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「五大陸」が考える、これからの仕事着。
2020.07.03
この未曽有の事態で、私たちの生活は大きく変わりました。とりわけ仕事においてはリモートワークにシフトするなど、いままで以上に働き方の変化が加速。それに伴い、ビジネスウエアの在り方はどう変わっていくのか。日本のスーツ業界を牽引(けんいん)してきたキーマンに、アエラスタイルマガジンWeb編集長の山本晃弘が切り込みます。今回のゲストは、長きにわたって日本の働く男たちに仕事着の理念を発信している「五大陸」のデザイナー石丸幸徳さん(写真上)です。
山本 新型コロナウイルスの影響で、リモートワークやWeb会議がずいぶん増えてきました。そんな時代にスーツが果たす役割はいままでとは変わるのか、それとも変わらないのか。石丸さんはどうお考えですか?
石丸さん(以下、敬称略) そもそもスーツの価値や役割は、時代と共に緩やかに変わっています。何かのきっかけがある度に、スーツを着ない方が増えていっている。それが新型コロナウイルスで、だいぶ早まったという印象です。
山本 自粛期間が明けても、毎日出社する人は少なくなりましたよね。でも出社の際は、逆にスーツをビシッと着たいと考えている人も多いと思うんです。“ハレとケ”みたいなことがすごくはっきりしてくるというか。その時代を検分していかないといけないと私は考えます。
石丸 そうですね。よりスーツをビシッと着ることに特別感が増すと思います。でも実際、多くの人はその機会が減ると思うんですよね。ただ、スーツを着る機会は一定数はあるので、「五大陸」ではパターンオーダーのスーツに主軸を置く方向にシフトする予定です。
山本 それは新型コロナウイルスを受けての方向転換ですか?
石丸 実はその前から考えていました。スーツは他のアイテムに比べるとサイズが多く、ひとつの商品に対して五大陸では16サイズもあるんです。だからどうしても在庫を抱えてしまう。
山本 私も口が酸っぱくなるほど伝えてきましたが、スーツは何よりサイズ感が重要ですからね。
石丸 パターンオーダーを主軸にすることで、よりジャストフィットするスーツが提供できて、それでいて在庫のロスも減らせる。そのロスを減らせた分は生地バリエーションに回すことで選択肢も3倍に広がるんですよ。
山本 そうなるとお客さまにとってもメリットはありますね。自社工場は中国にあるとのことですが、ファッション界をはじめとする多方面で“中国依存”が指摘されています。これから国内生産の比重を上げようとお考えですか?
石丸 現在、国内2工場、中国の自社工場で生産していて、その比重を上げようと検討しています。ただ、業界全体が国内回帰するかと言うと、スーツに関しては工場をすぐ替えるのは難しい。工程の多さが群を抜いているスーツはいい工場でも、お願いしてすぐにいいスーツが作れるわけではないんですよ。材料と型紙が同じでも工場によって随分違う。それ位品質に占める工場の比重は大きい。工場には技術スタッフが年間100日程、何十年と出向いていますが、私たちの意向を何度も細かく伝えていかないとクオリティーを保てないのです。
山本 なるほど。確かに作るのが難しいアイテムなので、すぐに工場を替えるのは難しいですね。先ほどスーツの需要はさらに下がるという話がありましたが、私たちメディアも含め、スーツをもっと盛り上げていかないといけないと思うんです。その一方でスーツを着ない人たちに何を提案していくかという課題も出てきます。たとえスーツがなくなっても仕事着はなくならないですから。
石丸 何十年も変わらなかったTPOが、新型コロナウイルスでリモートワークなどの新しいオケージョンも生まれましたしね。いまは家=オフではなくなった。
山本 家にいながら書類も作るし、家にいながら会議にも出席するし、かなり複雑。仕事着にはオンとオフを区切る役割もありますが、リモートワークが多くなるとそれも難しくなっていますよね。それに適したアイテムや着こなしを具体的に提案できるといいのですが。
石丸 いまはリモートワークに特化したジャンルはないですが、少し前から注目されているセットアップが回答のひとつだと私は思っています。Tシャツとパンツで仕事して、Web会議があったらさっとジャケットをはおる。ナイロンなどの合成繊維を使ったものが多く、シワになりにくいこともリモートワークに推奨する理由です。
山本 確かにセットアップはリモートワークに最適ですね。今回の新型コロナウイルスをきっかけに、百貨店などでの売り方も変わってくると思うのですが、いかがですか?
石丸 いままで以上にパーソナライズした接客が重要になってきます。トレンドは不特定多数の方たちへの発信ですが、それよりも、その人がどうすればもっとよく見えるかを提案していきたいと思っています。
山本 私も時計の原稿で同じようなことを書いたのですが、これから時計が売れなくなると言われるなかで、絶対に力を入れないといけないのはパーソナライゼーション。そういうサービスが、時計だけでなくファッションにも求められる。そうなると、重要になるのが売り場の力ですよね。
石丸 まさに売り場に力を入れないといけないと思っていて、特にコミュニケーション方法ですね。このお客さまはどのように接客したら興味をもってくれるのか。トレンドやウンチクをただ伝えるのではなく、私たち作り手の話をかみ砕いてわかりやすく伝える。ECで買い物する方も増えていますが、売り場のいいところはお客さまと販売員のお付き合いから生まれる信頼関係ですから。その接点が売り場以外でも増えているのが、いまの時代だと思います。
山本 販売されるスタッフの能力がいままで以上に問われるってことですね。
石丸 また、インスタグラムなどのSNSを使って、お客さまとのコミュニケーションを深めていきたいとも考えています。いままで企業内デザイナーは前に出ることはなかったですが、僭越ながら私も顔を出してお客さまと会話を増やしたいと思っています。
山本 個人的には、作り手が見えることはとってもいいことだと思います。石丸さん、この企画をまた秋冬にやりましょう。新型コロナウイルスが終息したら、ビジネスウエアの在り方がさらに変わっている可能性もありますから。現状では不確定要素が多すぎて(笑)。
石丸 ぜひやりましょう! そのときにはさらに変わった「五大陸」をお伝えできると思います。
五大陸の最新情報はインスタで!
アカウント:gotairiku1992
掲載した商品はすべて税抜き価格です。
Photograph:Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT)
Text:Kyoko Chikama