旅と暮らし

ギャラリストに聞きました。
ビジネスマンが打ちのめされる、破天荒でオモシロイ作品は?

2019.07.08

「ANOMALY」のディレクターの山本裕子さんと浦野むつみさんに、ビジネスマンの思考の常識を変える破天荒で面白い日本人アーティスト・作品をレビューしてもらい、作品を楽しむためのヒントを聞いた。

「ビジネスマンは感性が低いって思っている人が多いけど、そんなことはない。それが必要とされていない社会であるかのように見えているだけで、実際は感性豊かな人が多いのは確か。ギャラリーに来られたお客さんと話していて、私たちやアーティストが気づけない“なるほどね”と思う見方をしているのは、ごく一般の人のほうが圧倒的に多い」(山本)

「作家の横山裕一さんに教えてもらい実践している鑑賞法ですが、ひとつくれてやる!と言われたらどれをもらおうか?と考えながら展示を見るとすごく新鮮。ひとつだけ選ぶのは意外と難しくて、楽しみながら自分の価値基準を確認できると思います」(浦野)

飢餓海峡/篠原有司男

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©Ushio + Noriko Shinohara
Photo by Keizo Kioku, James Ware Billett
Courtesy of ANOMALY
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60年結成の反芸術運動「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ」の主要メンバーとして日本美術界に衝撃を与え、御年87歳になるいまもニューヨークで反骨的に活動中。日本で初めて「モヒカン刈り」にした男としても知られ、そのモヒカンを刷毛にしてライブペインティングをしてしまうなど、半世紀にもわたって破天荒な生き方を体現する、まさに生ける伝説的アーティスト! 愛称「ギュウちゃん」として、とにかく愛されています。ボクシング・ペインティングは50年代から続く代表作。現代の閉塞した社会の空気を一掃する、とてつもなく自由なパワーがあります。

Portrait of a Woman/今津 景

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©Kei Imazu Courtesy of ANOMALY

古典の名画や博物図鑑といった誰もが知る画像からインターネットで拾ってきた写真まで、あらゆるメディアのイメージをPhotoshopで編集・加工し、再構成した下絵イメージを、改めて油絵にする手法で独特の世界を表現するアーティストです。価値があるとされているもの(名画)と、ネット上に落ちている一般的に価値のないと思われているものを同じ地平に載せ、引き伸ばしたり、指でこするような効果を与えることで、キャンバス上では同等になるといった面白さもあります。新しい価値を生み出す方法論として、さまざまな事象への対応のヒントがあるように思います。

Discovering Columbus/西野 達

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©︎Tatzu Nishi Courtesy of the Artist and ANOMALY
Photo by Tatzu Nishi, Go Sugimoto, Tom Powel
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屋外のモニュメントや街灯などを取り込んで部屋を建築し、リビングルームとして公開、あるいはホテルとして実際に営業してしまうなど、公共空間を舞台としたスケールの大きなプロジェクトで国際的に知られるアーティスト。パブリックなものをプライベートに変容させることで、私たちの日常的な観念を破壊し、鑑賞者に強烈な刺激を与えてくれます。現在の萎縮した日本社会に気持ちいい風穴を開けてくれること間違いなし! 写真の作品は、ニューヨークのマンハッタンにそびえ立つコロンブス像にリビングルームを建設したもの。

One Dollar (B43305295K)/柳 幸典

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©︎Yukinori Yanagi, Courtesy of ANOMALY

柳幸典の代表作「アント・ファーム」シリーズは、色砂で象られた国旗や紙幣の中を蟻が歩き回ることによって生まれた軌跡が印象的な作品です。蟻というアノニマスな存在によって、私たちが知らず知らずに囚われているシステムや既成概念を顕在化し、オルタナティブな視点を獲得する機会を与えてくれます。挑発的でありながら、ポジティブでユーモラスな表現が私たちの思考を刺激するのだと思います。第45回ベニス・ビエンナーレで国際的に注目され、作品はテート・ギャラリーやニューヨーク近代美術館などで収蔵。現在は尾道の離島・百島に『ARTBASE 百島』を立ち上げ、瀬戸内海を拠点に活動中。

Build-Burger/Chim↑Pom

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©︎Chim↑Pom Photo by Ichiro Mishima Courtesy of ANOMALY

卯城竜太、林 靖高、エリイ、岡田将孝、稲岡 求、水野俊紀の6人が、2005年に結成したアーティスト集団。時代のリアルを追求し、現代社会に全力で介入したメッセージ性の強い作品を次々と発表。広島の空に「ピカッ」の文字を飛行機雲で描いたり、2011年に渋谷駅の岡本太郎の壁画に原発事故の絵をゲリラ的に飾ったりと、その作品は社会の閉塞感を打破するものばかり。「公と個。容れ物と人。都市論を考えながらプロジェクトを連発してきた結果、一周回って『個が面白くないと面白い公なんてできるわけないじゃん!』」と語る彼らは、「クソみたいに誠実に開かれた、もっと『壮大な解放』は何か」を画策しています。

yamatane/淺井裕介

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淺井裕介《yamatane》Rice University Art Gallery(ヒューストン, USA)での展示風景、2014年
©︎Yusuke Asai, Courtesy of ANOMALY and Rice University Art Gallery
Photo by Nash Baker

国内外の様々な現場に赴き、その土地の土や水など身の回りの身近な素材を用い、人々をも巻き込んで、そこらじゅうをキャンバスに変えてしまう。10メートルをゆうに超える大規模な壁画を得意とし、わたしたちに絵画の持つ根源的なパワーや可能性をまざまざと見せつけてくれる。また、隙間なく入れ子状に描かれる動植物や小さな人型は、ミクロの中にマクロが存在する生物圏を表現しているかのようだ。近年の主な個展に、米国ヒューストンのRice Gallery での個展「yamatane」(2014年)、箱根彫刻の森美術館での「淺井裕介 ― 絵の種 土の旅」(2015-2016年)。また、横浜美術館での「Meet the Collection ― アートと人と、美術館」(2019年)、ヴァンジ彫刻庭園美術館での「生きとし生けるもの」(2016年)、「瀬戸内国際芸術祭」(2013-2019年・犬島)、「越後妻有アートトリエンナーレ2015」など展覧会アートプロジェクトにも多数参加している。

アポロウォーズ・スーパーマン的アトムサンダーバードバイオニックス2号/開発好明

開発好明
開発好明 2016年、ミクストメディア、サイズ可変

多摩美術大学大学院美術研究科修了、多摩美術大学非常勤講師。1995年〜96年にかけて365日の展覧会「365大作戦」を全国で行い、その模様をNHK BS「真夜中の王国」の「開発くんが行く」で放映。2002年PSI MOMA「Dia del Mar/By the Sea」。2004年ヴェネチア・ビエンナーレ第9回国際建築展日本館「おたく:人格=空間=都市」。2006年ドイツ、ニューナショナルギャラリー「ベルリン-東京、東京-ベルリン」参加。同年「越後妻有大地の芸術祭2006」、2008年イギリスのリバプール「Jump Ship Rat”POP-UP”」出品2016年市原湖畔美術館「開発好明:中2病展」。東日本大震災後、被災地におけるプロジェクトをライフワークとして継続中。「中2病」をテーマにした展覧会に見られるような、作品の日常性やゆるさ、ユーモアだけでなく、その奥に潜む社会に対する怒りや批評性に注目です。

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<浦野むつみ>(右)
白石コンテンポラリーアート(SCAI THE BATHHOUSE)を経て2007年に独立。「URANO」(旧ARATANIURANO)を設立し、様々なアーティストと協働しながら、展覧会のほか、プロジェクトやイベントなど実験的な活動を展開。2016年に東品川の倉庫街の天高のある空間に移転。既存の枠にとらわれない自由なスタイルのギャラリーを目指し、山本現代、ハシモトアートオフィスとユナイトし、2018年11月に「ANOMALY」を立ち上げた。

<山本裕子>(左)
青山学院大学大学院修了。ギャラリスト。日本の有名ギャラリーで丁稚奉公を経て、2004年に独立、文豪の花街・神楽坂のワイルドな工場街にギャラリー「山本現代」をオープン。2008年から港区白金、2016年東品川の倉庫街の巨大スペースでの活動を経て、2018年、URANO、ハシモトアートオフィスとユナイトし、ギャラリーを「ANOMALY」と改称、業界に衝撃を与えた。欧米に追従するだけでなく日本やアジアの状況を鑑み「従来のギャラリーの枠を超え、正論や常識では説明不可能な変則性を持ち逸脱する、しかしその存在を無視できない存在」を標榜。

<ANOMALYについて>
浦野むつみ、橋本かがり、山本裕子、それぞれが経営していたギャラリーが一緒になり、日本最大級の現代美術ギャラリーとして東京・天王洲にオープン。変則的でオルタナティブなアートの在り方を標榜し、多様な展示や企画を行っている。
http://anomalytokyo.com/

<<果たして、ビジネスマンにアートは必要なのか?

「アエラスタイルマガジンVOL.43 SUMMER 2019」より転載

Coordination&Interview:Masaru Ishiura(SHIKIMEI)
Photograph[P.141]:Isao Kimura(SHIKIMEI)
Text:Atsushi Kadono (SHIKIMEI)

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