旅と暮らし
仕事帰りに、落語のススメ。【前編】
2019.07.05
今、落語がブームである。ある人は、寄席は仕事帰りのビジネスマンのユートピアと言う。ある人は、寄席が心のオアシスとも評する。働く大人を魅了する、大人のたしなみ。いざ、毎日が楽しくなる落語の世界へ。
仕事帰りにふらり。
気軽に楽しめる大人のたしなみ
300年の歴史をもつ古典芸能で、現代の日常生活と地続きで楽しめる唯一のものが落語だ。仕事帰りにふらりと落語を聴きに寄席に立ち寄る。これは歴史的にも正しい落語の楽しみ方なのである。
江戸時代、庶民の娯楽の華であった歌舞伎は昼間しかやっていない。金もかかる。江戸庶民の多くを占めていた職人たちは、夕方、仕事を終えてひと風呂浴びてから近所の寄席に出かけて落語を楽しんだ。アフターファイブの定番は落語を聴くことだったのである。
江戸時代、最盛期には200軒もあった寄席が、東京だけでも4軒も残ってくれているのは奇跡だ。七面倒くさい予約だの、開演時間までに仕事を終わらせなければ、なんてこともない。仕事の都合に合わせて、ふらっと落語を聴きに寄席に立ち寄る。江戸から今に続く最高のリフレッシュタイムだ。
【十九時】
寄席は昼の部( 12時前後開演)と夜の部( 17時前後開演)に分かれていて昼夜入れ替えなしのところが多い。半日もいてあきないのは、昼夜合わせて30人近い落語家や色物と呼ばれる紙切り、漫才、太神楽などの曲芸、手品などの芸人がひとり15分ほどの持ち時間で次から次へと登場するからだ。これはすべて昼夜それぞれの最終出番を飾るトリ(主任)の落語家の噺(はなし)をたっぷりと30分聴いてもらうためのシステム。
お目当ての師匠の落語だけ聴きたい、こんな時間になってしまったが1、2時間楽しみたい、という客のために各寄席で遅い入場のための割引をしているのがうれしい。
【十九時四十分】
昼夜ともに「お仲入り」と呼ばれる10分ほどの休憩があるが、いつでも気楽に食事をとりながら笑い転げることができる。
古色蒼然(こしょくそうぜん)とした末廣亭の桟敷で聴くと古典落語に息づいている江戸の匂いが高座から漂ってくる錯覚さえ覚えるが、マクラ(落語の前の雑談)の時事ネタなどで大爆笑をして、ここが「今」なのだと知る。
都内で落語が楽しめる落語定席
「アエラスタイルマガジンVOL.43 SUMMER 2019」より転載
Photograph:Kentaro Kase
Styling:Akihiro Mizumoto
Hair&Make-up:Masakazu Igarashi(Aster)
Text:Komi Morita