旅と暮らし
「指輪物語」の生みの親の前半生を描く
映画『トールキン 旅のはじまり』、衣装に注目してみた
2019.08.29
“印象に残る映画”とはどういうものだろう。役者たちの演技の素晴らしさ、巧みに作り込まれたストーリー、あるいはスタイリッシュな映像や物語を彩るサウンド。どれも映画製作において重要な要素であり、これらが輝けば輝くほど、その映画は “印象に残る映画”と呼ばれるのではないだろうか。
しかし、映画を印象づけるうえで欠かせない要素がもうひとつある。それは「衣装」だ。役者がまとう衣装は、その人物の個性や、ステータス、時代背景、さらには当時の流行といった、登場人物のキャラクターや世相を映し出す重要なファクターとなる。だからこそ、映画の世界観に合わない衣装が作中に登場するだけで、それはたちまちイケてない映画となってしまう。
ここで一本、おすすめの映画を紹介したい。それは8月30日(金)から全国で公開される映画『トールキン 旅のはじまり』だ。本作は、いまなお愛されつづける「ホビットの冒険」「指輪物語」の原作者である、J・R・R・トールキンの前半生を描いた物語。作家としての彼の半生ではなく、作家としてデビューする以前のトールキンをフィーチャーしているのが面白い。
なぜ彼が「ホビットの冒険」や「指輪物語」といったファンタジーの世界を生み出すことができたのか。その想像力の原点はいったいどこからきたものだったのか。トールキンと、彼を取り巻く素晴らしい3人の仲間、そして生涯を伴にしたいと願う最愛の女性を中心に、彼の創造の原点を鮮烈に描き出す。
本作は20世紀初頭を舞台とした物語であり、この時代はいわゆるスーツの黎明期にあたる。前述のとおり、衣装が作品世界にそぐわないと、残念な映画となってしまうが、この作品に登場する衣装は実に素晴らしいクオリティーで当時のファッションを再現している。
ツイードやフランネルといった素材で仕立てられたスリーピーススーツ、ウエストコートに忍ばせた懐中時計とボタン穴に通したチェーン。これらはいずれも当時のトレンドを忠実に再現したもの。ディテールにおいても同様に、寸胴型のウエストをはじめ、長めの丈、さらにはボタンの位置に至るまで、当時のスーツスタイルを細部にわたって表現するなど、衣装に強いこだわりが感じられる。当時のスタイルを見事に再現した衣装は、映画の世界観により厚みをもららしていると言える。
ストーリーやキャストだけでなく、衣装に注目して見るのも映画の見方のひとつである。この『トールキン 旅のはじまり』も、そんな視点で見ていただくのも面白い。きっとあなたの“印象に残る映画”のひとつに刻まれるはずだ。
『トールキン 旅のはじまり』
8月30日(金) 全国ロードショー
監督:ドメ・カルコスキ
脚本:デヴィッド・グリーソン、スティーヴン・ベレスフォード
出演:ニコラス・ホルト、リリー・コリンズ、コルム・ミーニイ、デレク・ジャコビ、アンソニー・ボイル、パトリック・ギブソン、トム・グリン=カーニー ほか
原題:Tolkien/アメリカ映画/1時間52分/スコープサイズ/字幕翻訳:松浦美奈/配給:20世紀フォックス映画 ©2019 Twentieth Century Fox
Text:AERA STYLE MAGAZINE