特別インタビュー
渋谷直角
男が憧れる、男の持ち物。
トートの楽しさを教えてくれた人。
2019.10.02
いつしかカバンは、トートバッグ偏重になってしまった。ここ10年を振り返っても、小さめのサコッシュを買ったぐらいで、あとはトートしか買った記憶がない。旅行もかなり大きめの、ヒモで口を閉じられるようになっているトートひとつで行く。 これもまた、荷物をポンポン入れるだけでラクだから、という理由だが、そもそもなぜトートが好きになったのかを考えると、ある女性の影響だったかもしれない、と思い出す。
その女性とは、ミュージシャンのaikoだ。昔インタビューしたとき、彼女のバッグがトートで、「いつも入っているモノ」として、ゴムヘビだとかパッチンガムだとか、いたずらグッズがたくさん出てきた。それで友達を驚かせたり、コミュニケーション取ったりしていると言う。あとは駄菓子もたくさん入っていた記憶。「アホですね」と茶化すと、「アホちゃうわ!」と笑顔で突っ込まれた。
でも、彼女のそのトートの使い方がいいな、すてきだな、と思ったのだ。ドラえもんがテンパったときに四次元ポケットからムダなモノばかりが飛び出てくるように、普段持ち歩くトートにもムダなモノを忍ばせておきたいと思った。
ちなみに、いまの僕のトートには、こんなモノが入っている。「マーブルチョコ」の空のケース(フタを開けるとき「ポン!」と音がして楽しい)。コロッケが千 昌夫から、ちあきなおみに顔を変化させていくパラパラ本。いい香りのするキャンドル。星の形の砂が入った小さなボトル。知らない子がバスの中でくれたドングリ。……どれも持ち歩く必要はまったくないモノだが、何かを取り出すときにそういったムダなモノが見え隠れすると、どこかホッとする。機能性のみを追求するのは、美しいけれど少し息苦しい。トートバッグのキャパシティーの広さが、自分に余裕を与えてくれる。
「アエラスタイルマガジンVOL.44 AUTUMN 2019」より転載
Photograph: Tetsuya Niikura(SIGNO)
Styling: Akihiro Mizumoto