旅と暮らし
クリスマスシーズンに行くオランダの地方都市が面白い!
前編:刑務所ホテルを拠点に、南部の街でクリスマスに浸る
2019.10.04
アムステルダムだけではもったいない!
オランダで面白い場所といえばアムステルダム。ほかの街のことを何も知らないままそう思い込んでいた筆者の概念が変わったのは昨冬のこと。クリスマスシーズンにオランダの地方都市を2週間かけ7都市回り、旅のしやすさと建築デザインのユニークさにはまった。
日本とはまったく異なるクリスマスのムードも必見だ。12月初旬から各都市でクリスマスマーケットが開催され、かわいい出店やライトアップを前に、いるだけで心が華やぐ。そこで、各都市の見どころを前編後編に分けて紹介する。新鮮な体験にあふれる旅となるはずなので、冬のバカンスの候補にしてみては?
うらやましいほどインフラが整っている国
海外の地方都市を巡る旅というと移動が懸念されるが、オランダは鉄道の使い勝手が非常によいのでスムーズに移動できる。そもそも国土面積が九州と同じくらいの大きさなので、北部に位置する玄関口のスキポール空港から南部の都市へも鉄道で2時間台。欧州鉄道の乗り放題チケット「ユーレイルパス」を利用すればタッチ&ゴーでの移動が可能だ。
オランダ南部の旅は刑務所ホテルから
前編では南部の3都市、ルーモント、マーストリヒト、ファルケンブルグでの過ごし方を提案する。拠点としたのはスキポール空港から鉄道で約2時間のルーモント。なぜこの街かといえば、“元刑務所”というパワーワードを有するホテルがあるからだ。
その名は、「Het Arresthuis(ヘット・アレストハウス)」。英語で言うとHouse Arrest(幽閉)であり、要は刑務所という建物の意味だ。ホテルに着くと外観は瀟洒な邸宅のようだが、中に入ると一変、リアルに刑務所! 逆に、こんなにきれいな建物が刑務所だったのかと驚く。
1863年に刑務所として建てられ2007年に閉鎖。その背景には、オランダは受刑者不足で刑務所が相次いで閉鎖されるという実態があった。更生を重視した法規制により犯罪率が大幅に低下したのだ。刑務所がガラガラ状態となり、そのひとつが2011年にホテルとして生まれ変わったのがこの「Het Arresthuis」。かつては密輸入専門の軽犯罪者が入所していた刑務所だった。
客室に入って笑うのが、ベッドの上に薬物のようなものが置かれ、“This is legal(合法です)”と書かれていること。透明のパウチに入り怪しさ満点だけれど食べればキャンディー。そんな冗談やイタズラはホテルの随所にあり、客室のランクも「弁護士」「裁判官」「看守」「受刑者」といった名称で分かれていたりする。
いちばん小さな「受刑者」部屋でも30㎡あり使い勝手もよい。それでいて€106からと案外お手頃。グレーを基調にスタイリッシュに作られた部屋は、刑務所といっても窓がある。また、壁に本物の受刑者の肖像画がかけられているのが刑務所らしい演出(撮影地はアメリカで重犯罪者ではない)。ちなみに「看守」スイートとなると40㎡でバスタブも付き€181から。例えば新婚さんなら「看守」がおすすめだ。
12月のアウトレットこそ買い物のチャンス!
「Het Arresthuis」に泊まってうれしいのが、徒歩圏内に北ヨーロッパ最大規模のアウトレットがあること。「Designer Outlet Roermond(デザイナー・アウトレット・ルーモント)」というショッピングモールで200以上のブランドがそろう。30〜70%オフとなるアウトレットだが、クリスマスシーズンに行けばさらにセールがかかり信じられない価格で買い物ができる。
筆者はここでウールリッチのコートをなんと3万円で購入! その日に着ていた同ブランドの似たようなコートは日本で10万円だった。ウールリッチのコートは本当に優秀なので、色違いや型違いがあれば欲しいと思っていたので即決(太って自分のコートがきつくなってもいた)。
プラダ、グッチ、ラルフ ローレンといった高級ブランドからスポーツ系、インテリアなどが多彩にそろい、掘り出し物だらけ。毎日終日営業しているので旅の空き時間に行けるのも好都合だ。
教科書でおなじみの街は、想像以上に美しかった
ルーモントから鉄道で40分南西に行けば、そこは誰もが聞いたことがある街、マーストリヒト。教科書で学んだマーストリヒト条約(EUの設立)が調印された地だ。EUかぶれとしては駅に掲げられたMaastrichtの字を見ただけでぐっとくる……。
さて、マーストリヒトはオランダ最古の街でもある。駅から中心部に向かうには13世紀に造られた聖セルファース橋を通り川を渡る必要があり、その美しい橋は絶好の写真スポットだ。そして街を歩けば建物も道行く人も、「ここがオランダ?」と思ってしまうほど雰囲気が変わる。マーストリヒトはベルギーとドイツの国境に接し歴史も長いため、ひと味違ったオランダ散歩を楽しめるだろう。
散歩の目的地として必須なのが、イギリスのガーディアン紙で“世界で最も美しい本屋”のひとつに選ばれた「Boekhandel Dominicanen(ブックハンデル ドミニカネン)」。
もとは14世紀に造られた教会で2006年に書店としてオープン。教会ならではの高い天井や荘厳な柱、ステンドグラスが見られるので歴史建築見学にもなる。そんな空間を存分に感じるため、元祭壇を利用したカフェで休憩するのがおすすめだ。
また、元教会でもうひとつ面白いのが「Kruisherenhotel(クラウスヘーレン・ホテル)」。15世紀からある教会なので建物はクラシックだが、モダンなデザインやアートをしつらえ、そのミックス感が絶妙。レセプションが卵形だったりスケルトンのエレベーターを設置したり、オランダ建築の奔放なセンスを体感できる。2017年にはオランダホテルアワードを受賞し見応えがあるので、刑務所ホテルとハシゴして泊まるプランも大いにあり。
マジカル・マーストリヒトはおとぎの世界
一年を通し美しいマーストリヒトだが、クリスマスシーズンには“マジカル・マーストリヒト”と呼ばれるほどの別世界になる。街中が浮足だったムードとなり、特に盛り上がるのがクリスマスマーケット。屋台が並び観覧車が回り、大人もはしゃぐ遊園地のような空気感だ。
今年の開催は11月29日から12月31日までで入場無料。少し長めとなっているのは、実はオランダにはクリスマスが2回あるから。1回目は12月6日の聖ニコラスの命日を祝うシンタクラース祭、2回目はおなじみイエス・キリストの降誕を祝う12月25日だ。
シンタクロース祭は日本ではなじみがないが、4世紀に弱者を救った司教・聖ニコラスはオランダ人にとって尊い存在。ちなみに見た目はサンタクロースにそっくりで、17世紀にアメリカに移住したオランダ人がシンタクロース祭を伝え、サンタクロースが誕生したという説もある。
クリスマスマーケットは基本的には野外なので寒いが、冷えた空気のなかで飲む甘めのホットワインがとびきりおいしい。また、マーストリヒトの街を一望する観覧車に乗るのもクリスマス恒例のお楽しみだ。
洞窟内のクリスマスマーケットも必見!
マーストリヒトまで行ったら、近くにあるファルケンブルグという街まで足を延ばしてみよう(鉄道で約15分)。この街にはヨーロッパで最も歴史が長く最大規模の洞窟内のクリスマスマーケット「Kerstmarkt Gemeentegrot」があり、世界中から来場客が集う。なんと洞窟の全長は27kmもあり、その一部に出店が連なる。
ほの暗い洞窟内にクリスマスのイルミネーションがきらめく様子は幻想的。洞窟内は一年を通し12℃に保たれ、奥に進むと温かさにほっとする。そして洞窟マジックか、ここにいるとツリーに飾るオーナメントが欲しくなってしまう! 12月24日より前に立ち寄ってクリスマスグッズを調達するにも最適の場所だ。
以上が2泊3日もあれば十分に回れる南部の見どころ。後編ではさらにオランダの面白さに気づかされる北部の3つの街を紹介する。
今年の10月7日に創立100周年を迎えたKLMオランダ航空の日本線開設は1951年。2019年10月29日以降は成田・関空ともに毎日一便、アムステルダム行きを運行する。写真は現在アムステルダム-キリマンジェロ路線で運航しているBoeing787-10で、2022年までに15機を導入予定。
大石智子(おおいし・ともこ)
出版社勤務後フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、年に10回は海外に渡航。タイ、スペイン、南米に行く頻度が高い。最近のお気に入りホテルはバルセロナの「COTTON HOUSE HOTEL」。Instagram(@tomoko.oishi)でも海外情報を発信中。