のアイデアを練っていましたね」

目指すべきはこれから必要とされる分野、すなわち成長産業であること、世の中にない事業であること、誰かの課題解決になるようなこと。後者2つはフリーペーパーと出発点は同じ。さまざまな産業を分析し、最終的に着目したのが「遊び」や「余暇」の分野だった。日本はモノには満たされているけれど、「余暇をいかに豊かに過ごすか」というコト領域はほとんど考えられてこなかった。そこに兆しがあると感じた。この分野のニーズが大きくなってくると同時に、課題が増えてくると考えた。

「余暇の過ごし方の代表と言えば旅行ですが、僕自身が友人や知人100人にアンケートを取ったところ、『旅先で何をしていいのかわからない』という回答が9割にも上ったんです」

これは開拓のしがいがありそうだ――。「asoview!(アソビュー)」の始まりだった。

後編へつづく>>

プロフィル
山野智久(やまの・ともひさ)
1983年生まれ。明治大学法学部卒業。学生時代に千葉県柏市の地域情報を発信するフリーペーパーを創刊。累計30万部を発刊した。2007年株式会社リクルート入社。コンサルティングや新規事業の立ち上げを経験した後、2011年に独立。アソビューの前身となるカタリズム株式会社を設立。日本最大の遊びのマーケットプレイス「asoview!(アソビュー)」を運営する。

Photograph:Kentaro Kase
Text:Mariko Terashima

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