お酒
ニューヨークはワインもイケてる!
自宅で飲みたい白「レヴィーンズ・ドライ・リースリング 2013」
【今週の家飲みワイン】
2019.02.08

インターナショナルに活躍するソムリエの梁 世柱さんによる、ワイン指南。自宅で気軽に飲める、お手頃でいて本格派な一本を紹介する。
「広大なアメリカという国をひとつのワインエリアとしてくくり、ワインを選び、語ることはとてもできない」と言う梁さん。アラスカを除く、ほぼ全州でワインを造っているワイン生産の盛んな国であるが、商業的なワイン産地として成り立っているところは決して多くはない。産出量でいえば、名実ともにトップがカリフォルニア州、続いてオレゴン州、3位は東に移ってニューヨーク州である。
日本人にとってニューヨークといえばマンハッタンだが、それはシティーの話であって、ニューヨーク州は、北はカナダと国境を接するナイアガラの滝までと、飛行機で3時間もかかる広大な州。そのなかでワインが造られているのは、北部のフィンガーレイクの周辺と、シティーの南側に位置するロングアイランドの2カ所がメインだ。
ロングアイランドはお金持ちが趣味でワイン造りをしている感が否めないというのが梁さんの見解だが、逆にフィンガーレイク周辺は、家族経営の本当に素朴なワイナリーが多いのだそう。南北に細長い湖がいくつも並ぶことから、フィンガーレイクと呼ばれるそのあたりは、アメリカでは数少ない冷涼気候のエリアだ。食のライト化に伴い、ワインも軽やかなものが求められている現在、フィンガーレイク周辺で造られてきた、酸のきれいで軽やかなワインは、時代が求めるテイストと合致したのである。
「冬はものすごく寒いとはいえ、湖の水深がとても深いために、気温が一定に保たれ、また、ほんの少しの温暖化でぶどうが作りやすくなりました。そこに目をつけた造り手が新たに流入してきたこともあり、フィンガーレイクのワインのクオリティーがぐっと上がったんです。それに伴い、これまでは州内で消費されることが多かったワインが、海外からも注目を集めるようになりました。また、『イレブンマジソンパーク』や『ブルーヒル』などのトップレストランにもオンリストされるなど、好循環が好循環を生んでいる状態に入ったのですね」と梁さんは、フィンガーレイク人気を説明する。

ニューヨークワインの1本目に紹介するのはフィンガーレイクの代表品種である、リースリングだ。
「フィンガーレイクは世界でも数少ない、リースリングの適地(おいしいリースリングができるという意味で)と言えます。リースリングといえば、ドイツ、オーストリアが圧倒的に有名ですが、ニューヨークのそれは、その2カ国ほどシリアスになりすぎない、どこかゆるさがある造りがなんとも魅力なんですね。レヴィーンズは、この愛らしいラベルの絵のように、見渡せるほどのほど小さいぶどう畑の真ん中にぽつんとある、家族経営の本当に小さなワイナリー。甘さを控えた端正な造りが好きで、ニューヨークのレストランで働いていたときからよく売っていたワインです。価格がまだまだ抑えめなのも大きな魅力です」と言う。
当主であるモルテン・ハルグレンさんはフランスのプロヴァンス出身。ワイナリーを経営する家に生まれ、モンペリエの醸造学校で学んだのち、メドックで経験を積み、その後、フィンガーレイク最古の醸造家の元で働き、2000年にフィンガーレイクに自身のワイナリーを設立した。

ニューヨーク州のワインの魅力をそのまま体現したような、酸味と果実味のバランスのよい、クリーンだけれどふくよかさもあり、心がほどけるような包容力のあるワインは、家で白を飲む機会が多い人なら、ぜひ試してほしい。「家ではこんな白が飲みたいんだよな」と思わせる一本だ。
Photograph:Makiko Doi