特別インタビュー
人生の大半を共に過ごした相棒。
[渋谷直角 男が憧れる、男の持ち物。]
2020.06.02
多才でいてファッションフリーク、渋谷直角の愛用品からそのセンスを探ってみる──。
小学校に入るとき、親が新品のステッドラーの鉛筆と消しゴムをくれました。ブルーの地にシルバーでロゴがデザインされている、定番のアレです。正直、子ども的にはシブすぎて、(思ってたのと違う……)と困惑しました。もっと、マンガのキャラがプリントされた鉛筆が欲しかった。その数日前に友達が、親にマンガの鉛筆でそろえてもらったと自慢していたので、自分もそういう鉛筆がもらえると思い込んでいたのです。実際学校でも、同級生が「どんな鉛筆?」とチェックし合う。みんなマンガの鉛筆で、「それ、いいなあ」「欲しいな」と見せ合って。でも、僕だけステッドラー。面白みがなく、「ふーん」とスルーされるだけ。コッチは「まあでも、ドイツ製だからねえ」なんて悔し紛れの言い訳をして、なんとか自分を納得させていました。
以来、ずっとステッドラーばかり使っています。お小遣いでキャラものの鉛筆を買ったことがありましたが、結局使うのはステッドラーに落ち着く。中学生になると、それまで淡白に見えたデザインも「カッコイイな」と思えるようになり、勉強はもちろん、自由帳に描いていた「ドラゴンボール」マナーのバトルマンガもすべてステッドラーで描いていたし、鉛筆からシャーペンに替えるときも迷うことなくステッドラー一択。マンガでお金をもらえるようになった現在も、ステッドラーのミリペンを使っています。書き心地、手に持つ感覚がなじみすぎて、他のメーカーに浮気できないのです。不思議なことに、他メーカーのモノで済まそうとしても、なぜか良いアイデアが浮かばず、能率が悪い。ステッドラーに戻すと「コレコレ」なんてアイデアも浮かぶし、気分良く描ける。僕にとっては一生使いつづける職人の道具に近いモノ。……これで、僕の絵がめちゃめちゃうまければ、この話ももっと説得力あるんだけどなあ。
Photograph: Tetsuya Niikura(SIGNO)
Styling: Masahiro Tochigi(QUILT)