紳士の雑学

一枚の生地から最高の着心地を。
カッティングこそビスポークテーラリングの神髄

2019.03.13

一枚の生地から最高の着心地を。<br>カッティングこそビスポークテーラリングの神髄

ビスポークにおけるCutting(カッティング)とは、単に生地を裁断するだけではなく、断片を集めて組み立てる行為までを指す。特にオーダーメイドでは顧客に最高のフィット感を供するために、裁断の技術が8割と言われるぐらいの重きを持つ。

19世紀末発祥の紳士服の老舗、ダンヒルでは現在でもビスポークを担当する責任者をヘッドカッターと呼ぶ。現在、その任を担うマーティン・ニコールズ氏は「顧客の採寸はテイラーではなく、カッターが行います」と語る。顧客と対話し、その人が求めるもの、またその人をいちばん美しく見せるスタイルを見出す。仕上がりの方向性を決め、型紙をつくり、素材にハサミを入れる。

「ダンヒルでは、その後の縫製やプレッシング(生地を立体的に仕上げるアイロンワーク)、ボタンつけなど、細分化された各過程はそれぞれの専門職人が行うことで、各工程での仕上がりをベストなクオリティーへと高められます。このチームを統括し、監修するのがヘッドカッターの役割です。家づくりでの建築家の存在に近いでしょうね」

ダンヒルでは、本場サヴィルロウですら現在では簡略化されるような細かなディテールまでも、伝統的な手法を貫き、それどころかさらに上を行くダンヒルクオリティーを提供する。たとえば縫製の過程で、強度が必要な工程ではあえてマシンを取り入れてみるなど、品質を高めるための工夫と努力を惜しまない。

「直接肌に触れるところ、たとえば縫い目などは手縫いです。動きでテンションがかかると生地自体に負担がかかります。手縫いで適度に緩く調節し、糸からほつれるようにすることで、服へのダメージを最小限に抑えながら、美しいシルエットを保ちます」

最近、男性ファッションでは英国調のクラシックへの回帰が趨勢になっている。ただそれは単なるトレンドではないようだ。

「イギリスにはドレス、スポーツ、アウトドアなどのライフスタイルに根付いた着こなしの楽しさがあります。それぞれのシーンで男性の体を美しく見せる英国ならではの仕立てが見直されているからでしょうね」

ダンヒルが提案するこうしたオーダーメイドの神髄は、日本でも銀座本店で体験できる。ここには日本でただひとりのビスポークスペシャリストが常駐し、ニコールズ氏が来日するトランクショーも定期開催している。完成品がもたらす唯一無二のフィット感と最高に美しい自分へと導くスタイルの根底にあるのは、まさに優れたカッティング。その切れ味をぜひ堪能してみたい。

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袖丈は肘を曲げた状態でも採寸。完成後に、動きに合わせたフィット感にまで高めるためのチェック・メジャーメントの過程になる。
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生地は2500種類以上をラインナップ。春夏にぴったりなトロピカルやアイリッシュリネンも揃えている。
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ボタンも上質なものが使われる。ここまで厚みのある白蝶貝は珍しい。
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裏地に凝るのも英国紳士のたしなみ。内ポケットも丁寧なハンドメイドで仕立てられる。
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生地を保護するため、サヴィルロウの伝統を受け継ぎ、袖のボタンホールの裏側にはフェルトをあしらう。
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スーツの仮縫い状態。これを顧客が羽織って調整しつつ、フィット感を高めていく。

問/ダンヒル 03-4335-1755

Photograph:Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT)
Text:Mitsuhide Sako(KATANA)

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