特別インタビュー
「スーツはなくなるのか?」
この問いに対して、回答します。
2020.12.04
アエラスタイルマガジンを創刊したのは2008年の秋です。巻頭はスーツスタイルの企画「ニッポンのビジネスマン」でした。あまりにも真っすぐなタイトル、私たちが誌面で提案した着こなしと同様、無駄な装飾がありません。ファッションの流行に右往左往したり、モテるために着飾ったり。当時のそういった傾向に警鐘を鳴らし、「ニッポンのビジネスマンよ、スーツを着よう」というエールが込められていたのです。
あれから12年。2020年は、あらゆる価値観に変化が訪れました。「働き方改革」は数年前から提唱されていましたが、リモートワークがこれほど進むと、ビジネスマンの読者や服飾関係者から、「スーツはなくなりますか?」と問われることがあります。
率直に回答しましょう。「スーツはなくなりません」。理由は簡単。スーツを着た男たちは、カッコいいからです。では、なぜカッコいいのか。着るとシャンとした気持ちになり、自信がみなぎってくるからです。
アエラスタイルマガジンでは、スーツの現在地を「男のハレ着」と位置付けました。人によっては週に5日通勤する習慣はなくなり、会社に行くこと自体がハレの日となりました。大事なミーティングに参加したり、特別なお客さまと会ったり。そんなときには、これまで以上に気持ちの上がるハレ着を選ぼうではありませんか。
そして、男たちの気持ちが上がるハレの日は、会社に行く日だけではありません。例えば、妻との記念日ディナー、学生時代に所属したスポーツチームのOB会、父親の退職祝い。そんなときには、ビジネスで着ないような派手な色を選んでもいいでしょう。もちろん、ノータイの着こなしもあり。
何を選ぶか、どう着るか。基準は至ってシンプルです。それを着て、自分の気持ちが上がるか否か。そして、ハレの日を共に過ごす人の気持ちも上げられるか。そこにも、ぜひ心を配ってほしい。
先日、後輩の誕生日にお祝いのLINEを送りました。すると、次のような返信があったのです。「仕事はたいへんですが、装いを楽しむことを心の支えにしています」。心意気や、よし! これからも、彼を応援したくなります。「ファッションには、人を晴れやかな気持ちにする力がある」。創刊号で、私はそう書きました。そうした思いは、いまも変わりません。いや。こういった時代だからこそ、ファッションが果たす役割はさらに大きくなったのです。
2020年。改めて宣言します。男たちよ、スーツを着よう。
服飾ジャーナリスト 山本晃弘(ヤマカン)
AERA STYLE MAGAZINE創刊編集長。現エグゼクティブエディター兼WEB編集長。現在は服飾ジャーナリストとして、ビジネスマンのリアルな視点に応える執筆活動を行っている。2019年4月にヤマモトカンパニーを設立。執筆書籍に、「仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。」がある。
Illustration: Michiharu Saotome