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ミラノで知る、ラグジュアリーのこれからとは?
2019.07.29
伝統的なラグジュアリーマーケットで新たな世代が台頭しています。ITの技術革新によって情報化する社会やライフスタイルの変化を背景に、そのニーズや嗜好、価値観はこれまでとは異なり、ファッションばかりでなく、さまざまアイテムに新しい機能やデザイン、スタイルが求められています。
こうした変化は、一定の周期において必然であり、歴史ある名門ブランドも例外ではありません。核となる理念や技術、スタイルを変えることなく、アイデンティティーとして継承しながら時代の感性やトレンドを採り入れる。むしろそうすることで伝統に革新を注ぎ、さらに魅力に磨きをかけます。その移り変わりは、ファミリービジネスを基本とするイタリアのブランドほど顕著といえるでしょう。
名門キートンもそのひとつです。ナポリで7代にわたる服地卸を営み、1968年にオリジナルブランドとして設立。伝統的なサルトの技術と創始者の志を受け継ぐ一族によって、成長を遂げます。そして次なる世代に向けて2018年の秋冬コレクションに発表したニューラインがKNTです。これを率いるのは、ブランドCEOのアントニオ・デ・マテスさんの双子の息子マリアーノさんとウォルターさん。ミラノのショールームで、マリアーノさんに話を伺いました。
「KNTとはキートン・ニュー・テクスチャーを意味します。私たちの原点であるテキスタイルから発想し、従来とは異なる研究開発や生産プロセスによってこれまでになかった機能やグラフィック効果を生み出しています」
“フリーダム”と名づけられた新作ジャケット(写真)は、伸縮性や軽量性に加え、撥水性やしわにもなりにくいハイテク素材に、ラペルを省いた新しいデザインを採用しています。驚かされるのは、こうしたニュースタイルのジャケットはとかく斬新さが先立つものですが、どこかオーセンティックなオリジナリティーが漂うところ。
「それはサルトたちのおかげですよ。なによりもトップクオリティーの生地に、この道40年以上の職人たちが手作業で仕上げますから。クラフトマンシップであり、それがあるからブルゾンのサイドポケットのようなスポーティーさを全面に出したデザインも違和感がないのでしょう」
今季からデニムのジーンズもスタートし、これまでキートンを愛用していた顧客に加え、その次の世代からも高く支持されていると言います。マリアーノさんは現在28歳。同世代に向けて新たなブランド像を発信しています。
プロフィル
柴田 充(しばた・みつる)
フリーライター。コピーライターを経て、出版社で編集経験を積む。現在は広告のほか、男性誌で時計、クルマ、ファッション、デザインなど趣味モノを中心に執筆中。その鋭くユーモラスな視点には、業界でもファンが多い。
Photograph:Mitsuya T-Max Sada
Text:Mitsuru Shibata