旅と暮らし

“アメリカでもっとも素晴らしいライブバンド”が待望の初来日
ニューオーリンズ発の生命力に満ちたグルーブをブルーノート東京で

2019.12.19

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路上に仲間たちが集まり好きなように歌ったりラップしたり楽器を鳴らしたりして、それを見ていた小さな子供たちもいつの間にかその輪に加わって跳ねたり歌ったりしている、そんな光景が目に浮かぶ音楽だ。南部の町の息吹が感じられる。子供たちとお年寄りが一緒にいる暮らしがあり、車やバイクがせわしなく通っていて、決して裕福というわけではないけどみんなが日々を逞しく生きている、そういう場所から生まれてくる音楽。スタジオに籠ってコンピュータや機材とにらめっこしながら作られた音楽という気がまったくしない。

歌とラップ(またはポエトリー・リーディング)が分かち難く結びついていて、生命力が感じられ、どこか演劇的でもある……といったあたりから、初めてタンク・アンド・ザ・バンガスのアルバム『グリーン・バルーン』を聴いた際、自分は90年代の初め頃に登場したアレステッド・ディベロップメントのことを思い出した。ジョージア州アトランタで結成されたあのグループの中心人物だったスピーチは、南部の田舎からのものの見方をポジティブな音楽に乗せて提示していた。

タンク・アンド・ザ・バンガスの顔と言っていい女性、タンクことタリオナ・ボールはというと、ニューオーリンズの日常からさまざまなインスピレーションを受けて、それをリリックに落とし込み、バンドの音に乗せながら物語を浮かび上がらせている。アレステッド・ディベロップメントもタンク・アンド・ザ・バンガスも明るく生き生きとバンドで音楽を表現していながら深みもあり、物事を別の視点から捉えることの大事さも教えてくれる。

そんなわけでタンク・アンド・ザ・バンガスの本格デビュー・アルバム『グリーン・バルーン』を自分は2019年のベスト10に入れたくなるくらい気に入って愛聴していたのだが、2020年に初来日公演が決まり、今から待ち遠しくてたまらなくなっているところだ。

改めて説明しておくと、タンク・アンド・ザ・バンガスはジャズやブルーズやソウルミュージックの聖地であるニューオーリンズのバンド。結成のきっかけは2011年にニューオーリンズで行なわれたオープン・マイク・ナイトで、そこで即興のセッションを介して知り合った5人……タリオナ・ボール(ヴォーカル)、メレル・バーケット(キーボード)、ジョシュア・ジョンソン(ドラムス)、ノーマン・スペンス(ベース、シンセ・キーボード)、アルバート・アレンバック(サックス、フルート、パーカッション)はすぐに意気投合してバンドになったそうだ。

ニューオーリンズ・ジャズ&ヘリテッジ・フェスティヴァルに出演して注目を集め、ツアーに出てライヴの力をつけた彼らは、2013年に初アルバム『Think Tank』を自主リリース。全米でも名が知られるようになり始めた頃にアメリカのラジオ局NPRによる人気ライヴ企画「Tiny Desk Concert(代表曲をアコースティックで演奏する企画で、タンク・アンド・ザ・バンガスは6000組以上の応募のなかから出演の座を勝ち取った)に出演し、その動画が公開されると世界中の音楽好きが熱く反応して、一躍人気バンドとなった。

その動画(*YouTubeで「Tank And The Bangas: NPR Music Tiny Desk Concert」と検索すれば観ることができる)を観ればこのバンドの魅力がすぐにわかるだろう。男性メンバーたちの生み出すクールなグルーヴもいい感じだが、なんといってもヴォーカルのタンクのクルクル変わる表情と歌声から目と耳が離せない。豊かな身体を揺らし、手振りもつけて、彼女は教会のプリーチャーのように歌いもすれば、声色を変えて子供のように歌ったり、母親が子供に言い聞かせるように歌ったり、急にドスを利かせたり。1曲のなかで変幻自在に声を操るのだ。まるで彼女のなかに何人もの別人が住んでいるよう。しかも聴き手を圧倒するというより、観ている者みんなを巻き込んでたちまち楽しい気持ちにさせ、心を掴んでしまう。こんなにも豊かな表現力を持った女性、そうそういない。

ノラ・ジョーンズもファンであることを公言
ボーカル、タンクの豊かな表現力に注目!

『グリーン・バルーン』はそんなタンク・アンド・ザ・バンガスの世界デビュー・アルバムで、今年(2019)5月に国内盤も発売された。緩やかなソウルを基調にヒップホップやジャズの色合いも自然に混ぜ、イントロやインタールードを含めながら流れるように進んでいく全17曲。インタールード2曲と「レイジー・デイズ」という曲にはロバート・グラスパーの鍵盤がフィーチャーされ、「ホット・エア・バルーンズ」というスロー曲にはアーニー・アイズレーの娘であるシンガーのアレックス・アイズリーがフィーチャーされるなど、ゲストもいいアクセントを加えている。

曲の多彩さも全体の流れのスムースさも良いが、やはりこのアルバムでもタンクの歌とラップまたはポエトリー・リーディング表現の自由さ、豊かさが際立っていて、グッと惹きつけられる。情景も感情も全て言葉の発し方、強弱で、見事に表現しきってしまう。彼女が明るく歌えばパアっと華やいだ気持ちになるし、深みある歌い方をすれば深いところに持っていかれる。そういえばノラ・ジョーンズもかねてからタンクのファンを公言し、2017年にニューオーリンズで行なわれたタンク・アンド・ザ・バンガスのライヴには飛び入りで参加。そして今年7月にはタンクをフィーチャーした「テイク・イット・アウェイ」を配信リリースし、続いて11月末にも再びタンクをフィーチャーして「プレイング・アロング」を配信リリースした。ノラはよほどタンクの才能を買っているのだろう。実際ふたりは非常に息があっており、できればこのまま一緒にアルバムを作ってほしいくらいだ。

グラミー賞の最優秀新人賞にもノミネートされてますます注目度が高まっている、そんなタンク・アンド・ザ・バンガスは、NPR MUSICに「アメリカでもっとも素晴らしいライヴバンド」と紹介されもしたが、その素晴らしいライヴがもうすぐブルーノートで体験できる。タンクとバンドの素晴らしい表現力を近い距離で直に感じることができるのだ。音楽の喜びを心行くまで味わわせ、観る者全員を幸せに気持ちにさせる最高のライヴになることは間違いない。本当に、本当に楽しみだ。

内本順一(うちもと・じゅんいち)
エンタメ情報誌の編集者を経て、90年代半ばに音楽ライターとなる。一般誌や音楽ウェブサイトでCDレビュー、コラム、インタビュー記事を担当し、シンガーソングライター系を中心にライナーノーツも多数執筆。Note(ノート) https://note.mu/junjunpaでライブ日記などを更新中。

公演情報
The EXP Series #34
TANK AND THE BANGAS
タンク・アンド・ザ・バンガス

<東京公演>
公演日/2020 年1 月31 日(金)、2月1 日(土)
1 月31 日(金)
[1st]Open17:30 Start18:30 [2nd]Open20:15 Start21:00
2月1 日(土)
[1st]Open16:00 Start17:00 [2nd]Open19:00 Start20:00
会場/ ブルーノート東京
料金/ 7800円(税込)
その他詳細についてはこちら

<名古屋公演>
公演日/2020 年2月3 日(月)
[1st]Open17:00 Start18:00 [2nd]Open20:00 Start20:45
会場/ ブルーノート名古屋
料金/ 7800円(税込)
その他詳細についてはこちら

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