特別インタビュー

情報に惑わされずに自分の価値基準を見いだす、
NY流、審美眼の鍛え方は?

2019.10.01

安積陽子

良いモノが高価とは限らない。自分に自信を持てるセンスと知性を養おう。

写真・図版

成功をつかむために余念のないニューヨークのビジネスパーソンたちが、磨きつづけているスキルがあります。それは良いモノを見分ける力、いわゆる「審美眼」です。今回、私が出会ったニューヨーカーのストーリーとともに、実際に私が日米で行っている「審美眼」を育てるトレーニング法を紹介します。

「モノの価値や本質がわかること」において現代人は、有名ブランドのネームタグや、専門家やメディアが発信する情報によって惑わされることが少なくありません。しかし、一流と呼ばれるアイテムが、あなたにとって必ずしも最適なアイテムであるとは限らない。ブランド名の有無に関係なく、あなた自身の魅力を引き出せるモノ、身にまとうだけで心躍るモノ、心地よさを感じるモノ。そういうモノこそ本当に愛着の湧くワードローブを築くためのアイテムなのです。

自分が身につけるアイテムの価値を見極める感覚を養うためには、ワインや絵画、音楽と同様に、洋服や靴も一流のモノに触れ、自分自身の価値基準を見いだすことが大切です。これまで私が出会ってきたニューヨーカーも、確固たる価値基準や見識を磨くために、最高のモノに触れ、審美眼を磨く努力を惜しみませんでした。メディアからの情報収集に精を出すのではなく、直接見て、触れてみて、五感を活用しながら見識へと昇華させ、本質を見極める力=審美眼を磨いているのです。

ニューヨーカーの感性は子どものころから育まれる

ニューヨークでは、富裕層の家庭を中心に、教養の一環として子どもへ「服育」を行っており、装いに関する感性を磨くトレーニングを日常のなかで行っています。なぜなら、足に吸いつくようにフィットする快適で美しい靴や、着心地の良いシャツのように、自分の感性に合ったワードローブを選択することが、日々の生活やメンタリティーに大きな影響を与えているから。小さな変化を感じながらセレクトすることが、快適さのみならず人生の豊かさにつながることを、富裕層が実感しているからにほかならないでしょう。

小さいころから感性を育むに越したことはありませんが、大人になってもそれは可能です。ニューヨークを拠点に、世界で活躍するビジネスパーソンがその良い例。彼らは、自身のワードローブを満足したものにするため、ファッションコンサルタントが提供する特別なトレーニングを受け、感性を磨いています。あまり知られていないトレーニング方法ですが、忙しいビジネスの傍らでも、着実に装いをグレードアップすることができるのです。

揺るぎない審美眼を磨く、エレベーター・ショッピング

そのトレーニングは「エレベーター・ショッピング」というもの。なぜこの名がつけられているのでしょうか? それは高価格帯のラグジュアリーブランドから、低価格帯のファストファッションまで、アイテムを吟味し、試着を重ねて店舗を回るから。価格のエレベーターに乗って多くのアイテムに触れながら、揺るぎない「審美眼」を磨いていくことが、このトレーニングの趣旨なのです。

トレーニングの舞台となるのは、ニューヨーク・マンハッタンの中心、五番街。映画でも有名なティファニー本店をはじめ、高級ブランドやファストファッションの店舗が軒を連ねるエリアで行われます。

まず、ファッションコンサルタントはクライアントに対して3つのルールを伝えます。1、試着を終えるまで、決して値札を見ないこと。まずは自分の直感を頼りに値段を推察し、試着後に予想した価格が合っていたか確認する。2、試着した際、自分の内面に湧き上がる感情や感覚を十分に味わうこと。その感覚や感情を言葉にしてコンサルタントとシェアすることで、モノに対する価値観が構築され、自分の言葉で整理して伝えられるようになる。3、一点一点、自身のライフスタイルに必要なモノか、不必要なモノなのかを考え、必要だと判断した場合は、欲望を満たすための必要性か、実用的な理由からなのか慎重に見極めること。3 つのルールを交わした後、いよいよ「エレベーター・ショッピング」が開始されます。

最初にファッションコンサルタントと共にデパートを訪れ、まずはラグジュアリーブランドに入店。クライアントは、美しく陳列された服や、装飾品のなかから気になったアイテムを手に取り、一品一品丁寧に観察します。ここで大切なのは、ただ眺めることではありません。素材のやわらかさや、シルエット、デザイン、ディテールまで、触覚や視覚など五感を研ぎ澄ませて吟味し、五感の記憶を知識としてストックするのです。そうして吟味したアイテムのなかから、気になったものをいくつか試着していきます。

試着の際に気をつけたいのは、単に見た目のデザインやシルエットの美しさだけに気をとらわれないこと。実際に日常の動作を行ってみて、機能性や機能美にも視点を置いた考察を行います。また、素材の風合いや、仕立てからくる着心地、自身の内面の変化も見逃してはいけません。一流を身体と心で感じ、その感覚をしっかりと蓄積することが、この時間のなかで最も大切なことなのです。

一流ブランドを堪能したら、次は低価格帯の店舗を訪れます。ここでも先程と同じように一点ずつアイテムに触れ、つぶさに観察していきます。そして高級店で感じた五感を頼りに、素材やシルエット、肌触りなど、高級店に劣らないクオリティーのアイテムを見つけ出していきます。アイテムの総合的なクオリティーは、一流のものには及びませんが、自分の求めている部分のクオリティーが満たされていれば、それは価格以上に心を充足させるセレクトになります。

先入観を払拭し、新しい価値に気づく

このトレーニングから得られる効果は、どういったものがあるのでしょうか? ひとつ目は、自身のメンタルブロックや、先入観を取り払うということです。「高価なモノ=良い」「安価なモノ=悪い」といった安直な先入観は、このトレーニングを行うことで変わっていきます。そうして、広い視野やさまざまな視点をもってファッションを楽しむことができるようになります。また、「高級店に入りづらい」「安価のモノは自分には似合わない」といったメンタルブロックも払拭されますので、自分の価値を再認識し、肯定感を得られる効果もあります。

2つ目は「審美眼」が備わること。専門家の評価や、有名ブランドのネームバリューに惑わされることがなくなり、自身の価値観と感覚に従った判断ができるようになります。有名ブランドからファストファッションまで、さまざまなアイテムを五感に染み込ませることで、自分が何を美しいと感じるのか、どんなときに心地よさを感じるのかなどを、明確に認識できることは、自分自身の価値観の「軸」を構築することにもなります。ニューヨーカーは価値のあるワードローブをセレクトするために、この価値観の「軸」と「審美眼」を備え、鍛える努力をしているのです。

「エレベーター・ショッピング」は、面倒な作業に感じられる方法かもしれませんが、実際にやってみると楽しいものです。多くの洋服に触れることは、それだけ多くの価値観や作り手の思いを感じることと同様。多様なアイテムに触れることで、自身の価値観を確固たるものにできるだけでなく、新たな感性やデザインに心動かされることもあるでしょう。

自身のライフスタイルや感性にフィットしたワードローブは、人生をより豊かに、彩りあるものにしていきます。本当に価値のあるモノと出合うために、皆さんもぜひこのトレーニングを試して、すてきなライフスタイルの創造に役立てください。

安積陽子(あさか・ようこ)
アメリカのシカゴ生まれ。ニューヨーク州立ファッション工科大学でイメージコンサルティングの資格を取得。2005年、Image Resource Center of New York社で各界の著名人への自己演出トレーニングを開始。09年、同社の日本校代表に就任。16年、一般社団法人国際ボディランゲージ協会を設立、非言語コミュニケーションのセミナーや研修、コンサルティングを行う。著書に『CLASSACT(クラス・アクト)世界のビジネスエリートが必ず身につける「見た目」の教養』『NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草』など。

「アエラスタイルマガジンVOL.44 AUTUMN 2019」より転載

Illustration: Michihiro Hori

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