お酒
甘さを残したドイツワインの最高峰
リタ・ウント・ルドルフ・トロッセン
【今週の家飲みワイン】
2019.04.26
インターナショナルに活躍するソムリエの梁 世柱さんによる、ワイン指南。自宅で気軽に飲める、お手頃でいて本格派な一本を紹介する。今月は「ドイツ」のワインだ。
ドイツワインの4本目は、その本領とも言えるエレガントで繊細な、やや甘口のリースリングワインだ。
「前回まで、ドイツワイン=甘口という認識は時代遅れ、と述べてきましたが、甘口でこれだけ素晴らしいワインを造れる国もまた、ドイツをおいてほかにありません。特にその銘醸地がモーゼルです。リースリングの豊かな香りやエレガントな甘みのなかに、ぴんと張り詰めたミネラルと骨格を持つ、このスタイルのワインを生み出すための、神に祝福された地がモーゼルなのです」と梁さんは言う。
醸造所のあるキンハイム-キンデル村は、モーゼル川中流域に位置する、古くはローマ人やケルト人がぶどうを栽培してきた歴史のある土地だ。2000年も前からモーゼルの粘板岩の土壌からは、心地よいミネラルと繊細な酸をもつワインができることが知られていたわけだ。
リタ・ウント・ルドルフ・トロッセン醸造所はキンデル村に1967年創業。1978年からは古くからの家族経営の醸造所から方向転換し、ビオディナミを採り入れた高品質なワイン造りを目指した。オーガニックの先進地域ではなかったモーゼルで、いち早く自然なワイン造りに取り組み、機械や人工技術、肥料を使わない、自然に任せたぶどう栽培に力を尽くすと同時に、SO2の添加を最小限に抑える試みも続けている。
「トロッセン夫妻はモーゼルのなかではかなり異色の造り手ですが、モーゼルのシュペトレーゼをリードしていることは間違いありません。シュペトレーゼとは?と思う方も多いですよね。ドイツワインの素晴らしさが伝わりにくい理由のひとつが、このなじみの薄いワイン用語です。シュペトレーゼとは、遅積みのぶどうを用いるやや甘口でエレガントなワインのことで、ドイツワインの格付け用語。ファインヘルプとは、洗練された辛口の意味です。つまり、夫妻の造るこの一本は、リースリング100%でやや甘口かつ、キリッとした辛口の側面ももっているということを表しています」
「同じリースリングでありながら辛口から甘口まで自在に醸造できることが不思議に思えるかもしれませんが、シュペトレーゼは、収穫解禁日より1週間以上遅らせた遅積みのぶどう、つまり糖分のより高いぶどうを、完全発酵までいかない状態で止めて甘みを残す方法で造られます。つまり、ぶどうの糖分を酵母が分解してアルコールを生成する過程で、糖分を分解しきる前に発酵を止めれば、糖分が残るというわけです。ただ、どんなぶどうでもこれができるのかというとそうではなく、モーゼルの冷涼な気候と、ミネラル豊富な粘板岩のテロワールで育ったリースリングが大変に向いているのです」と説明してくれた。
食後酒としてチーズやクリームと楽しむにはもちろん、大きめのエビを使った上等なエビチリなどにも最高に向くと梁さんは言う。また、リタ・ウント・ルドルフ・トロッセンのワインはnomaが初めて、世界のベストレストン50で1位になった際の記念のディナーのワインにも採用されたり、NYの最高峰レストラン「イレブンマジソンパーク」のワインリストに多数オンリストしているなど、世界的な評価の高さは揺るぎないものがある。最高峰のシュペトレーゼの緊張感のあるエレガンスをぜひ、味わってもらいたい。
今週の家飲みワイン【まとめ】はこちら
Photograph:Makiko Doi