特別インタビュー
初めて渋谷で買った、ベースボールキャップ。
[渋谷直角 男が憧れる、男の持ち物。]
2020.10.08
多才でいてファッションフリーク、渋谷直角の愛用品からそのセンスを探ってみる──。
90年代初めくらいまでは、こういったMLBのキャップは簡単には入手できないものでした。近所のジーンズショップにはヤンキースやフィリーズのキャップが一応ありましたが、「絶対オフィシャルじゃなさそう……」と不安になるようなデキのやつで。やはりUSAメイドの本気なのが欲しいと思ったら、海外直輸入のお店に行くしかなかったのです。渋谷のオルガン坂にあった『バックドロップ』か、ファイアー通りの『ワールドスポーツプラザ』か、記憶が定かではありませんが、そこならちゃんとしたのが買えると、お店の地図が載ってる雑誌の切り抜きを持って行ったのが「渋谷で洋服屋さんに入る」初体験でした(雑誌の切り抜きを持って行く文化も完全になくなりましたね)。
さて、その「渋谷のお店」は入るだけでもう緊張しっぱなし。ひとりで初体験だし、ましてや15歳。店員さんの存在が怖すぎる。汗ダラダラで冷静な思考ができず、「お店の鏡の前で試しにかぶってみる」なんてことも勇気が出なくてできない。「鏡があるところまで移動する」こと自体が、ちょっとの距離なのに怖くてしょうがない。とにかく店員よ、オレに気づかないで! みたいな。そんなテンパリ状態でも「かわいい」と思ったヤンキースのウール地のキャップをドキドキしながら買って。当時5〜6000円はしたんじゃないでしょうか。直輸入はやっぱり高かったのです。
渋谷を歩いて帰る途中、うれしくて早速出すと、キャップの後ろにアジャスターがなく、サイズが合わない! 試着しなかったことが裏目に! 絶望ですよ。でもその現実を認めたくないのか、せっかく買ったしと、かぶって友達に会うと、「ブカブカじゃん!」と笑われて恥ずかしくて。でもその友達がかぶってるキャップもポロのニセモノだったりして。目くそ鼻くそみたいな。
初めてのファッションって、そんな失敗の繰り返しですよね。……え、そんなことない?
Photograph: Tetsuya Niikura(SIGNO)
Styling: Masahiro Tochigi(QUILT)