週末の過ごし方
絶対に泊まりたいホテルと食したいグルメ
西オーストラリアの魅力を探る旅<1>
2020.05.29
直行便就航でぐっと近くなったパースへ
オーストラリアでメジャーな都市といえば、シドニーとメルボルン。ウルルやケアンズ、ゴールドコーストも日本人旅行者に人気の場所だろう。とにかく広いオーストラリア! 世界第6位の面積を誇り(769万㎡で日本の約21倍)、旅をしようと思えばその目的地は無尽蔵にある。
そんななか今回注目するのはパースを州都とする西オーストラリア州。国土の3分の1を占め同国最大の州ながら、パッと思い浮かぶイメージがない人も多いはず。というのも、日本と西オーストラリアを結ぶ直行便はここ9年ほど飛んでいなかったのだ。それが昨年9月からANAが東京(成田)からパースへ飛ぶ便を毎日運行するようになり、ぐっと身近に旅ができるようになった。
日本語でパースと検索すると“世界一美しい街”という言葉がよくヒットする。その出どころが謎だったが、行ってみれば納得。第一に太陽が燦々(さんさん)と輝き、青空の下を歩くだけで気持ちがよく、もうなんだかネアカになれそうなくらい。パースの一年の晴天日は平均200日もあり、筆者が滞在した11月中旬の9日間は毎日が快晴だった。
また、オーストラリア第4の都市で都会的な遊びもいっぱいありつつ、30分クルマを走らせればブドウ畑が広がり、45分あれば海でイルカと一緒に泳ぐボートツアーに出られるなど、本当に環境が健やか。そこで、西オーストラリアの旅リポート前編では、パースとその周辺エリアでの遊びを紹介する。
絶対に泊まりたい、すごくいいホテルが2軒ある!
成田空港から約10時間のフライトを経て、パースに到着するのは20時半。せっかくのロングフライトの旅、まずは出だしから気分が上がるホテル「コモ・ザ・トレジャリー」を覚えておいてほしい。
ここはCOMO Hotels and Resortsに属するホテルのひとつで、同ブランド自体、全般的にセンスがいい。加えてパースのCOMOはあのケリー・ヒルが手がけたホテルであり、彼と街の背景を知るとさらにスペシャルに感じるのだ。
ケリー・ヒルといえば、数多くのアマンを設計したホテル建築界の巨匠。彼がデザインする空間に魅了され、アマンのとりことなった旅人は数知れない。そのケリー・ヒルは実はパース出身で、晩年、故郷に造ったホテルが「コモ・ザ・トレジャリー」なのだ。ホテルのオープンは2015年で、ヒルは2018年にパースで75年の生涯を閉じた。
ホテルが入る「ステイトビルディング」は140年の歴史を誇る建物で、元は政府機関のオフィス。それが2015年にレストランやバー、カフェ、ホテルを備える大人の遊び場として生まれ変わった。長い歴史を感じさせる赤レンガの外観も美しく、そしてホテルに入れば、いまどきな“おしゃれっぽい”ものではかなわない普遍的な美しさを放つ空間が広がる。
また、ホテルが入る「ステイトビルディング」内の飲食店のレベルが高く、筆者はパースに8泊しているあいだ、5食このビル内で食事をとり(WILDFLOWER、Long Chim Perth、Petition、Petition Wine Bar、POST)、ワインをよく飲み、コーヒーも1階の「TELEGRAM COFFEE」で買っていた。
さらに「The Honeycake」のハチミツとキャラメルのケーキは帰国前に箱買い。複合ビルとしてセンス抜群でホテルが素晴らしいので、「このホテルに泊まるためにパースにまた行きたい」とすら思っている。
もうひとつ、最新のホテルとしておすすめなのが「ザ・リッツ・カールトン・パース」だ。こちらは記念すべき100軒目のザ・リッツ・カールトンであり、昨年11月18日にオープンしたばかり。スワンリバーのほとりに立ち、なんといっても眺望が気持ちいい。インフィニティプールもスパのジェットバスも、さらにバーや客室も抜け感がよく、リゾートのような解放感。
正面には雄大に流れるスワンリバーやその向こう側の森が見え、さらに右手側には高層ビルがそびえ立ち、このホテルに来れば街の地理を把握することができる。こんなに自然と都市部が隣り合う街なのだと、パースが好きになるロケーションだ。
加えて、他都市のリッツ・カールトンのイメージで来ると、これまでにないナチュラルなデザインのため意外性があって面白い。ロビーから廊下、レストラン、客室までほぼすべての床が無垢の板張りで、エレベーターの床まで木の板なのだから徹底している。そんな木目をめでる造りが自然いっぱいの西オーストラリアらしくあり、かつくつろぎやすい。
「コモ・ザ・トレジャリー」と「ザ・リッツ・カールトン・パース」はまったくタイプの違うホテルで、共にレストランも素晴らしいので、例えば2?3泊ずつして一度はそれぞれのレストラン(WILDFLOWERとHearth Restaurant)で食事をすれば旅の満足度はかなり上がるはず。どちらも西オーストラリア固有の食材を多用したユニークかつ洗練されたダイニングなので、この地の生産物を知るためにも必食だ。
食材とワインが豊富だから、街のグルメどころも充実!
お次は街のおすすめのグルメどころについて。筆者は日本を出るときから、「西オーストラリアに着いたら生牡蠣を食べるぞ!」という思いでいっぱいで、その気持ちを完璧に満たしてくれたのが「Petition Wine Bar」。牡蠣は何軒か食べたけれど、ここがいちばん丁寧に提供していた。生牡蠣もワインも間違いないので、もしもパースで牡蠣を欲したら、ここか同系列の「Petition」がおすすめ。
次に、オージー・ビーフを求めた結果、高級ステーキハウスよりも気に入ったのが、「Santini Grill」。薪焼きによるステーキのほか、西オーストラリア州の食材をイタリアンとして提供する。地元のオフィスワーカーに人気があり、19時には満席に。活気ある店内には肉を焼く香りが漂い、オージー・ビーフのビステッカ(ビーフステーキ)が次々とオーダーされていく。前菜はリコッタチーズを詰めたズッキーニの花がお勧めだが、“肉の前に肉”という肉好きにはラムチョップという選択肢もあり。
続いてパースらしいと思ったのが、アジア料理がおいしいこと。“住みたい街”として人気のパースにはアジア系移民も多いためアジア料理店が点在し、タイ、ベトナム、広東料理では個人的ヒットの店があった。生地からしっかり手作りの飲茶の店「Shy John」はクラフトビールも自社ブランドで、そのビールと飲茶の組み合わせがいい。飲茶は全13種類あり、多彩さと生地のもっちり食感から本気度が感じられる。
ほか、朝8時半から昼までしか営業していないフォー屋「Mama Tran」も、タイ料理の「Long Chim Perth」も、それぞれ2回ずつ行ってしまった。ワインをたっぷり飲んだ次の日のフォーは身体に染み入るおいしさ。パクチーのトッピングがセルフなのもうれしい。
「Long Chim Perth」はバンコクの「ナーム」で名を知らしめたデイヴィッド・トンプソンの店で、ハーブやスパイス使いが鮮やか。また、西オーストラリアのワインが充実かつお手頃で、タイ料理をつまみにこの地のワインを楽しむことができる。
自分のSNSで友人たちから最も関心を引いていたのは、バー「Varnish on King」のウイスキーとベーコンのペアリングセット。これは4種のテイストの違う特注ベーコンとそれに合うウイスキーを提供するセットで、ベーコンは部位やスモーキー加減が異なる。こういう単一食材の味違いペアリングは大人の実験のようで面白く、東京でも人気が出そうだ。
日本ではバーというと食後の2件目というイメージが強いけれど、パースでは夜遅めよりも17〜18時ごろ(終業が早い!)が盛り上がっていた印象。仕事終わりの陽気なムードのなかで、みんなしゃべっちゃ飲む。7軒行ってみたなかでカクテルは「Cheeky Sparrow」と「Bobeche」が味わいにメリハリが合ってよかった。
<2>では、洗練された都会の遊びを楽しみつつ、滞在中にマストなのが近隣の大自然へのハーフトリップを紹介する。
プロフィル
大石智子(おおいし・ともこ)
出版社勤務後フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、毎月海外に渡航。スペインと南米に行く頻度が高い。柴犬好き。SDエイバルファン。Instagram(@tomoko.oishi)でも海外情報を発信中。