お酒

トップバーテンダーの後閑信吾が焼酎造りに挑んだわけ

2020.07.10

小松宏子 小松宏子

トップバーテンダーの後閑信吾が焼酎造りに挑んだわけ

いま最も注目されているバーテンダーのひとりである、後閑信吾(ごかん・しんご)氏。2006年に単身NYに渡り、カクテルの本場で腕を磨いたのち、上海に拠点を移して3店のバーをオープン。2017年にはバー業界のアカデミー賞と⾔われる Tales of the Cocktail の The Spirited Awardsにおいて「International Bartender of the Year」を受賞するなど、世界に認められたのち、満を持して2018年、渋谷にバーを開いた。

その名はThe SG Club。SはSip(ゆっくり味わって飲む)、GはGuzzle(気軽に飲む)の頭文字だ。そんな感度の高いバーが蔵元と共同開発で、バーで使い勝手のいいオリジナル焼酎をリリースした。着想から2年を要する、大掛かりなプロジェクトだった。

「SAKEはすでに、世界で認知されていますが、焼酎はまだまだです。日本にバーをオープンする際に、日本ならではのカクテルを模索しましたが、その答えのひとつが焼酎を使うことではないかと思ったんです。なぜなら、焼酎は日本独自のスピリッツであり、非常に高いクオリティーを誇り、固有の文化的背景を持っているからです。

けれど、カクテルに使うにはアルコール度数が低いという問題がありました。ウォッカやジンは40度前後ですが、焼酎は25度がほとんどなんです。そうしたなかで熊本県の高橋酒造さんと知り合う機会があり、考えを述べると、すぐに賛同していただけました。それで一気に話が具体的になったのです」と後閑氏は言う。

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KOME、IMO、MUGI 3種の味わい

後閑氏が温めてきた構想としては、焼酎の3本柱である、米、芋、麦3種の焼酎を造るということだった。というのも、本格焼酎は蒸溜は1回のみという規定があるので、原料の風味が強く残る。だからこそ、米、芋、麦3種の焼酎をそれぞれ開発したいと思ったのだ。そこで、芋や麦でも後閑氏の考え方に賛同してもらえる蔵元を探して回った。代表的な産地の蔵を訪ね回り、最終的に芋は鹿児島県の薩摩酒造、麦は大分県の三和酒類と話がついた。

「初めて弊社で3蔵元とミーティングを持ったときには、ピンと空気が張り詰めたようでした。皆が初めての試みでしたから。でも、焼酎を世界の酒にしたいという思いを熱く語ると、皆さん賛同してくれました。思いは同じだったのです。そうして、実際の商品開発が始まりました。その後は、試作品を送ってもらい、こちらで試飲して、もっと吟醸香が欲しいなどの感想や要望を伝えるというやりとりを続け、ついに1年後の昨秋に完成しました。商品名はワールドワイドに覚えてもらいやすいように “KOME” “ IMO” “MUGI”にしました」

それぞれの焼酎には、どのような特徴があるのだろうか。後閑氏に解説を頼むと、米は日本酒に似て吟醸香がしっかりとあり、まさに日本酒のスピリッツ。りんごやパイナップルの香りもあり、ジンやウォッカのように、スタンダードに使える。

芋は紫芋を使用しているため、フルーティーさが際立つ。トロピカルフルーツとの相性がよく、ラムやテキーラのように使える。

麦は焼いたパンのような香ばしさがあり、樽熟をブレンドしたことで、ウイスキーのようなニュアンスが楽しめる。クリアな感じを保ちつつ、コクを出すのに苦労したという。以上が後閑氏による3種の特徴だ。

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1860年代のアメリカの薬瓶をイメージしたボトル

並行してThe SG Clubが取り組んだのがボトルの開発だ。アメリカでは750㎖でないと販売できないので、そこはマストな条件だった。というのは、カクテル需要が圧倒的に高いアメリカを除いて展開を考えることはできないからだ。

後閑氏は1860年代の薬瓶をイメージしていた。ボトルを見ると背が低い容器であることに気づくだろう。その理由はバックカウンターにボトルを並べる際に、背の高いものは奥に回されてしまうからだ。それではラベルが隠れてしまい、認知してもらいにくい。ただ太すぎると、カウンター手前のスピードレールに入らず、バーテンダーの手が届きにくいという結果にもなる。そのような理由からボトルのシェイプが決まったのである。各国のバーカウンターの最前列に並ぶ日もそう遠い先のことではないだろう。

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KOME、IMO、MUGI それぞれの魅力を引き出したカクテル

現在一般コンシューマーがボトルを購入できるのは、The SG Clubと一部酒販店のオンライン販売などだ。もちろんオンザロックで楽しむのも粋だが、SGに出向いたならぜひ、後閑マジックを感じさせてくれるカクテルを楽しんでみたいものだ。ここでは、バーで実際に提供している人気のカクテルと、家でも作って楽しめる簡単なカクテルの両方を、それぞれ米、麦、芋の各2種ずつ教えてもらった。

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<薩摩リブレ> 

グラスに氷を入れて30㎖のIMOを注ぎ、コーラで満たし、ライムを搾り入れる。キューバ・リブレのラム酒の代わりにIMOを使用したもの。IMOはどこかラム酒に似ているところがあり、濃密で芳醇な香りはコーラとも相性がよく、スパイスとの相性も抜群。

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<オン ナ スローボート トゥ サツマ(On a Slow Boat to Satsuma)> 

柚子果汁、ジャスミンティー、ライチ、IMOをステア。芋の持つフルーティーな要素にフルーツを合わせる。どこかトロピカルな紫芋の焼酎だと華やか系になる。

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<コールドブリューマティーニ>

濃く水出ししたコーヒー、MUGI、黒糖のシロップをシェイカーに入れてシェイクし、よく冷やしたグラスに注ぐ。そこにレモンピールで香りをつける。
アメリカでよく飲まれるエスプレッソマティーニのウォッカをMUGIに置き換えることでMUGIの持つ樽のバニラ香がコーヒーの香りを引き立てる。

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<大江戸バナナ>

フレッシュバナナをペクチナーゼ(ペクチン分解酵素)で透き通ったジュースにし、ココナツウォーターと合わせる。MUGIと本みりんを加えてステア。本みりんのコクとバナナの甘さ。MUGIの香ばしさとよく合う。

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<ベントー オン ザ ロック>

梅酒とKOMEを30㎖ずつグラスに注ぎ、シャンパンビネガーとペイショービターズを2滴ずつ加える。大きめの氷で冷やし、小梅にピックを刺して飾る。日の丸弁当をイメージした遊び心が楽しい。

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<和菓酒>

よもぎで香りをつけたKOMEと、黒蜜、きな粉、豆乳を合わせて、アガー(海藻を原料としたゼリーの素)で透明に濾過する。和三盆で甘さのバランスをとり、ステアして冷やす。和菓子をテーマに、KOME、よもぎ、きなこを合わせたもの。一般の米焼酎に比べて、KOMEは吟醸香があるので、カクテルとしての完成度が高くなる。

どのカクテルも、焼酎の存在感をしっかりと感じさせながらも、その完成度の高さには驚かされる。さあ、焼酎カクテルを味わいに、The SG Clubを訪ねよう。

Photograph:Makiko Doi

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