特別インタビュー

ハワイに見るワーケーションと移動の価値。

2019.12.13

速水健朗

ハワイに見るワーケーションと移動の価値。

カカアコは、ホノルルでも新しく開発されつつある場所だ。ダウンタウンからもアラモアナとも近い海寄りの倉庫街のエリア。その倉庫の壁に描かれているウォールアートがインスタスポットとしても話題を呼んでいる。ショッピングモールのソルトは、非チェーン系の飲食店や雑貨店が軒を連ね、観光客向けというよりも、地元に密着したさばけた雰囲気の場所。そして、カカアコで特に目立っているのは、最新の高級コンドミニアム群である。

いまのハワイは、観光以外に特に産業のない島のイメージから脱却し、不動産やビジネスへの投資が進んでいる。さらに、食の地産地消化に取り組み、飲食の満足度もかつての比ではなくなっている。カカアコには、大きな変化を遂げているさなかのハワイらしさが集まっている。なんてわけ知り顔で書いたが、多くはあれこれ連れ歩いてくれた現地コーディネーターのレオ・ロジャースくん(33歳)の受け売りである。

カカアコにあるコワーキングスペース、ボックスジェリーを見学した。単にWi‐Fiがあってデスクがあるだけのスペースではなく、カフェと雑貨店が併設されている。犬が室内にいるのもいい(名前はゴビ。オーナーの飼い犬で、いつもいるわけではないと思うが)。ここにオフィスを間借りしているのは、ファッションや映像系などのクリエーティブ系の職種の人々。夕暮れ時の海が近い倉庫街というシチュエーションも含め、ハワイ滞在で最も印象的な場所のひとつだった。観光客が1日だけ利用することも可能。

この場所は、JALの今夏のハワイキャンペーンのCMでも使われている。CMでは、もちろんハワイの自然がたくさん紹介されるのだが、なかに一瞬「リゾートの合間に、ひと仕事」という長谷川潤がノートPCに向かっている姿が映るのが印象的。ハワイは永遠のリゾート地だが、最新のハワイは、ワーケーションの場でもある。

ハワイのワーケーションは日本人に合っている?

〝ワーケーション〞は、ワークとバケーションを組み合わせた造語だ。休暇先でも仕事をする。またはリゾート地で休暇を楽しみながら仕事もする。そんな働き方への提案の意をくんだ言葉である。ただ、周囲でヒアリングしても、初めて聞くという人のほうが多い。まだ普及途中である。世間の注目はともかく、このワーケーションという発想と日本人の働き方の相性がよさそうである。

仕事とプライベートをきちんと分ける。会社と家族の時間は別にすべき。夏は長めのバカンスをとりたい。もちろん、それが理想なのはわかるが、こうした課題は、すでに30年前から語られていたことでもある。いまさらそこを変えろと言われても、どだい無理な話。そして、理想とは別に、いま起きている働き方の変化は、もっとドラスティックだ。仕事と遊びの間にはっきり区別ができない時代。いつでもどこでも仕事のメールがくれば対応しなくてはならない。職住の距離は近接しながらも、遠隔地のリモートワークも進む。そんなワークスタイル変化のなかからワーケーションという発想も生まれてきたのだろう。

実際のところ今回の僕のハワイ行きも、複数の仕事をこなしながらの旅だった。まずはホテルの部屋に到着して、最初にしたのは窓を開けて青いハワイの海を見る前に、Wi‐Fiの環境を確認し、最新のメールを読み込む。ちなみに今回泊まったプリンス ワイキキは、ワーケーションへの対応を強く意識した対応をしている。1階のカフェ、ロビーが見渡せる2階のスペースなどホテル内には、PCを持ち込んで仕事ができるスペースが用意されている。圧巻は、ヨットハーバーと太平洋が見渡せる特別なクラブラウンジである。ここのテラス席では軽食やビール、ワインなどアルコールを含む飲み物が用意されている。ここを仕事に利用してももちろん問題ない。クラブフロアに滞在している客は無料、それ以外の利用には宿泊料とは別料金(1部屋2名で110ドル/日)がかかるが、PCを持ち込んで仕事をする環境としては、これ以上の場所は、地球上には思い当たらない。

テクノロジーの進化があっても移動は必要

今回の旅の目的は、ハワイで働く人々への取材である。思った以上に、働き方は多様化していた。

前出のカカアコのボックスジェリーを仕事場としている髙橋 塁は、ウェディング用の撮影を手掛けるブライダルギャラリー、NST PICTURESのハワイ支社で働いている。ハワイで式を挙げるカップルが主な顧客で、マネージメントの仕事をする髙橋はカカアコにオフィスを構えている。そして、動画編集の作業の8割は、沖縄の編集ルームで行われているという。現場とオフィスの距離は、現代では無効化されてしまう。

一方、移動そのものの価値については、これから増していくのだと語るのは、投資ファンド〝Drone Fund〞の千葉功太郎。年の3分の1はハワイで過ごす、大のハワイ好きでもある。

テクノロジー系スタートアップ企業への投資を行っている千葉へのインタビューは、Zoomで行った。こちらがハワイ、向こうは都内移動中。普段から、仕事の多くは電子会議によって行われているという。では移動は必要ないか。それは、逆だという。投資において相手を知ること、投資対象と面と向かって話すことは最も重要なこと。必要なときには、どこへでもすぐに移動するのだ。ちなみに彼は、ホンダジェットの日本人第1号の購入者。ハワイに来るときは、自家用ジェットではないが、国内でもハワイでもとにかく移動ばかりしている。仕事の多くは日本なのに、年の3分の1はハワイで生活する。一見、単なるハワイ好きの金持ちのように見えるが違う。彼は、移動そのものに価値を見ている。

新しい価値が生まれる場所

なぜ移動が価値なのか。テクノロジーの発展は、交通や通信のコストを下げていく。その結果として「いい場所だからいい人が集まる」という原理がもっと強く働くようになる。例えば、優秀なエンジニアは、世界中のどこでも求められている。彼らがワーケーション的に働くようになれば、住む場所のルールは変化する。いい場所=働く場所になっていく。ハワイの価値は、無限に高くなる。

千葉が投資しているのは、〝移動の未来〞。そしてハワイに住むことは、そこへの先行投資でもある。

「ハワイに住んでること自体がワーケーション」と言うのは、冒頭から登場してもらっているコーディネーターのレオくん。そもそも、今回のハワイ取材でのインタビュー(ここで取り上げられなかった人もたくさんいる)相手は、彼の人脈に頼ったもの。彼は、コーディネーターの仕事以外にも、日本のベンチャービジネスに関わってもいる。日本とハワイを行き来する彼は、移動そのものが価値という千葉の未来予測を身をもって示す存在だった。

ハワイについてわけ知り顔で書いたが僕にとっての人生初ハワイだったとラストでこっそり告白しておく。バケーションとして、仕事として、充実した取材旅行だった。移動は大事である。

Kenro Hayamizu
ライター。1973年、石川県生まれ。パソコン雑誌の編集を経て、2001年よりフリーランスとして、雑誌や書籍の企画、編集、執筆などを行う。主な分野はメディア論、20世紀消費社会研究、都市論、ポピュラー音楽など。著作『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』『東京β』『フード左翼とフード右翼』『ラーメンと愛国』ほか、企画編集『バンド臨終図巻』『ジャニ研!』。

関連記事/休暇も仕事もOK! ハワイでワーケーションなら「プリンス ワイキキ」へ

「アエラスタイルマガジンVOL.45 WINTER 2019」より転載

Illustration: Michihiro Hori
Coordinate: Leo Rogers
協力: ハワイ観光局、プリンス ワイキキ

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