紳士の雑学

ニッポンの社長、イマを斬る
GMOインターネット株式会社 代表取締役会長 兼 社長 グループ代表
熊谷正寿インタビュー[前編]

2019.09.25

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「インターネット産業で圧倒的NO.1になる」を合言葉に日本のネットインフラの地場を築き、グループ企業を次々上場させてきたGMOインターネット。創業者であり、グループ代表の熊谷正寿氏が21歳のとき、手帳に書きつけた夢が同社の原点となった。

世の中に多くの笑顔を作る企業グループであれ

「基本的に、僕はダメな人なんですよ。高校を中退していますし、飽きっぽいし、忘れっぽい人間なんです。それでも手帳に目標を書きコツコツ続ければこんなことができるという話なんです」。熊谷正寿社長は言った。

1991年にスタートしたGMOインターネットグループは言わずと知れたITベンチャーの先駆けであり日本のWEB環境に最も影響を与えた会社だ。プロバイダーやサーバーなど同社のインフラサービスを利用するユーザーは本年3月で1000万人を突破。グループには決済や証券、ネット銀行、メディア関連事業など111社があり、うち9社は上場済み、時価総額にして約1兆円にのぼる。

「会社というのは統計的にはそう続くものではありません。一説によると5年で7割が消え、10年で98%が消えると言われています。20年後にはたったの0.3%。そのなかに入るにはどうしたらいいのか。ずっと考えながら経営をしてきました。振り返ると、その肝のひとつは『淡々とやり続けること』だった気がします。仕事でも、人生でも、誰もやりたがらないことを含め淡々と続けていくしかない。継続は力なりと言いますけど本当です。それがいまの自分につながっている気がしますね」

現代アーティスト、ジュリアン・オピーの作品が飾られた応接室で熊谷はそう語る。この35年間、土日に休んだことはない。

「35歳で上場する」手帳に記した二十歳のころ

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首席で入った高校を2年で中退した。学校の勉強には興味を失っていた。フリーターを経て、父親がサービス業を営んでいた関係から17歳でパチンコ屋の店長に。そうして、潰れかかったお店を地域一番店に立て直した。のちの手腕を既にして発揮していた印象だが、父は息子を甘やかすことはなかった。熊谷の生活は「爪に火をともす」を地でいった。21歳で妻子がおり、父の仕事を手伝いながら通信制の大学にも通っていた。住居は古く傾いていた。

「お金はないし、時間もない。学生の友人たちをうらやましく感じていました。手帳に夢や目標を書くようになったのはそのころです。『事業家として圧倒的No.1の会社を作る』『その会社を35歳で上場させる』、書いているうちに力が湧いてきたんですね。実現までの期限を決め、逆算して『今月やること』『今週やること』『今日やること』を決めていきました」

熊谷が起業したのはその6年後、1991年のことだ。GMOインターネットの前身となるボイスメディア社は同時に4人で電話ができる電話会議装置(パーティーライン)の会社だった。周囲に話しても理解はされなかったが父親だけは「やってみたら」と背中を押した。

「電気と交換機の仕組みを図書館で勉強し、秋葉原で部品を買って自分で機材を作りました。掛かった費用は数万円。当時、アメリカから輸入した装置を使って同じサービスを展開していた会社がありましたが、機材だけで3000~4000万円したと聞きましたね」

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自作の装置は数億円の利益を生み出して、後の事業の原資となった。その4年後にインターネット事業を開始。プロバイダーから始めドメインやセキュリティ、電子決済まで事業の足場を次々固めていき、99年ジャスダックに上場した。インターネット企業として国内初の店頭公開だ。『35歳で上場する』目標は35歳と40日目にして実現した。

「その夢も当初は周囲に笑われましたからね。『何を、バカなことを』って(笑)。けれど、なかには『実現したら本を書くといい』と言ってくれた方もいた。うれしくて手帳に書き足して出版をイメージしたイラストをずっと持ち歩いていました」

やがて、どうなったか。04年に『一冊の手帳で夢は必ずかなう』(かんき出版)を出版した。

想定外の法改正で倒産の危機に

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05年には東証一部に市場変更した。ここまで絵に描いたようなサクセスストーリーだ。会社最大の窮地が訪れたのは、その後だった。「上場後、金融事業に進出しました。焦りがあったのだと思います」、熊谷は言う。

「上場審査の期間中は新しい事業に着手することができません。当時はホリエモンさんのフジテレビ買収が世間をにぎわせていたり、サイバーエージェントの藤田くんや楽天の三木谷さんが新事業に手を広げていた時期でもありました。対する我々は止まってしまっている感じが否めませんでした」

反動もあってイーバンクの株式取得(後に売却、現・楽天銀行)やネット証券(現・GMOクリック証券)を立ち上げた。また消費者金融のオリエント信販を買収し金融領域に参入した。このローン会社が予想できない火種を生む。直後に法の改正で会計基準が変更されたのだ。「前オーナー時代も含め過去10年分の引当金を支払うこと」。意味するところは、金額にして数百億の借金だった。経営を始めまだ1年ほどしかたっていなかった。

「まさに青天の霹へき靂れきです。当時はグループとしても売上も利益もまだまだ小さい時期。キツいなんてものじゃない。朝、目が覚めると汗でびっしょり。練炭自殺する夢まで見ましたよ」

新聞に『GMO、数百億円の赤字か』という見出しが躍った。新卒で入ったばかりの社員のもとに実家から「お前の会社は大丈夫なのか」、そんな電話があったと聞いた。心が苦しかった。

「ただ信じてもらって乗り越えるしかない。オロオロしていてもどうにかなるわけじゃない。いくつの選択肢があってそのなかで立ち直る可能性が高いのはどれか? そんな思考でひとつひとつ問題を解決していくしかなかった」

このとき、買収の話も舞い込んでいた。「500億円で会社を買いたい」、そう言ってくる人も現れた。株式を所有する熊谷の手元には数百億円が入る好条件。だが、熊谷は断った。お金に魂は売れない。一緒に仕事をしてきた仲間を置いて逃げ出すことなどできるわけがなかった。最終的に400億円を投じることとなったオリエント信販はその後、わずか500万円で売却した。損失を埋めるため、一部上場後に立ち上げたネット証券もグループから切り放した。さらに熊谷は170億円の私財を投じ、会社の債務超過を切り抜けて倒産を免れた。

後編へつづく>>

プロフィル
熊谷正寿(くまがい・まさとし)
1963年7月、長野県生まれ。91年5月、株式会社ボイスメディア(現GMOインターネット)を設立。95年インターネット事業に進出し、99年には独立系ネットベンチャーとして日本で初めて店頭公開を果たした。現・GMOインターネット代表取締役会長兼社長・グループ代表。米国ニューズウィーク社「Super CEOs(世界の革新的な経営者10人)」などを受賞。著書に『一冊の手帳で夢は必ずかなう』『情報整理術クマガイ式』(かんき出版)『20代で始める「夢設計図」』(大和書房)など。ヘリコプターのパイロット免許、1級小型船舶操縦士免許とPADIのレスキュー・ダイバーなど多数の資格を持つ。現在はプライベートジェット・ガルフストリームG650ERを自ら操縦する目標に向かい、飛行機免許取得の訓練中。

「アエラスタイルマガジンVOL.44 AUTUMN 2019」より転載

Photograph:Kentaro Kase
Text:Mariko Terashima

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