特別インタビュー

弁護士ドットコム株式会社 代表取締役会長・弁護士
元榮太一郎インタビュー[後編]
ニッポンの社長、イマを斬る。

2020.11.05

弁護士ドットコム株式会社 代表取締役会長・弁護士<br>元榮太一郎インタビュー[後編]<br>ニッポンの社長、イマを斬る。

8期連続赤字でも諦めない、心を折らない――。
自身の体験と知見とを生かし、29歳で弁護士ドットコムを起業した元榮太一郎氏。
2020年夏、時価総額は2500億円超え。法律相談サイトは活況を来たし、
ハンコ不要の電子契約サービスは絶好調で推移する。

※本記事は2020年7月29日の取材に基づく記事です。

<<インタビュー前編はこちらから

成功がカラーで見えていたんですよ

それでも元榮の心が折れることはなかった。

「確信があったんです。かつての自分のように、うちのサービスを必要とする人がいると。弁護士にとっても必ず役に立つ日が来ると。弁護士数の増加により競争が激化してネットの世界に入ってくると。そのイメージが僕の中では鮮やかに、立体的に、カラーで見えていたんですよ」 

短期的に収益化できないモデルは逆に言えば参入障壁も高いということ。元榮は競合が現れないよう「儲(もう)からないですね」と意識して言っていたとも告白する。

一方でサイト自体の収益化は徐々に進んでいた。09年には無料相談コーナー「みんなの法律相談」のQ&Aをデータベース化しモバイル向けの課金制度を実施。2年後には会員数が1万人を超えた。13年には弁護士の登録も一部有料化した。

「時期を見定めていたんですね。立ち上げ当初は『ネット経由の依頼なんて』という声もありましたが、次第に弁護士の間でも『ネットも悪くない』へと変化していった。このころには会員登録したことで仕事が増え、独立する弁護士も出てきていたんです」

前後にはサイト収益の分岐点となる月間訪問者数100万人を突破。それまで外部の出資は断ってきたが上場を見据えて1億円の資金を調達した。2年後の14年、弁護士ドットコムは東証マザーズに上場した。

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時価総額を急騰させた『クラウドサイン』

上場後、真っ先に取り組んだ新事業があった。ハンコ不要の電子契約サービス『クラウドサイン』だ。

「こちらも自分の経験から来たものですが、弁護士として金融案件を手掛けると1回の取引で契約書が100枚くらい発生するんですよ。そのたびに押印、契印、割り印、消印で『いったい、何をやっているんだろう』と思うことも多々あって(笑)。もちろん、ハンコの歴史は長いですから市場に受け入れられるまでに相当な時間が掛かる覚悟でいました」

その流れがリモートワークやDX(デジタルトランスフォーメーション)の浸透でいきなり来た。弁護士発信の電子契約という信頼性も後押しし導入企業数は9万社以上、市場シエアは8割に。会社の時価総額も急騰し、8月現在2500億円を超えるまでになった。

「創業して16年目。いまは思ってもいない変革の中にいますが、会社としてはまだまだスタートラインです。『専門家を身近に』という理念で立ち上げた会社ですから、医師や臨床心理士や建築家、獣医師などさまざまな専門領域のプラットフォームを作りたいんですね。一部の人にしか開かれてこなかった専門性を多くの人が活用できるようにしたい。

同時にグローバル化は必須です。中期的に言えば、日本はこの先一度はしゃがみこむでしょう。70年サイクルじゃないですが輝かしい戦後の復興もあって、成功体験が蔓延(まんえん)しすぎました。ウィズコロナやアフターコロナの時代に輝きをどう取り戻すか? 僕ら起業家はもっともっと頑張らなきゃいけないと思っています。『プロフェッショナル×デジタル』の領域で『さすがジャパニーズ・カンパニー』と言われる会社を目指したいですね」

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ピンチのときの進化は大きなアドバンテージに

元榮はパラレルワーカーだ。弁護士ドットコムの会長であり、現役の弁護士であり、参議院議員の顔を併せ持つ。

「(経営は)適切な権限委譲で任せて任せずのスタンス。委譲をしつつも把握もするというバランスでやっていますね」

多忙なのは確かだが、毎日7時間睡眠をキープする。4月からは英語のオンラインレッスンを始めた。

「アメリカ生まれなのでネイティブと勘違いされがちですが、実際は情けない限りで(笑)。いまは週10時間くらい勉強しています。AIで通訳できる未来が来ようとも、同じ言語を話せる相手に親近感を抱くのが人間です。ステイ・ホームで時間ができた方は英語、オススメですよ」

出口の見えない時期ながら、その先に惑うことはない。30代ビジネスマンにメッセージをと問うと元榮は次のように語った。

「現状維持は衰退の始まりです。僕は孫正義さんの『時代を読んで、仕掛けて、待つ』という言葉が好きなんですけど、これはいまの時期にも通じること。普段忙しい人たちが冷静になって長期的な視野で物事を見るチャンスでもあると思うんです。ピンチのときに進化できる人と進化できない人がいますが、進化できれば大きなアドバンテージになりますよ」、言った後、少し
笑って言葉を切った。「……なんて、気合の入ったことばかり言うと共感されないですかね。大丈夫ですかね? ただ、僕にとってはいつだって『ピンチはチャンス』だったので(笑)」

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目下オンラインで英語特訓中。先生は厳しく「練習が足りないと言われることも(笑)」。

<<前編はこちらから

プロフィル
元榮太一郎(もとえ・たいちろう)
1975年、アメリカのイリノイ州生まれ。3歳で帰国、神奈川県藤沢市でサッカー少年として青春時代を過ごす。中学時代、父の仕事でドイツに移住するも高校で単身帰国。慶応義塾大学法学部卒業。合格率2%の旧司法試験を突破後、2001年にアンダーソン・毛利法律事務所に入所しM&Aやファイナンスを担当する。05年に独立し、弁護士ドットコムならびに法律事務所オーセンスを創業。14年、日本初の弁護士兼代表取締役社長による東京証券取引所マザーズ市場上場。16年、参議院議員通常選挙に千葉県選挙区から自民党公認候補として立候補し、得票数2位で初当選。17年、弁護士ドットコム株式会社代表取締役会長就任。著書に『弁護士ドットコム 困っている人を救う僕たちの挑戦』(日経BP社)『刑事と民事』(幻冬舎)『「複業」で成功する』(新潮新書)など。

「アエラスタイルマガジンVOL.47 AUTMUN 2020」より転載

Photograph: Kentaro Kase
Text: Mariko Terashima

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