旅と暮らし
思いの継承と、その境地を巡る旅【前編】
2019.02.01
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マセラティの人気SUV「レヴァンテ」に新たにラインアップされた「GTS」と「TROFEO(トロフェオ)」。スーパーカーの驚異的スペックを宿しつつ、あくまでマセラティの哲学である「グランドツアラー」として仕上げられている。そんな欲張りなモンスターSUVをパートナーに、箱根・伊豆を巡る至高のドライブへと出かけた。
ジェントルなモンスター
サーキットで培われたスポーツカーとしての走りに、優雅さと快適さを融合させ、「グランドツアラー」というスタイルを貫きつづけるマセラティ。ここ数年は、エポックなニューモデルが続々と登場し、日本のマーケットにおいても心境著しい。
その勢いを先導するといってもいいのがSUVのレヴァンテだ。迫力とつやをたたえたデザインに官能的なエグゾーストノートというマセラティ独自の美学をまとう、ほかの高級SUVとは一線を画す存在は、マセラティブランドの新規オーナー獲得にも貢献しているという。
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今回、国際試乗会の舞台となったのが日本。単にスーパーレヴァンテの高性能に触れるだけでなく、箱根から伊豆・修善寺を巡る優雅で刺激的な旅を通して、「マセラティの世界」を心ゆくまで体験することとなった。
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試乗会のブリーフィングが行われたのは、東京・丸の内の「アマン東京」。高層ビル群を眺めながら、スタイリッシュな空間で、「GTS」と「TROFEO」に搭載された最新テクノロジーの説明を受ける。その後、場面はドラマチックに転換。神奈川県の小田原城の敷地内にある「報徳二宮神社」へと移動し、新型レヴァンテと対面となる。
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まずは「GTS」に乗り込み、壮大な景観とダイナミックなワインディングが連なるターンパイクを走る。背中を押されるような圧倒的なパワーを感じながら、シャープかつ安定した挙動でタイトなコーナーを涼しい顔で駆け上がる。
搭載するV8エンジンはフェラーリと同じマラネロの工場で手作業によって組み立てられており、マセラティのフラッグシップカー「クアトロポルテ GTS」専用とされてきた3.8リッターV8ツインターボエンジンを、大胆かつ知的なチューンによってさらなる境地へと進化させたもの。最高出力550ps、0-100km/h加速4.2秒、最高速度292km/hという途方もないパフォーマンスに彩られたモンスターマシンである。そしてクーペのごとき流麗でスタイリッシュなシルエットもレヴァンテならではの魅力である。
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パワーアップを図ると同時に、SUVとしての最適なバランスにアップデートされ、フロントとリヤの重量比も約50:50という理想形。大パワーに応えるための剛性強化による重量増も最小限に抑えられ、フルサイズのSUVながらパワーウェイトレシオ(1馬力が支える車重。数値が低いほど加速性能が高い)3.9kg/hpという驚異的な数字を誇る。このスーパースペックがもたらす軽快な運動能力も心地よい。
さらに2,500~5,000rpmという広い回転域において730Nmの最大トルクを発揮するので、普通に運転していても、極上のパワーによる爽快なドライブフィールに包まれる。
「550馬力、最高速度292キロ」、この限界性能を発揮する環境は現実にはサーキットしかないが、ゆったりと流していても、思いのままの名馬のごとく、いかなる状況でも車を操るのが楽しいという、スーパーカーの奥深き「悦」を早々に味わうことになる。
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卓越した走行性能と「グランドツアラー」としての資質をより確固たるものにすべく、エレクトロ二クスの面でも精緻(せいち)なリファンが施されている。「Q4インテリジェントAWDシステム」は通常100%リヤドライブで走行しながら、ハードな路面環境やトランクションが失われた際には、瞬時(150ミリ秒)にフロントとリヤのトルク配分を0:100から50:50へとシフトさせる。SUVの利便性を享受しつつ、リヤドライブならではのスポーツカーと上質な高級車の走りを楽しみ、かつ安全で安定したドライブが担保されているのだ。
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そんなインテリジェントで快適なドライブに浸りながら、ターンパイクを一気に駆け抜けて、芦ノ湖へ。芦ノ湖からは湖畔に伸びるタイトなコーナーが続く一般道ルートを進むが、ここでもまた優雅な舞のごとくスムーズな挙動を披露。加えてSUVの高いアイポイントはやはり自然を眺めながらのドライブにはベストマッチで、車両感覚もつかみやすくストレスも少ない。
引き継ぎ、高められていく思い
気がつけば第一の目的地、仙石原の森の中にたたずむ「俵石閣」に到着し、ランチタイムとなる。開業は大正3年という100年以上に及ぶ歴史を誇る旅館で、昭和の初めに東京・大森の地から移築された数寄屋造りの伝統建築を有する。多くの著名な芸術家や文化人にも愛された精巧な加飾が施された日本建築の中で、天皇皇后両陛下の料理を担当した経験も持つ、児玉芳信料理長が手がける日本料理を堪能する。
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昼食の後は、凛(りん)とした様式美をたたえた和の空間に、グラフィカルなレヴァンテのデザインワークがあしらわれたプレゼンテーションルームへと移動。テクノロジーとの折り合い、タイムライン、マーケット分析など多くのタスクは存在するが、まずは美しい線を引くというデザインを第一歩とする姿勢が、マセラティの美の世界の源となっていることを知る。今回の「GTS」と「TROFEO」においても、エクステリア、インテリアの両面でさらなる洗練を追求したアップデートが施されている。
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レヴァンテのデビューは2016年だが、V8エンジンの搭載アイデアはそれ以前から温められていたものだという。それもマセラティ本社に伝えることなく、モデナのテクニカルセンターのスタッフたちが、レヴァンテのプラットフォームを使ってパフォーマンスの限界を試そうと独自に進めていたプロジェクトなのだ。
美しいデザインと技術への飽くなき追求。デザイナーとエンジニア、双方の熱い思いがレヴァンテを生み、今回の2つのモデルの誕生につながっているのである。
後編では「TROFEO」と巡る、至高のドライブ旅の後半をレポート。
<データ>
MASERATI LEVANTE GTS
エンジン:V型8気筒ツインターボ
総排気量:3,799cc
最高出力:550ps
0-100km加速:4.2秒
トランスミッション:8速AT ¥18,000,000円(消費税込)~
全長5,020mm 全幅1,985 全高1,700mm
問/マセラティコールセンター 0120-965-120
www.maserati.co.jp/
俵石閣 NEST INN HAKONE
神奈川県足柄下郡箱根町仙石原1290
0460-83-9090(要予約)
https://nestinn-h.co.jp/
https://hyosekikaku.jp/
Edit&Text:Jun Nemoto