紳士の雑学
MAN OF LEGEND
デザイナー ポール・スミス
ポール・スミス大阪店に、御大が込めた思いとは?
2019.12.03
ポール・スミス大阪店は、青いレンガのファサードが印象的な関西初の旗艦店。オープニングパーティーには、アンバサダーに就任した若手俳優が出席すると聞きつけたらしくファンが店前に詰めかけていた。この日のために来日したポール・スミス氏に「女性客がたくさん来ていますよ」と告げると「モテモテで困っちゃうね」とウィンクして笑った。
日本展開40年を振り返ってもらうと「あのころ僕は、まだ8歳ぐらいだったかな」とおどけている。本国の旗艦店の話はいつしか、建物がもともと調剤師の個人宅で、調剤薬局としての営業許可が下りていたから、ビスポークテーラーとして開業できたという話に脱線している。「薬局は偉大だ」との結論に至るまで始終、本気のようなジョークを飛ばしている。
大阪の旗艦店は高級ブランドが軒を連ねる心斎橋筋に10月1日にオープンしたばかり。ここで今年本国でスタートしたメイド・トゥ・メジャー(MTM)が、日本でも展開されることが話題になっている。
「10年ほど前にスーツのブームがあったけれど、いまは状況が違う。ジャケット&パンツだったり、Tシャツにスーツだったり、スーツの着方も変わってきています。SNSを例に挙げるまでもなくこれからは個の時代です。MTMは個性を表現するためのものでなくてはならないのです」
パーソナルな個性を表現するための手段としてMTMを利用してほしいと御大は言う。急に立ち上がって自分が着ていたジャケットの裏地を見せつけてきた。そのオリジナルファブリックのライニングにはロンドンの街の写真がプリントされていた。「父の写真なんだ」と言う。アマチュアカメラマンだった父親の作品を着ることは、彼にとってのアンデンティティーの一部に違いない。
スマホを取り出して「いまから発音できないアーティストを紹介しよう」と言って往年のフィンランド人女性画家を検索してみせたり、先週ロイヤル・アカデミーで見てきたばかりだというアントニー・ゴームリー展の様子を動画で見せてくれたり。「Sir」の称号を持つ目の前にいる英国一高名なデザイナーは、世界的なアートマニアだ。店内のアートピースは、すべて氏自ら選んだもので、個性的なインテリアは什器としても機能している。ディスプレーにはアートピースと共に最新のコレクションが並び、キャッシャーの後ろには古典的な静物画と抽象画に、現代アートやポスターがコラージュされている。誰の作品
だろう、古い洗濯ばさみが1本だけ収められた額縁のオブジェがやけに印象に残った。
「美術館では皆、最初に説明書きを読むでしょう。誰の作品か、どんな作品なのかを理解してから作品を見上げている。まず作品を見て、気に入ったのなら説明を読めばいいし、気に入らなければスルーすればいい」
その言葉が「ブランド名に騙されてはいけない」と言っているようにも聞こえた。
ポール・スミス大阪店
大阪府大阪市中央区南船場3-10-19
06-6241-2330
営業時間/11:00〜20:00
水曜日不定休
LEGEND Photograph: Sunao Ohmori(TABLE ROCK.INC)
Text: Yasuyuki Ikeda (04)