旅と暮らし

いま、心に余裕はありますか?
映画『ビューティフル・ボーイ』にみる心の余白の重要性
[美しき映画ソムリエ]

2019.04.12

東 紗友美

いま、心に余裕はありますか?<br>映画『ビューティフル・ボーイ』にみる心の余白の重要性<br>[美しき映画ソムリエ]

4月12日に公開される父と息子の実話をベースにした映画『ビューティフル・ボーイ』。クリスタル・メス(メタンフェタミン)という非常に依存性の高い覚せい剤に陥っていく少年(ティモシー・シャラメ)を、ただただ見守ることしかできない父(スティーブ・カレル)。回復までの8年間の一進一退を追った、実話に基づくストーリー。

『ビューティフル・ボーイ』サブ1

映画のタイトルは、ジョン・レノンとオノ・ヨーコ の最後のアルバム「ダブル・ファンタジー」の収録曲「ビューティフル・ボーイ」から取ったという。ジョン・レノンが当時5歳だった愛息ショーン・レノンに捧げた曲は、劇中でも父親の気持ちとシンクロするように響き渡る。

この映画の特徴は人生の何に絶望し、いかにして薬物依存に陥ったのかに触れるわけでなく、ただ淡々と薬物に堕ちていく過程を映し出したつくりとなっている。本作に登場する実在の人物ニック・シェフの薬物依存に陥った数年間を数字で見ると、更生までに13回の再発と7度の入院を経ている。やはり、薬物からの脱却の難しさというものがうかがえる。

『ビューティフル・ボーイ』サブ2

さて、この作品を語るうえで重要なのは、薬物依存に陥っていく少年を演じるティモシー・シャラメという存在。レオナルド・ディカプリオの再来との呼び声も高く、弱冠22歳にして昨年、アカデミー主演男優賞(君の名前で僕を呼んで)にもノミネートされた美しき若手演技派青年。

「同世代の俳優のなかでティモシーがダントツであることがこの映画で証明される」とロサンゼルスタイムスが報じたように、世界で最も注目されている俳優のひとり。彼をいま、知っておいて損はないであろう。20代前半の彼。その成長をリアルタイムで見ることができるのは、大きな喜びだと多くの映画人に言わしめるほど旬な存在だ。

『ビューティフル・ボーイ』サブ3

例えば、アラン・ドロンの『太陽がいっぱい』で放たれた圧倒的な存在感のように映画を見る価値のひとつに、スターの魅力によってスクリーンに引き込まれるという体験がある。その要素を持ち合わせているのが、『ビューティフル・ボーイ』でのティモシーだと筆者は思う。ナイーブで、触れてしまえばまたたく間に壊れてしまいそうで……。かれんな花を思わせる繊細な少年の姿を真空パックしたかのように閉じ込めている。

『ビューティフル・ボーイ』サブ4
『ビューティフル・ボーイ』サブ9

彼の極限状態の演技は、愛する人が堕ちていく様子を目の当たりにしながらも、ただただ立ち尽くすことしかできない、迫り来る破滅にあらがうことができない瞬間を疑似体験させる怖さがあった。薬物依存をテーマにした映画ではあるが、単なる説教映画になっているわけではない。人間の光と影に触れつつも、徹底した家族の愛の物語に仕上がっているので最後にはひとさじの希望の光が垣間見え、ふっと体が軽くなるのであった。

そして、この映画はある気付きを与えてくれる。それは“心が悲鳴をあげるまえに自分を解放する方法を知っておかないといけない”ということ。よく笑うことだったり、よく眠ることだったり、誰かを愛することがそれにつながるかもしれない。心に余白を生む方法は人それぞれではあるが、確かなことは自分を解放してあげられるのは、自分しかいないということ。自分を見つめ直し、心と体を緩やかにしてくれるものが自分にとって何なのか。よく知っておくべき必要があるのだろう。
自分自身をよく理解し、自分の求めている幸せが何なのか理解できれば、へたに多くを求めずに済むし、道に迷うことも少なくなるのではないだろうか。

人生に対し、迷う瞬間は誰にもある。でも塞ぎ込むのであれば、具体的に悩む時間をあらかじめ決めるおくことも重要。悩んでも解決できない悩みも、人生には多い。延々と頭を抱えているのは実際かなり無意味だったりもする。思いつめてしまうときがあるのは仕方がないけれど、どこまでも落ちないように切り上げるタイミンを定めておくことは、悩みの底なし沼に堕ちていかないためにも大切なことなのかもしれない。

薬物からの脱却は、改めて難しいことなのだと身に染みて感じるのだった。

『ビューティフル・ボーイ』サブ6

『ビューティフル・ボーイ』
4月12日(金)より TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開
配給:ファントム・フィルム
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ
Francois Duhamel

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