紳士の雑学
ニッポンの社長、イマを斬る
GMOインターネット株式会社 代表取締役会長 兼 社長 グループ代表
熊谷正寿インタビュー[後編]
2019.10.09
「インターネット産業で圧倒的№1になる」を合言葉に日本のネットインフラの地場を築き、グループ企業を次々上場させてきたGMOインターネット。創業者であり、グループ代表の熊谷正寿氏が21歳のとき、手帳に書きつけた夢が同社の原点となった。
売上高10兆円を目指す55カ年計画
「いまでも思います。生き残れたのは目を閉じて針の穴に糸を通すような確率だっただろうと」。底を見た同社だが2010年に過去最高益(※その後9期連続で最高益を更新)を達成した。17年には仮想通貨事業を始め、18年には窮地の際に全面的に支援してくれたあおぞら銀行と共同でネット銀行をスタートした。
「あの危機を乗り越えたことで自走式組織が形成され、さらに強い基盤ができたのだと思います。当時の僕は24時間対応に追われていましたから現場を見る余裕はなかった。けれど、幹部は誰ひとり辞めることなく自分の持ち場を守ってくれたんです。社内の信頼関係が強くなったのはもちろんですけど、任せたからこそ全員が共に成長したのだと思っています」
同社を語るときに外せないことのひとつに「2051年、売上高10兆円、利益1兆円」の「55カ年計画」がある。「07年の400億円の損失分がちょうど抜けている感じですがトータル年13%ずつ伸びていけば追いつく換算。社内目標はそれに2%プラスして年15%の成長率を目指しています」
定量的な目標に対し、定性的な目標は「スピリットベンチャー宣言」だ。会社のビジョンやフィロソフィーなど70項目近い指針が盛り込まれたもので社内では事あるごとに唱和する。
「世の中に多くの笑顔を作るグループであること。利益は結果でしかありません。№1のサービスが受けられればお客さまは喜びますし、そうしたサービス、プロダクトを生み出すことでグループのパートナー(※社員)も笑顔になる。結果として利益が生まれ、株主も笑顔になる。この3つの笑顔が経営者として目指すところ。同時に、僕の寿命が尽きた後も組織として自走できるような仕組みを作っていくことです」
モチベーションは他人が高めてくれるものじゃない
熊谷は趣味人としてもよく知られる。現代アートに通じ、ヘリコプターや船の操縦、レスキューダイバーなどの資格も持つ。目下の目標は飛行機の操縦免許を取得すること。中途半端を嫌い、趣味であっても圧倒的№1を目指す。グループトップを務めながらその時間をどうやって捻出するのか。
「僕の日常を見たらびっくりすると思いますよ。お風呂でもトイレでも移動中でもありとあらゆる隙間時間を活用します。自分以外の人ができることは人に任せ、IT機器もフル活用し、システム化できるところはそうする。暗記術や速読術の本も相当読んでいますね」
株主総会などの質問者の氏名は一度に何人でも覚えられる。熊谷には「空き時間」という概念はない。「英語の勉強」「パイロットの勉強」等々、やりたいことはあらかじめ自分にアポを入れるという。
「手帳とITを活用して人の何倍も努力してきた、そんな自負はあります。人間の行動の9割は習慣です。いかに良い習慣を身につけるかということ」
毎朝コーヒーを片手に手帳を確認する。常に自らを振り返り、「できないこと」「やりたいと思うこと」を書き綴つづる。それを35年間毎日だ。言うはやすしで、シンプルな疑問も湧く。書いても、書いても「できないこと」もあるのではないか? モチベーションが下がってしまうことは? 「できないから書くんです」、熊谷は言う。
「それは写経のように1000回でも2000回でも。気分が乗らないときだってありますよ。へこたれそうになるときもある。それが普通です。でも、だからこそ、なんです。自分は普通にはならないぞと手帳に書いて決めるんです。結局、モチベーションは他人が高めてくれるものじゃない。自分の心は自分で焚(た)きつけるしかない。やりたいことを明確にしてコツコツと努力する。余計なことには時間を割かず、手帳に書いて何度も何度も想起する。淡々と続けていけばどんな人の人生も変わると僕は思っていますよ」
プロフィル
熊谷正寿(くまがい・まさとし)
1963年7月、長野県生まれ。91年5月、株式会社ボイスメディア(現GMOインターネット)を設立。95年インターネット事業に進出し、99年には独立系ネットベンチャーとして日本で初めて店頭公開を果たした。現・GMOインターネット代表取締役会長兼社長・グループ代表。米国ニューズウィーク社「Super CEOs(世界の革新的な経営者10人)」などを受賞。著書に『一冊の手帳で夢は必ずかなう』『情報整理術クマガイ式』(かんき出版)『20代で始める「夢設計図」』(大和書房)など。ヘリコプターのパイロット免許、1級小型船舶操縦士免許とPADIのレスキュー・ダイバーなど多数の資格を持つ。現在はプライベートジェット・ガルフストリームG650ERを自ら操縦する目標に向かい、飛行機免許取得の訓練中。
「アエラスタイルマガジンVOL.44 AUTUMN 2019」より転載
Photograph:Kentaro Kase
Text:Mariko Terashima