特別インタビュー
株式会社オプティム代表取締役社長
菅谷俊二インタビュー[後編]
ニッポンの社長、イマを斬る。
2020.12.01
「ネットを空気に変える」をコンセプトに2000年に創業した株式会社オプティム。代表の菅谷俊二は少年のころからの発明好き。「農業×IT」や「医療×IT」「建設×IT」などあらゆる産業にAIやIoTの技術を掛け合わせた「〇〇×IT」の黄金式で世界を変えていく。
産業構造を根こそぎ変える「農業×IT」
同社は2014年に東証マザーズに上場し、15年には一部上場に市場変更した。前後より、あらゆる産業と連携する「農業×IT」や「医療×IT」など「○ ○ ×IT」の黄金式を掲げるようになった。
「第四次産業革命は人類史上に残るものになると確信しています。すべての産業が変わる局面にわれわれは立ち会いたい。その支援がしたい。あらゆる産業においてAIやIoTを用いた共通のプラットフォームを作りたいんですね」
とりわけ、変化が大きいのは農業だという。15年には母校・佐賀大学農学部と連携し共同研究を始めた。AIやドローンを駆使した「スマート農業アライアンス」も発足し、現在1700以上の団体と提携する。モットーは「楽しく・かっこよく・稼げる農業」だ。
「消費に加え物流や流通サービスを加えると、食関連の市場はおよそ90兆円。生産者の市場はそのうちの9兆円。さらに設備や農薬など原価を差し引くと2、3兆円で全体の数%程度です。いまの産業構造では農業はもうからない。けれど、弊社の『ピンポイント農薬散布』でビジネスモデルが根こそぎ変わる可能性があるんです」
農業で稼ぐにはどうしたらいいのか? 単価の高い減農薬農作物を作るのがいちばんだが労力がかかりすぎる。広大な畑から虫食いの葉を探し出し、その箇所にのみ農薬を散布する必要がある。一方、「ピンポイント農薬散布」ならドローンが圃場(ほじょう)を空撮し、AIが「虫食いや病気位置を特定」する。
再びドローンが自動で飛んで「特定した位置にのみ農薬を散布」して終了。先ごろは夜間にドローンを飛ばし、農薬を使わない実験も成功した。
菅谷は言う。「エジソンの電球じゃないですけど、たったひとつで産業全体を動かせるような発明ってめったにあるものじゃないんです。『ピンポイント農薬散布』は農作業を効率化し、農薬のコストも抑えられる。そのうえ商品としての付加価値も上がる。農業を稼げる産業に変えられるんです」
なお、同社はこの技術から直接的な利益を得ているわけではない。技術は農家に無償提供し、さらにそこで収穫されたお米は同社が買い取り、「スマート米」として販売する。「残留農薬不検出米」としてユーザーにも好評だが、売上の一部もまた生産者に還元するという。
「『テクノロジーを有料で貸し出す』企業もありますが、われわれは生産者とパートナーになりたいんです。お金を引っ張ってくるのは90兆円のマーケットから。そのほうが絶対に圧倒的なビジネスになります」
理不尽への抗いが情熱につながる
創業から21年目。コロナ禍と重なったものの、リモートワーク関連ツールやオンライン診療のプラットフォームなどが注目を集めもした。「一方で、止まってしまったプロジェクトもあって、嘆いた日もありましたよ。だけど、コロナってみんなが一斉にゼロになる世界なんですよね。それこそグーグルもアップルもオプティムもいまは同じラインなんじゃないかって。全員がゼロからの出発なら今日、明日と他の人とは違う努力をすればそのレースで優位に立てる。チャンスだと思っています」
常に走りながら考える状態が続くなかいちばんのストレス発散は発明だ。オプティムの特許出願数は936件(※国際特許出願、外国出願込み)で、過去には菅谷自身、特許資産の個人ランキングで1位を取ったこともある。最近の発明を尋ねるとこんな答えが返ってくる。
「リモートワークだとコンタクトレンズをはずしがちです。プロジェクターで動画を見ようとしたらピンボケで見えない。だったら、もとの画像をピンボケにすれば裸眼でも見えるじゃないかと。そう思って発明したんですが、寝転がりながらでもピントが合うし、便利ですよ。老眼にも応用できそうです」
リモート取材の画面越しでも情熱とワクワクが伝播する。人生も事業も「情熱を持ちつづけられるかどうか」、それがいちばん大事な価値基準という菅谷だ。
「もちろん、出口のない理不尽を感じて情熱がゼロになりそうなときもあります(笑)。ただ、そこから復活するのも理不尽に対する抗いだったりするんです。世の中って『どうしてこんなことに?』って思うことのほうが多いんですよ。だけど、そんな理不尽に慣れてしまってはダメだとも思っています。理不尽を正そうとする葛藤や努力が情熱につながっていくと私は信じていますね」
プロフィル
菅谷俊二(すがや・しゅんじ)
1976年生まれ。兵庫県出身。2000年、佐賀大学在学中に「第1回ビジネスジャパンオープン」にて「孫正義賞(特別賞)」受賞。同年6月、「誰もがインターネットを空気のように使える社会」を目指し、中高時代の仲間とともにオプティムを創業する。14年、東証マザーズ上場、15年、東証一部へ市場変更。著書に『ぼくらの地球規模イノベーション戦略』(ダイヤモンド社)。趣味は発明で、1993年〜2015年の情報通信分野における日本人特許資産ランキングで第1位を獲得。中学時代は水泳部所属で現在も週に2〜3回はスイミングをする。いわく感覚は散歩と同じ。泳ぐのは頭を整理するのに役立つとも。佐賀大学農学部招聘教授。
Photograph: Kentaro Kase
Text: Mariko Terashima