カジュアルウェア
ファッショントレンドスナップ56
大手銀行まで服装自由化の時代
ジャケパンスタイルのお悩みにスナップで解説
2019.09.30
三井住友銀行は、今年の9月から東京と大阪の本社で働く人を対象に、それまで原則スーツにしていた社内規定を見直し、年間を通して服装を自由化したと発表。お硬いイメージのある銀行がクールビズからさらにもう一歩踏み出したのには、個人的にびっくりしました。
こうなると、クールビズがいつの間にか浸透し、ネクタイをしないで出勤するのになんの違和感も抱かなくなったように、服装自由化はじわじわと浸透していくような気がします。
もちろんいままでどおりネクタイを締め、スーツを着て会社に行きたい人はそのままでよいのですが、どうしてもこうした変化が始まるときは、いままでどおりの服装は時代遅れとか、スーツでの通勤は現場の空気を読んでないという目で見られがちで、ビジネススタイルを強制的に変えなければいけないというムードになってしまいがち。
今後も増えるであろう会社での服装自由化は、ジーンズにTシャツで出勤しましょう!!といっているわけではなく、職種に合わせたり、その日の仕事の内容によって節度のある(会社によってここの基準が違う!!)服を自由に選べますということがコンセプトなのですが、そこの本質が日本で浸透するにはちょっと時間が必要ですね。
前置きが長くなりましたが、個人的にはスーツの代わりは、ジャケットにスラックスというのを基本にして、そこからネクタイをしない、スラックスをジーンズにするという様な変化をつけていくのがベストではないかと思います。
基本のスタイルを作っておけば、毎朝今日は何を着て出勤しようか……と考える手間が少しは短縮できるはずです。
というわけで、今回はジャケット&スラックスをイタリアではどの様に着こなしているかを見てみたいと思います。
このジェントルマンは、ブルーの格子柄(ウィンドペン)という英国調のジャケットをノータイであわせています。服装自由化!!だからといってここにいきなりいくのには無理がありますが、無地のジャケットだと学生時代の制服みたいで気が進まないという方にはベストチョイスではないでしょうか。
店頭でこうした柄ものジャケットを見ると、派手で自分は着こなせない……と思う方が多いと思いますが、スラックスをこの方の様にダークカラー(チャコールグレーや黒)にすることでバランスがとれますよ。
全身はこんな感じです。スラックスのシルエットは、太もも部分は余裕がありつつも膝下は細くなっていますね。スーツのときはあまり気にしなかった下半身のシルエットが、ジャケット&スラックスになると急に目立ってくるので、実は大切なポイント。
個人的には、ピタピタの極細もビジネスではどうかと思いますが、10年以上前のダボッとしたしまりのないシルエットもどうかと思います。勿論、それをわかったうえでの自分のスタイルだという方には、それはそれでありだと思いますが、パソコンのソフトのように服装もアップデートするのが大切ではないかと思います。
いきなり後ろ姿ですが、ここにはいままでファッション誌(このコラムでも初めて!!)等ではあまり取り上げていなかったジャケットやスーツの上着選びのポイントがあります。
それは、この見事な後ろ姿!! 格子が入っていることで、いかに背中から腰回りにかけて見事な曲線を描いてフィットしているかがよく分かりますね。ヨーロッパの服好きな人は、試着の時に前だけでなく後ろ姿もちゃんとチェックすると聞きます。
親しいイタリアの友人にこのことを聞いてみたら「人は後ろ姿を結構見られているんだよ。どんな高価なブランドスーツを着ていようが、後ろ姿がみすぼらしいやつはビジネスにおいても隙がある人物だと判断するね。そこまで自分を客観的に見ているというのは、自己管理がしっかりしている証だから、プラスのポイントになると思うんだ。初対面のセールスの人が、見事なプレゼンをしても、帰る時にジャケットの後ろ姿がシワだらけでだらしないシルエットだったら、優れたプレゼンも台無しだと思わない?!」。
文化の違いといえばそれまでですが、日本のビジネスにおいてはカジュアル化される分、逆に品格や教養をアピールするには、着こなしや素材選び、フィッティングに気を配ることが大切になるのではないかと思います。
こちらのジェントルマンはやや若い方なので、同じような格子柄のジャケットを着ても雰囲気がガラッと変わっていますね。インナーはTシャツです。これなら、会社のロッカーにジャケットを置いておいて、通勤はTシャツにコットンパンツという軽快なスタイルが実現できます。
ただし注意したいのは、Tシャツの色。この方のようにネイビー、濃いめのグレー、ブラックはしまった感じがしてビジネス向き。ホワイトは、カジュアル感が強く出るのでなるべく避けたほうがいいですね。
そして、ネクタイの代わりにポケットチーフをさしてフォーマル感をアピール。Tシャツの時は、特にこれを使うだけでぐっとイメージが良くなります。
全身は、この様な感じです。足元はレザースニーカーでした。ポケットチーフのホワイトと上手くバランスが取れていてスマートですね。
流石にホワイトスニーカーは厳しいなという方は、ブラックのスニーカーソールでアッパーがローファーやダブルモンクというデザインのものがネットや百貨店で出回りはじめたので、そちらをチョイスされるといいと思います。
先のお二人が柄ジャケットという難易度が高めだったので、とりのジェントルマンは基本の無地ジャケットで締めくくりたいと思います。ホワイトシャツにネイビージャケットという安定感のある王道の着こなしです。
最近は、ユニクロでストレッチの効いたネイビージャケットといういたれりつくせりのジャケットが出ていますが、値段にかかわらず袖丈や身幅のフィット感をキチンと修正(お直し)するのをお忘れなく。そこをちゃんとしておけば、百貨店でよく見る4~5万円のジャケットに引けはとりません。
パンツはジーンズでした。やや色落ちしているのでカジュアル感が出ていますが、ここを色落ちしていないリジッドと呼ばれるデニムにすれば、ジーンズで出社も夢ではありません。
ただし足元が重要。このジェントルマンのように足元は革靴、それもローファーがオススメ。ジーンズでスニーカーにしてしまうと、リラックスした感じになってしまいます。そのくらいがちょうど良いというIT系やファッション系にはいいのでしょうが、そうではない会社にお勤めの方はやはり足元はローファーが最適。
このジェントルマンはグッチ?!と思しきビットローファーです。ビットローファーは1980年代に日本でも流行したアイテムで、ローファーの甲に金属の飾り(馬具由来)がついたもの。昨年あたりから日本でも人気が出ています。
コーディネイトがシンプルでド定番の時は、靴で自己アピールや時代の気分をプラスするのが個人的なオススメです。
今回は文章がちょっとくどくなりすぎましたね……、反省反省。
次回も乞うご期待ください。
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プロフィル
大西陽一(おおにし・よういち)
数々の雑誌や広告で活躍するスタイリスト。ピッティやミラノコレクションに通い、日本人でもまねできるリアリティーや、さりげなくセンスが光る着こなしを求めたトレンドウオッチを続ける。
Photograph & Text:Yoichi Onishi