旅と暮らし

たかが一杯、されど一杯。
ならば「ソーシャルグッドロースターズ 千代田」のコーヒーはどうか

2019.01.23

たかが一杯、されど一杯。<br>ならば「ソーシャルグッドロースターズ 千代田」のコーヒーはどうか

一杯のコーヒー。私たちはどこで、いくらで、それを享受しているだろうか。そしてその支払いはどこへ渡るのだろうか。そんなことを考えるきっかけになる、あるコーヒーロースターがオープンした。それが「ソーシャルグッドロースターズ 千代田」坂野拓海さんが代表を務める、スペシャルティーコーヒーの焙煎を行う福祉作業所である。

「障がいをもつ方の仕事の選択肢を増やしたい。それが福祉施設としてコーヒーロースターを立ち上げたきっかけです。私もみなさんも、それぞれ紆余曲折があっていまの仕事に就いているわけですが、障がい者にはその選択肢があまりにも少ない。それはすごく残念なことだと思ったんです」

なかでもコーヒーにスポットを当てた理由は、「コーヒーに関わる人が実に楽しそうに働いているから。まぁ、完全に思いつきです」と笑う。だが、指導スタッフ募集で、ある人物との出会いもあった。それが現在、店舗運営責任者として活躍する山田孝幸さんだ。

「あまりに目を輝かせてコーヒーについて語るので、この選択も間違いではなかったなと。彼が感じるやりがいやワクワク感を、障がいをもつスタッフにも循環できたら、それこそが福祉の本質なのでは思ったんです」

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店舗運営責任者の山田さん
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“ローストマスターズチームチャレンジ 2018”において「至高の1杯」に選ばれた

障がい者が思わぬ才能を発揮することもある。発達障害を抱える集中力の高い青年が、豆と対話しているのか、コーヒーのドリップに光るセンスを発揮したりするのだ。

「でもそれは障がい者だからではなくて、人の個性や特性のひとつだと考えています。例えばずっと働いてくださっている鈴木俊太朗さん。彼には生豆の欠点豆除去からドリップバッグの製作までいろんな作業をお願いしていますが、いちばんの才能は明るい笑顔。彼がいることで空間に温かみが増す。誰にでも宿る個性や特性がここでゆっくり、じっくりと伸ばされて、最終的には仕事を通じて多くの人にその能力が知られるといいなと。僕はその手助けをしているだけです」

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    鈴木さんの笑顔にみんなが惹きつけられる
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    ドリップバッグのシール貼りはみんなで行っている

コーヒースタンドで提供する豆はすべてスペシャルティークラスのものを使用。障がいのあるスタッフがダメージのある豆をていねいに取り除いてから焙煎する。何よりこだわったのがその機械だ。導入したのは日本に8台のみというオランダのギーセン社製。半熱風方式で焦げや苦味がつきにくく、豆本来の香味成分が引き出される。手間暇かけたその一杯を味わってみると、爽やかさとうま味を感じる。じんわりと体に染み入り、ゆっくりと2杯目まで楽しみたくなる味。まるでだしのようだ。

「私たちのコーヒーの主人公は人。豆をつくる人、焙煎する人、ドリップする人、何より味わう人。ここはオフィス街に近いので、毎日飲みたくなるテイストを目指したんです」

ここで味わうべきはそれだけではない。貧困国の生豆生産者から高品質な豆を適切な価格で購入しているので、原価が3割にも上る。そして残る7割の利益は施設で働く障がい者にすべて還元される。おいしいコーヒーを味わいながら、同時に社会貢献がかなう。それは至福の一杯になるのではないだろうか。

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「いま、企業とのコラボレーションや千代田区の再開発地区への出店など、さまざまな話があります。これからもコーヒーを通じて、障がい者が活躍できる場所を少しずつ広げていきたいですね。余談ですが、鎌倉でサーフボードを削るシェーパーの福祉施設などもどうかなと。朝4時から開けて、ビールサーバーを置いて、波に乗ってから出勤する人々を見送るような施設。理想は健常者も障がい者も関係なく、ワクワクできる職場をつくることです。でもね、当たり前ですがいちばん重要なのは働く人。計画ありきでただ進むのではなく、彼ら彼女らの成長スピードに合わせて、ゆっくり進化できればと思っています」

たかが一杯、されど一杯。ならば、“意志ある一杯”を選ぶのはどうだろう。それが社会を、自分の生き方を、変える力となるかもしれない。

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厳選したスペシャルティークラスの豆のみを使用する
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ドリンク、豆のほか、ドリップバッグのセットも販売している
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広々としたテラス席

Photograph:Ari Takagi
Text:Maho Honjo

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