特別インタビュー
釧路に行くためのコート。
[渋谷直角 男が憧れる、男の持ち物。]
2019.11.27
多才でいてファッションフリーク、渋谷直角の愛用品からそのセンスを探ってみる──。
暖かくて、ちょっといい素材のコートを夫婦そろいで手に入れたのは、北海道の釧路に行く前。現地で友人が喫茶店をやっていて、最初に訪れて以来、妙に釧路の街にハマってしまった。札幌や函館、帯広よりも地味だし、そんなに栄えている街ではないのだけれど、その友人がアテンドしてくれる店や場所はどこも素晴らしく、自然も食材も感動しかない。カルチャーに関しても、品ぞろえのいい古本屋やしゃれたレコードショップもあって退屈せずに済む。オススメは市内だと「佐々木商店」という居酒屋。尋常じゃないおいしさの刺身と、カラスハモの青のり茶漬けは毎回幸せになる。クルマが必要だが阿寒まで足を延ばせば、「両国」という鹿肉ジンギスカンのお店がある。ここの鹿肉のやわらかさ、臭みのなさは衝撃的。ちなみに「両国」は民宿もやっており、店主はハウスのDJもやっているそうだ。
夏は飛行機代が割高なので、冬に釧路へ行くことも多い。「わざわざ寒い冬に北海道へ行くの?」と言われるが、冬の釧路も最高。くだんの喫茶店の友人に夜、連れられて行ったのは、逹古武(たっこぶ)という湖。夏はキャンプ場として利用されているのだが、冬は湖がガチガチに凍って、湖上を歩ける。もちろん雪が積もっているのでかなり歩きにくいけど、あたりはまったくの無音状態で、広大な星空が広がるのみ。ミシェル・ゴンドリーの映画、『エターナル・サンシャイン』のように、大雪の湖に寝転んで星空を眺めていると、流れ星が次々と落ちていくのが見える。寒すぎるという点を除けば、アレは国内でも屈指のロマンチックな体験ができる場所だと思うのだけど。
ちなみになぜコートを買ったのかというと、まさに『エターナル・サンシャイン』で男女二人がペアでコートを着ているからだ。つまり完全に「映画ごっこ」のため。お恥ずかしい話で。
Photograph: Tetsuya Niikura(SIGNO)
Styling: Masahiro Tochigi(QUILT)
Cooperation: AWABEES