特別インタビュー

定番モノはいつもセンチメンタルに。
[渋谷直角 男が憧れる、男の持ち物。]

2020.11.05

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ブランドのアイコンシューズとして世界中にファンをもつワラビーブーツ。名門タンナー「チャールズ・F・ステッド社」のブラックスエードが、クリーンな印象をもたらしてくれる。水や汚れにも強いタフな一足だ。シューズ¥24,000/クラークス オリジナルズ(クラークスジャパン 03-5411-3055

多才でいてファッションフリーク、渋谷直角の愛用品からそのセンスを探ってみる──。

若いころは「定番なんてつまらない」みたいな気持ちがあって、たとえばビートルズを聴くより新しいバンドや知らないバンドを知りたいとか、ジャンプやヤンマガには絶対載ってないような漫画が読みたいとか。そうじゃなきゃ何かしらの表現で世に出ていけないんじゃないか、という価値観でした。でも難しいのは、それが先鋭化して、アングラじゃないとダメ、売れるものは悪いもの、的な考えにもなりがちで。それも(一種の美学ではあるが)偏ってるよな~って。

その辺の思い込みを取り払ってくれるのは、恋人だったり好きな人なんじゃないかと思います。自分が夢中になった恋人は、キムタクかっこいい、あゆの顔は完璧、みたいなことを普通に言う子で、王道、定番、メジャーなものを避けてきた自分からしたら動揺しかない。でも話していると面白い子で、次第に「キムタクも確かにかっこいいよな」と影響受けてくる。結局その子に気に入られたいだけだったのでしょうけど、人気のあるものを、バイアスなしで受け止められるようになって。

実はクラークスも、その子が「履いたら? 似合うと思う」と勧めてくれたモノでした。クラークスも「ベタかも」と敬遠していたのに、その子に言われたら「そうか」なんてすぐ買って。どんな格好にも相性が良く、流行に左右されない。見た目も飽きない定番の魅力。以来、いまは4足目。飽き性の自分でも、数年に一度は買う靴です。あの子がいなければ、クラークスも履かず、定番や王道を嫌うアングラ中年になっていたかもと想像すると、感謝しかない。すぐにフラれましたけど。

渋谷のクラークスのお店の近くに昔、モンブランというボロいラブホテルがあって、付き合いはじめたのはそこでした。大事な思い出の彼女だけど、記憶にある自分はカッコ悪かった姿ばかり。いまのほうが、クラークスが似合ってる気がするけれど。

<<ジャージを着るのがオシャレになった瞬間。 はこちら

「アエラスタイルマガジンVOL.47 AUTUMN 2020」より転載

Photograph: Tetsuya Niikura(SIGNO)
Styling: Masahiro Tochigi(QUILT)

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