カジュアルウェア
ファッショントレンドスナップ67
カジュアルアウターの代表選手カバーオールジャケットを
ビジネス仕様に激変させるプロの技を解明!
2020.05.18
アメリカの鉱山で働く人たちのために生まれたジーンズは、時間を経てアメリカのさまざまな労働者がはくパンツに。今ではカジュアルファッションの主要アイティムでありビジネススタイルでも見かけるおしゃれなパンツへと大変身しました。
ジーンズほどではありませんが、同じように作業着から普段着に格上げされたものにカバーオールがあります。似たものにジージャンがありますが、カバーオールはそれに比べ少し着丈が長く、パッチポケットが3〜4個付き、シルエットもややゆったりの寸胴というのが大きな特徴。
アメリカで有名なブランド(個人的な好み)では、カーハートやリー。リーの代表作は、1928年に発売された鉄道員用の上着の「ロコジャケット」と呼ばれるもので、同じデザインのものが今でも購入できるというロングセラーでもあります。
ヨーロッパでもほぼ同じデザインのものがありますが、細かな縫製と生地の染色や素材が違っていて雰囲気が若干異なります。有名なブランドは1913年創業のル・モンサンミッシェルやフランス海軍にバスクシャツ(ボーダーの長袖)を納めていたセントジェームス。
こうしたルーツをもつカバーオールですが、最近はビンテージマニアやトレンディーなブロガーがこぞって取り上げていて、世界的に人気に火がつきました。今回はスナップを基に新しいオーバーオールの着こなし方をレクチャーしたいと思います。
今回のジェントルマンが着ているのはコットンの3パッチポケットのカバーオール。どちらかというとヨーロッパテイストのデザインです。アメリカ系はボタンが金属でポケットの端がリベットで補強されていることが多いのですが、フレンチワークは、そうした金属使いがないのが特徴。そうしたゴツゴツしたディテールがないうえに、色がこのクリーム色なのでほとんど作業着感がありませんね。
胸元を見るとシャツは、ワークウエアでよく使われるダンガリー生地で襟はドレッシーなセミワイドカラー。ネクタイは、ネイビーのニットタイ。このジェントルマンは、ネクタイを普通のシルク生地のものにすると全体のカジュアル感のバランスが崩れると考えたのでしょう。実はここの選択はとても重要。
全体を見れば見るほどただ者ではないオーラが出ていますね! カバーオールジャケットにベレー帽を合わせる感覚は紛れもなくファッションのプロならでは。ちなみに私は、こんな斬新なコーディネートを見たのは初めてです。
パンツは一見普通のジーンズに見えますが、よくよく見ると左の太もも部分に大きなパッチポケットが付いています。これは、1940年代の英国陸軍のパンツにあったデザインで、それを現代風にデザインしデニム生地で再現しているというこだわり満載のパンツ。
軍パンがベースなのでシルエットは太めですが、これは今年のパンツのトレンドとかぶる大切なポイントです。
いろいろ深掘りしましたが、個々の服は大まかに見ればどれもベーシックなデザインなので、この雰囲気に近いデザインのものを日本で購入するのは難しくはないはずです。ただし、このジェントルマンのようなオーラを出すには、ファッションの長い修業が必要かと思いますが……。
今回の再現スタイリングは、ニットタイを無地から小紋柄にあえて変更しています。今回のジェントルマンのようにベレー帽やひげといったインパクトがあるものが上半身にある場合は、Vゾーンをシンプルにするのが王道ですが、そこまではできない方が同じコーディネートにすると全体にメリハリがなくなってしまう恐れがあります。
そこで今回は、ニットタイをあえて柄ものにしました。ここは、ボーダーやドットのニットタイに替えてもハマります。
ストライプ柄のカバーオール¥15,819/バナナ・リパブリック(バナナ・リパブリック 0120-77-1978)
デニムパンツ¥37,500/セラードアー(アントリム 03-5466-1662)
デニムシャツ¥14,000/スレッド、ニットタイ¥16,000/カナーリ、スニーカー¥46,000/ヘンダーソン(以上アルソーレ 045-901-1808)
カバーオールは細いストライプのリネン☓コットン素材で、ポケットはワークウエアの王道デザインの3パッチ。
よくよく見るとボタンは古いワークウエアによく用いられていた猫目ボタンと言われるもの。これは1940〜1960年くらいにアメリカのワークウエアによく見かけられていたボタンで、穴が2つで糸が通るところがへこんでいます。
こうすることで、激しい作業をしても糸が切れにくくしているのです。単なるかわいいデザインではないのです。
このように上質な素材とクラシクなディテールをうまくミックスするアイデアは、ゴールドラッシュが起こったカリフォルニアで生まれたバナナ・リパブリックならではですね。
掲載した商品はすべて税抜き価格です。
プロフィル
大西陽一(おおにし・よういち)
数々の雑誌や広告で活躍するスタイリスト。ピッティやミラノコレクションに通い、日本人でもまねできるリアリティーや、さりげなくセンスが光る着こなしを求めたトレンドウオッチを続ける。