紳士の雑学
勤続42年のパーソナルショッパー、
ワードローブお見立ての極意を語る。
2019.07.31
1950年代、スーツ全盛期のアメリカは、イタリアやロンドン、ドイツにテーラリングを発注していたという。そんななか、マリオ・ミラベラさんはイタリアのナポリを拠点にテーラーをしていた父にブルックス ブラザーズから声がかかったことをきっかけに家族でアメリカに移住することになった。
「私がアメリカに移住したのは2歳のころでした。中学生くらいになると9人兄弟だった私たちの兄弟げんかを避けるために誰かしらがこのお店に送り込まれるようになったんです。末っ子の私も、そんなわけでよくこのお店に来て手伝いをさせられていましたよ。荷物運びをしたり、スチームをかけたりね。当時は特にこの仕事に興味があったというわけではなくて、女の子のことばかり考えていましたけどね(笑)」
お茶目な話し口で当時を振り返るマリオさんは、現在ブルックス ブラザーズにて勤続42年目。ストアになくてはならない名物パーソナルショッパーだ。この日はぴったりフィットしたスーツスタイルにブルーのメガネとモスグリーンのダブルモンクストラップシューズという粋な組み合わせを披露していた。彼は、去年200周年を迎えアメリカン・クラシックの代表でもあるブルックス ブラザーズのなかで異端の存在として知られている。
「僕は色が好きですし、スタイルは人と違えば違うほどいいと思っているんです。マッチしすぎているのは退屈なので、必ずハズシを入れます。息子たちからも風変わりだと言われるほどですよ。普段から他の人が持っていないものを探しつづけていますし、例えばポケットも普通とは違う位置にあるもののほうがいいと思うタイプです。スニーカーとスウェットパンツだけは個人的に御法度なんですが、それ以外はなんでも試します」
そんなマリオさんは、店を訪れる男性たちに対してもパーソナルショッパーとして新しさを恐れず採り入れることを提案しつづけているという。
「まずは彼がどんなものを欲しがっているか聞いてみます。そして、そこから自分ならどうするか、その着こなしを実際にやってみせてみます。ほとんどの男性が変化を好まず安全なものを選ぶ傾向にありますが、実際に着せてみてあげると気に入ってくれますね。奥さまが気に入ってくれてご本人も納得するということもあったりね。パンツの丈をいまっぽく短めにする場合は裾をタイトにしなければならないのにワイドなままで不格好だったり、ジャケットをタイトにしすぎて太って見える人がストリートにもあふれています。正しいディテールこそが大事です。プロに聞いて、普段と違うスタイルでも怖がらず、勇気を出して実際お店で試してみてください。同じレストランに行きがちだったり、道がわからなくても聞くのを怖がって2時間後もまだ迷ってたりするのが男性ですからね(笑)」
服の着こなしにおいても、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥ということか。
Photograph:Omi Tanaka
Text:Momoko Ikeda