お酒
フランチャコルタという選択。
―イタリアから生まれた奇跡―
2019.12.30
瓶内二次発酵のスパークリングワイン
ミラノから車で約1時間、自然あふれるロンバルディア州東部に位置するフランチャコルタ地域。1967年、この地でスパークリングワインのフランチャコルタは誕生した。年間1750万本と、ワイン市場において決して多くはない生産量にもかかわらず、世界中で不変の人気だ。探っていくと、魅了される背景が見えてきた。
「フランチャコルタ」という呼称、これは生産地域、ワイン名、製法を表す。シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ビアンコの高貴なブドウ品種のみを使い、手摘みで収穫をし、自然な瓶内二次発酵、酵母の澱(おり)を入れたまま長期熟成――。フランチャコルタの生産方法は、究極の高品質ワインを造るために厳格かつ精密な規則により統制されている。
「フランスのシャンパーニュ地方が涼しい地で成熟しないブドウを逆手にとっておいしいシャンパンを造り出した産地だとすると、フランチャコルタは、すくすくと成熟したブドウを瓶内二次発酵でフレッシュなスパークリングワインに仕上げた産地なんです」。イタリアワインに精通するワインジャーナリストの宮嶋 勲氏はそう語る。「フランチャコルタのブドウは果実味があり酸がやわらかいため、ドザージュ(糖分添加)がシャンパンより少ない。つまりドザージュ・ゼロでも、胃にくるような攻撃的な味にはならないんです」
農作物には向かない土壌が恩恵をもたらした
なぜフランチャコルタでは、味わい深いブドウができたのか。その理由のひとつに、湖が挙げられる。この地域はアルプス山脈のふもとの穏やかな丘陸地帯のため、朝夕の寒暖差が激しい。しかし近くにあるイゼオ湖のおかげで、寒い時期は暖かく、暑い時期は涼しく、年間を通して気候を穏やかに保つことができた。
ふたつ目の理由が土壌だ。この地は氷河に削り取られた岩石や岩屑(がんせつ)、土砂などが積み重なってできた氷堆積土壌になっている。やせた土壌は農作物には向かないが、水はけが良く、豊富なミネラルを含み、ブドウが凝縮し成熟できる環境に適していた。
それが実証されたのが、1967年のDOC(原産地呼称管理)法認定。これは特定地域の環境や風土に由来する優れた特性を有することを示す。95年には、イタリアワインの格付けを示すDOCG(統制保証原産地呼称)で、瓶内二次発酵方式のみで造られるイタリアワインとして初めて認定された。近年、有機栽培を行うブドウ農家がさらに増え、多くのワイナリーが香りや味わいの良さだけでなく、私たちの周りにある貴重な〝水、土地、空気を尊重するワインこそが高品質ワインである〞という認識を広めるため努力している。そのサステナビリティが評価され、2016年には有機農法のブドウ栽培が最も多く行われている地域であることも認められた。
Q.フランチャコルタにはどんな種類があるの?
【フランチャコルタは全5種類】
フランチャコルタは現在115軒のワイナリーで造られている。知っておくべきワインの種類は、フランチャコルタ、フランチャコルタ・サテン、フランチャコルタ・ロゼと、長期熟成するタイプのフランチャコルタ・ミッレジマート、フランチャコルタ・リゼルヴァ。伝統的なキノコ形のコルク栓とワイナリーごとの王冠もチェックしよう。
<フランチャコルタ>
収穫期から数えて醸造と熟成期間は最低25カ月。酵母の香りやミネラル、爽やかな酸味の、洗練された上品さと調和の良さが特徴。
<フランチャコルタ・サテン>
厳選されたベースワインのブレンドと低めの内圧で、繊細な泡立ちに。ほどよいミネラル感と酸味がシルクのような肌触りを思わせる。
<フランチャコルタ・ロゼ>
ピノ・ネーロの果皮から芳しいアロマと美しい色を抽出する。ブドウ品種特有の香りに加え、ボディーと独特の活力を与える。
<フランチャコルタ・ミッレジマート>
作柄の品質が特に良く、ワインの価値が高まる収穫年度に造られる。天候、品質を鮮やかに映し出す香りや味の個性がある。
<フランチャコルタ・リゼルヴァ>
極上品質のミッレジマートを用い、香りと味を最大限に際立たせるため、酵母の澱を入れたまま最低5年間熟成させる、芳醇なワイン。
Photograph: Mitsuya T-Max Sada
Illustration: Chika Miyata