旅と暮らし
1990年のデビューから進化を止めない女性サックス奏者キャンディが、
父ハンスをゲストに迎えてブルーノート東京で行う5夜連続公演
2019.10.07
今年もまたブルーノート東京にキャンディ・ダルファーがやって来る。トピックは2つ。ひとつはタイトルに“A celebration: 50 years saxy”とあるとおり、9月で50歳になったことを記念してのアニバーサリー・ライブであること。もうひとつは、父親のハンス・ダルファー(現在79歳)をゲストに迎えてのツイン・サックス編成であることだ。
キャンディ・ダルファーはブルーノート東京で最もコンスタントに公演を行っているミュージシャンのひとりだが、父親ハンスと日本で共演ライブを行うのは2015年10月以来となる。今回は5日間10公演。毎回、ツイン・サックスを中心にしたすさまじいグルーブがホールを覆い尽くすことになるだろう。
1969年9月19日にオランダはアムステルダムで生まれたキャンディ・ダルファーがサックスを吹くようになったのは、もちろん父親ハンスの影響だ。サックスを吹奏するハンスの姿に憧れ、6歳のときにどうしてもステージに立ちたくなってハンスを説得。だが、ハンスが直接キャンディに教えたのはたった一度だけで(キャンディが厳しいハンスに反発したのがその理由だそう)、彼女はほぼ独学でサックス吹奏をマスターした。ちなみに初めのうちはソプラノサックスで、あるときからアルトサックスに転向したのだそうだ。
キャンディは11歳でハンスのバンドに参加。そして14歳で自身のバンド、ファンキー・スタッフを率いるようになる。女性サックス奏者がまだまだ珍しかった時代、彼女はそのクールな吹き姿と実力で、すぐにオランダのジャズ・シーンで注目を集め、そして1987年にはロッテルダムで行われたマドンナの公演のオープニングで派手に演奏して話題になった。
そんなキャンディに早くから目を付けたのが、才色兼備のミュージシャンとなれば活動を共にしたくなるプリンスで、彼女をペイズリー・パーク(プリンスの自宅兼スタジオ)に誘ったのだが、キャンディはその誘いを断っている。しかしプリンスは「パーティマン」(『バットマン』収録。89年)のミュージックビデオや『グラフィティ・ブリッジ』(90年)にキャンディを参加させるなどして、彼のバンドであるNPGにも勧誘。それでもキャンディはソロ・キャリアをスタートさせることにこだわり、とりあえずこの時点でプリンスはふられる形となったわけだが、しかしキャンディがソロとしてのキャリアを築いてから改めてプリンスと行動を共にするようになる。2002年の「ワン・ナイト・アローン・ツアー」に始まり、いくつかのプリンス作品のレコーディングにも参加した。
話が前後するが、キャンディがアルバム『サクシュアリティ』でソロ・デビューしたのは1990年。ミリオンセラーとなってグラミー賞にもノミネートされたこの作品もよかったが、自分がグッとひきつけられることとなったのはなんといっても1993年発表の2作目『サックス・ア・ゴー・ゴー』からだった。メイシオ・パーカーらJB’sの面々やタワー・オブ・パワーが参加し、プリンスも曲を提供しているこのアルバムは、タイトルもジャケットのアートワークもキャッチーで、まさしくファンキー・サックス・クイーンの呼び方がピッタリくる内容。表題曲はホンダ・シビックのCMで流れ、これで一気に日本でブレイクした。
互いに音楽家としてリスペクトし合いながら
ファンキーに吹奏しつづけるサックス親娘
初めて自分がキャンディにインタビューしたのは3作目『ビッグ・ガール』を発表した95年のことだ。デイヴィッド・サンボーンの参加が話題になったアルバムだが、ハンスも表題曲に参加。そのハンスの愛称はビッグ・ボーイで、ゆえにこの曲でキャンディはその娘であることを伝えんとしてビッグ・ガールのタイトルを付けたのだろう。
このときのインタビューでキャンディが話していたハンスについての言葉をここで紹介したい。
「父と一緒にプレーするのはすごく楽しいわ。子どものころから父と一緒に吹奏しているわけだし、音楽に対する考え方も基本的に一緒だから。とはいえ当然違った意見も出てくるので、一緒にバンドをやるとなったら絶対ぶつかるだろうからやらないけど(笑)。でもレコーディングやライブで共演する際には気を張らなくていいし、自然にプレーすることができる。やっぱり親子だから安心感があるのよね」
こんなふうにも言っていた。
「父はもちろんテクニックを持ったミュージシャンだけど、それだけじゃなく、心でプレーしているところが尊敬できる。人間性を音楽にしているようなところがあるのよね。家にいるときは大きな熊みたいだし、家でも外でもよくしゃべる。でも、とにかくあったかいの。それが音楽に表れてるように思うわ」
そう話したキャンディは、その3rdアルバムの制作前にハンスのワールドワイドでのデビューに手を貸した。そして1994年、ハンス・ダルファーはアルバム『BIG BOY』で世界デビュー。その後、「ハイパー・ビート!」がトヨタ・RAV4のCMで使われ、親娘ふたりとも車のCMによって日本で広く知られることとなった。
自分はこのころにハンスにもインタビューしたのだが、とにかくよくしゃべる人で、サービス精神が旺盛。聞けば23歳から長きにわたって自動車のセールスマンをしていたそうで、「自分は人としゃべるのが大好きだから性に合ってたんだろうな。自分がいいと思うものを人に提供して、いいと思ってもらうことに至上の喜びを感じるタイプなんだ。そういう意味でセールスマンもミュージシャンも自分らしく楽しんでできるんだよ」と言っていたのが印象に残っている。車のCM曲によって日本でブレークしたのも偶然じゃないような気がしたものだ。
その後、キャンディとハンスの親子は、2002年に双頭リーダー作『Dulfer Dulfer』を発表。その後も互いのいいタイミングで共演し、それぞれ独立したミュージシャンとしてリスペクトしあっていることがよくわかる最良の関係性でありつづけている。
デビューから来年で20年。2014年には結婚もし、今年50になったキャンディ・ダルファーは、一昨年発表した最新作『トゥゲザー』でも音楽的な進化を見せていた。ファンクはもちろんだが、そこにEDM的な要素などを採り入れたりもして、新しさを大いに感じることのできるサウンドになっていた。何より彼女が歌っている曲が多く、かつてないほど「歌」を前面に押し出した作りにもなっていた。そう、まだまだ彼女は守りに入る気などないのだ。
そんなキャンディがハンスを迎えて行うアニバーサリー・ライブ。特別な何かが、きっと用意されているに違いない。
プロフィル
内本順一(うちもと・じゅんいち)
エンタメ情報誌の編集者を経て、90年代半ばに音楽ライターとなる。一般誌や音楽ウェブサイトでCDレビュー、コラム、インタビュー記事を担当し、シンガーソングライター系を中心にライナーノーツも多数執筆。Note(ノート) https://note.mu/junjunpaでライブ日記などを更新中。
公演情報
CANDY DULFER "A celebration: 50 years saxy"
with special guest HANS DULFER
キャンディ・ダルファー "A celebration: 50 years saxy"
with special guest ハンス・ダルファー
公演日/2019年11月15日(金)、16日(土)、17日(日)、18日(月)、19日(火)
11月15日(金)、18日(月)、19日(火)
[1st]Open17:30 Start18:30 [2nd]Open20:15 Start21:00
11月16日(土)、17日(日)
[1st]Open16:00 Start17:00 [2nd]Open19:00 Start20:00
会場/ ブルーノート東京
料金/ 1万円(税込)
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