旅と暮らし
高みを目指す人、橋本マナミ
「ハリウッド流演技術」で女優力を鍛える
2019.04.11
「もし私を使っていただけるのであれば、120%で返したい。だから今の私じゃまだまだ足りない」
たおやかな語り口はそのままに、言葉は熱を帯びている。わずかでも時間が空けば、監督や俳優らが各所で開催している演技のワークショップに参加しているという。『イヴァナ・チャバックの演技術』(白水社)は、あるワークショップで紹介された一冊。数々のハリウッド俳優を育てた演劇コーチによる演技論。脚本全体においてその役柄が求めているものは何か、自分の体験を演技にどう生かすか……350ページ超にわたりびっしりと書かれている。とっつきにくいこの本を、橋本は、2017年公開の映画『光』の撮影に備えて読んだという。この作品では、日常から逃避するように不倫に走る一方で、深い闇を抱えた夫を受け入れる主婦という難役に挑んだ。
「演技にはいろいろなメソッドがありますが、ひとつより複数を知っておいたほうがいいかなと思って、こうした本を読んで参考にしています。ワークショップでは怒られることもあるけど、映画、舞台、さまざまな俳優さんが参加していて発見もあるし刺激を受けますね。現場で学ぶことももちろんたくさんありますが、毎日バットを振っていないと、急にその場に立たされても不器用だからうまくできないんです。毎回後悔していますよ。『ああすればよかった、こうすればよかった』って。完成した作品を見られないくらい。もう終わったドラマのセリフを、やっぱりこっちのほうがよかったんじゃないかって練習することも」
努力は隠す人も多いが、「努力しています」とオープンに語る。
「珍しいですよね(笑)。でも下の下だからこそ、努力することでいい作品にしたいと思うし、よくできる人ももっとやったらもっと素晴らしいものになるかもしれないから、隠す必要はないと思うんです。どうして隠すんでしょうか。海外の俳優はいろいろなスクールに行くけど、日本はそういう文化がないというところもあるかもしれません。でも映画産業が急成長した韓国の俳優の本気度を見ると、日本の映画ももっと盛り上げていくために、そういう努力や勉強が求められる時代になっていくんじゃないかと思います」
努力は着実に実を結んでいる。NHKの朝ドラ『まんぷく』では、恋愛経験ゼロのウブな女性を演じ好評を得た。
「キャラと真逆の役だったので反響がすごくて。幅が広がって、しかも視聴者の方をいい意味で裏切ることができる役をいただけて感謝しています。この経験を今後につなげていきたいですね。安藤サクラちゃんとご一緒できたこともうれしかった。映画『万引き家族』でのこぼれ落ちるような感情、素晴らしいですよね。ああいう演技を見ると、やっぱり嫉妬するんです。『ああいう芝居ができる女優になりたい』って」
努力家に加えて読書家でもある。演技論だけでなく、趣味として多彩なジャンルを読む。購入はネットではなく書店。棚を見て気になったものをまとめ買い。
「以前は小説、哲学書、自己啓発書…… と何冊か持ち歩いて並行して読んでいましたが、最近は読書の時間がなかなか取れないこともあって、『超訳ニーチェの言葉』(白取春彦著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)だけ読んでいます。プライベートは電車で移動しているんですけど、なるべく本を読むように心がけていますね。いちばん好きなのは小説。百田尚樹さんの作品はいっぱい読みました。百田さんはぶっ飛んだ方なんですけど(笑)、本は面白いですよ」
映画化するなら自分が演じたいと思う小説もあるのでは……。
「そのときは自分で売り込みに行きます!」
橋本マナミ(はしもと・まなみ)
1984年、山形県出身。タレント、グラビアアイドルとして脚光を浴びる。一方、女優としても活躍し、映画やドラマに多数出演。NHK朝の連続テレビ小説『まんぷく』では保科 恵役で幅広い支持を集めた。さらに今年は『マスカレード・ホテル』はじめ3本の映画のほか、舞台『熱海五郎一座』への出演が決定している。
橋本マナミさんが読んでいる本はコチラ
『イヴァナ・チャバックの演技術 俳優力で勝つための12段階式メソッド』
橋本マナミさんが映画『光』で難役に挑む際に参考にしたという書籍。ブラッド・ピッドやハル・ベリーなど、多くのハリウッドセレブが師事するカリスマ演劇コーチの著書の日本語版。人間の深層心理への洞察力に基づいた「ハリウッド流演技術」は、14カ国以上の言語に翻訳され、俳優だけでなく幅広い層から大きな支持を集めている。
著/イヴァナ・チャバック、訳/白石哲也 白水社 本体価格¥2,500
Photograph:Sunao Ohmori(TABLE ROCK.INC)
Styling:Nozomi Yoshinaga
Hair & Make-up:Masanori Enomoto
Text:Yukiko Anraku
※アエラスタイルマガジンVol.42からの転載です