特別インタビュー

クローゼットと向き合うことは、人生と向き合うこと。

2019.12.06

安積陽子

写真・図版

あなたにとってクローゼットとは、日常に潤いを与えてくれる場所でしょうか? それとも、毎朝ストレスを与えられる場所でしょうか? クローゼットの中は、自身の価値観や感情など、内面が明確に反映される傾向があります。私はこれまで数百人のクライアントに対し、理想のクローゼットを創るお手伝いをしてきました。興味深いことに扉の中の状況からは、クライアントの思考やバイオリズムだけでなく、内に秘めた自尊心までを感じ取ることができるのです。例えば、心や思考がクリアでないときは、不要なアイテムがあふれ、整理されていない状況に。自信を失いかけているときは、ブランドロゴが主張するアイテムが多く見られるなど、欠損したアイデンティティーを、ネームバリューで補う傾向が見られるケースも少なくありません。

ベストセラーの『フランス人は10着しか服を持たない』(大和書房)にも象徴されるように、現代では選択の煩わしさから解放される、シンプルでミニマルな暮らしを求める方が増えています。クローゼットに必要最低限の愛着あるアイテムをそろえることで、日々のコーディネートは効率的かつ機能的なものになり、ストレスも大幅に減少します。

生活に必要な余白を生み出すこともできるミニマルな暮らしは、心の余裕にもつながり、デトックス効果もあると感じられます。この効果で、思考はよりシンプルに、内面が充実することで日々のライフスタイルが輝きを増し、幸福度も飛躍的に向上します。逆説的に言うならば、ライフスタイルやキャリアに沿った、シンプルで愛着あるクローゼットを構築することこそ、「自己実現の第一歩」と言えるのかもしれません。

理想の自分になるためのクローゼットアナリシス

理想的なクローゼットの構成は、どのように進めるのがいいのでしょうか? ご自身で整理をする際の、参考にしてほしい方法として、機能的なワードローブ構築を実現する手法で海外では個人向けサービスも展開している「クローゼットアナリシス」のメソッドをお伝えします。

最初に行うのは「実現したいクローゼットの明確化」です。朝起きて10秒でスタイルが決まるミニマルな収納から、扉を開けた瞬間に優雅な気分に包まれる、幅広いバリエーションのそろう収納まで、理想的なクローゼットのイメージは人それぞれ。充実したライフスタイルや、理想のキャリアを送るために、毎朝どのような気分でクローゼットに向き合うかを考えることは、このメソッドの重要な作業のひとつです。今後どのようなステージで、どのような人々と、どんな時間を創造していきたいのか。未来をありありと想像しながら、手に入れたいクローゼットの明確なイメージを設定しておきましょう。

また、必要なときに必要なスタイルをまとうことのできる機能性や、ライフスタイルに合致した洋服がきちんとそろっていることも重要です。仕事やパーティー、プライベートや趣味に至るまで、幅広いシーンに対応したスタイルが、バランス良く含まれていること。そのために、自身の一週間の過ごし方や時間の比重を振り返り可視化していき、必要なワードローブの種類やカテゴリー、収納アイテム数のバランスを整えていきます。

ライフスタイルを可視化し、ワードローブとリンクさせる

一週間のライフスタイルを可視化する方法は、睡眠時間を7時間と仮定した場合、一週間の総時間から睡眠時間を省いた、純粋な活動時間となる119時間を基本として考えます。仮に、週55時間のワークタイム、20時間のプライベートタイム、ほか24時間は自宅で過ごすという方の場合、ワークタイムに約46%の時間を割いていることが分かります。過ごす時間の比重と同様、クローゼットの約46%をビジネスアイテムにすることで、ライフスタイルに対応した機能的な収納となります。ここで細かいビジネスシーンをイメージし、シチュエーションに対応できる衣服を備えることも大切です。例えば、キャリアや年齢が上がるほど、会食やイベント、冠婚葬祭にも対応したフォーマルな装いが必要になるもの。同様に、アクティビティーの種類に適したスタイルを取りそろえることで、プライベートタイムの質を大幅に高めることもできます。

次に理想となるクローゼットイメージにも意識を置き、収納されているアイテムから、本当に必要なモノだけをセレクトしていきます。まず、クローゼットに収納されている、すべてのアイテムを外に出し、利用可能なアイテムを選別していくのです。袖や襟元の取れないシミや、ほころびがあるもの、補正が利かないテカリやアタリのあるモノは、即座にお別れしたほうがいいでしょう。ほかにも、2年以上着る場面のなかったモノや、質や状態の良くないモノも、思い切って処分することをお勧めします。残すか、処分するか迷ったときは、理想のライフスタイルを創造できる一着であるのか、自分に問いかけることがポイント。「この服は気分を上げてくれるか」「まとうことで、気分やエネルギーが落ちることはないか」「生活を快適に、豊かなものにしてくれるのか」幾つかの問いに対し、ご自身の感情がどう動くかに焦点を当てます。心が温かくなり、愛を感じられるモノほど、生活を豊かに向上させる効果のある、ご自身にとって必要なワードローブと言えるでしょう。

収納の工夫は、人生をより豊かにする

最後にセレクトしたアイテムを、機能的に利用しやすく収納していきます。ポイントは、「ハンギング」と「分類」。まずは、クローゼットには衣服を傷めない間隔で、何着収納できるか把握します。1着あたりのスペースは、スーツやジャケットであれば10㎝、シャツであれば3㎝程度が必要。ハンギングするポールの全長を測っておけば、所持アイテムを美しく機能的に収納でき、つるすことのできる衣服の数量を、具体的に知ることできます。ビジネスやプライベートなど、シーン別に収納することで、ライフスタイルに密着した機能的なクローゼットとなります。

収納をする際には、日常の中でのぜいたく感やほのかな豊かさを感じるためにも、高級ハンガーを使用して……と言いたいところですが、クローゼットのスペースが充分でない場合も多いはず。そんなときは、スリムハンガーを利用しても問題ありません。できれば滑り止め加工が施されている、薄型のハンガーがお勧めです。反対にクリーニング店などのワイヤーハンガーでのハンギングはNG。衣服が伸びたり、シルエットが崩れてしまいます。同じ素材や柄、色味をグラデーションさせて、ショップディスプレーの雰囲気に近づけることも可能に。愛着ある厳選したアイテムを、理想のクローゼットイメージに合わせて収納することで、このメソッドは完了です。

ファッションのビジュアル面を称して使用されることの多い「スタイル」という言葉は、衣服やそのまとい方に限定されるものではありません。愛着のある衣服のことを考えた収納方法や、細かいメンテナンス、手に取るハンガーにもこだわり、クローゼットの構築を通して人生と向き合うこと。そんな真摯(しんし)な姿勢こそが、揺るぎないライフスタイルの軸を築き、ファッションを超えて、あなただけの「スタイル」を確立することにつながります。理想とするクローゼットの構築は、豊かさや快適さだけではなく、理想のライフスタイルを実現するための、揺るぎない自信や安らぎさえも与えてくれます。一年の締めくくりとなるこの時期、次のステージがより華やかで心満たされる日々になるよう、クローゼットを開いて、理想のスタイルを築いてみてはいかがでしょうか?

Yoko Asaka
アメリカのシカゴ生まれ。ニューヨーク州立ファッション工科大学でイメージコンサルティングの資格を取得。2005年、Image Resource Center of New York社で各界の著名人への自己演出トレーニングを開始。09年、同社の日本校代表に就任。16年、一般社団法人国際ボディランゲージ協会を設立、非言語コミュニケーションのセミナーや研修、コンサルティングを行う。著書に『CLASSACT(クラス・アクト)世界のビジネスエリートが必ず身につける「見た目」の教養』『NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草』がある。

「アエラスタイルマガジンVOL.45 WINTER 2019」より転載

Illustration: Michihiro Hori

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