特別インタビュー
一生付き合う長財布。
[渋谷直角 男が憧れる、男の持ち物。]
2019.12.04
多才でいてファッションフリーク、渋谷直角の愛用品からそのセンスを探ってみる──。
あまり精神的なものや迷信は信じていないタイプだけど、2つだけ守っていることがある。
ひとつは世田谷にあるハンコ屋さんの言葉で、そこは店主がそれまで使っていたハンコを見るだけで、過去も未来もズバズバ見通してしまう、というので有名だ。占いも信じてないけれど、店主に言われた「浮ついた仕事をしなければ、今後も大丈夫だ」という言葉だけ妙に引っかかっていて、いつも新しいお仕事の依頼は(これは浮ついているか?)と考えるようになってしまった。たぶん、身の丈に合わないくらい「オイシイ仕事」というのが「浮ついた仕事」と解釈しているのだけど、ハンコ屋の言葉を守って断ってしまったお仕事もある。断った後、割と後悔もしてるけど。
もうひとつは、長年使っている革の長財布。それまではポケットに入れやすい二つ折りばかり選んでいたが、気分を変えてみようか、と気まぐれに選んだ。いまでも覚えているのが買った日に新連載の依頼があって、それ以降、なぜか仕事が増えた。それまで生活費に困る月もあったのに、徐々に安定していって。それと財布を安易に結び付けたりは一切してなかったのだけど、数年後、急に「もういいか」と思って某ブランドの財布に替えたら、その月、立て続けに連載が3本終わるという連絡が来て、(こ、これは!?)と怖くなってしまい、慌てて元の財布に戻した。こうなるともうダメ。「財布様」という意識になってしまい、革用のクリームを塗ったり、糸のほつれをこまめに修理したり、ポケットじゃなくカバンに入れて大事に持ち歩くようになった。もう10 年近く使って、形もガタガタになってきたし、財布を見た人はみんな「すっごい味が出てますね!」と驚く(あまり褒めてるニュアンスではない)。でも、怖くて替えられないのだ。しかも買ったお店が最近閉店して、少しドキドキしている。
Photograph: Tetsuya Niikura(SIGNO)
Styling: Masahiro Tochigi(QUILT)
Cooperation: AWABEES