カジュアルウェア
ファッショントレンドスナップ89
ダウンベストをビジネスシーンで使いこなす新テクニック。
こんな着方がニュースタンダードになる日は近い!?
2020.12.15
世界を変えた偉人のひとりにイタリア生まれのガリレオ・ガリレイがいます。彼の有名な逸話は、それまで常識だった天動説を否定し、その真逆の地動説を支持したことや、ピサの斜塔でそれまで重いものが先に落ちると言われていた常識をくつがえす実験をして見せたというものがあります。
いきなり今回は何を話しだしたのかとお思いの方が多いかと思いますが、イタリアにはこうした奇想天外な発想や行動をする人が出てくるということを言いたかったのです。そうした遺伝子がイタリア人には受け継がれているようで、ファッションでも常識をひっくり返すようなことをするのはこの人たち。
記憶に新しいところでは、ジョルジオ・アルマーニがレディースで使われるような生地を使ってメンズのスーツを作ったとか……。
またまた、前置きがくどくなりましたね。本題はダウンベストの着方。私にとって天地がひっくり返るようなダウンベストの着こなしにフィレンツェで出会ったという話がしたかっただけでした。
それは、ジャケットやスーツの上にダウンベストを着るというスタイル。最初見かけたときはかなり違和感があったのですが、実際やってみると便利だしクラシックなスタイルに程よいカジュアル感をプラスできたのです。
特に車や電車で移動したり、ランチやコンビニに出たりするときにそのよさを実感。さっと着られて、着ぶくれせず、脱いでもかさばらないという着まわしのよさは、ダウンジャケットやウールコートにはありませんから。
スナップのジェントルマンは、ジャケット&ネクタイというビジネススタイルにダウンベストをコーディネート。袖と身頃の色が違うダウンジャケットを着ているように見えますが、そうではないのです。腰まわりを見ると、グレーのダウンベストのすそから下に着ているジャケットが見えますよね。ちなみにこのジェントルマンは、ランチが終わってオフィスに戻る途中にスナップさせていただいたもの。
全身画像で見てもダウンベストは違和感なし。実は、こうなるためには大切なポイントが2つあります。
①ダウンベストの表生地はウールなどの天然素材。
②色はビジネススーツやジャケットで使われるようなグレーやネイビー。できればパンツかジャケットの色に近いもの。
言い換えれば、スポーツ系やアウトドア系のナイロン素材のツルツル生地を使ったダウンベストではジェントルマンのようなシックな感じにはまとまらないということです。
今回の再現スタイリングがこちら。グレースラックスとダウンベストの色をきちんと合わせています。
ダウンベストは、イタリアのラグジュアリーアウターブランドであるムーレーのもの。このブランドは、2006年に創設した途端にダウンウエアが大ヒット。テーラリング技術を採り入れた立体的でスマートなシルエットと他人とかぶらないという理由からファッション関係者がこぞって愛用。その後あっという間に人気ブランドに。
今回ピックアップしたダウンベストは、スーツに使うような高級なウールカシミヤ生地を使用。また一般的なダウンベストにはない細腹(さいばら)と呼ばれる前身頃と後ろ身頃をつなぐ布地を付け足すことで、体に沿うスマートなラインを出しつつ着心地はタイトではないという離れ業も盛り込まれています。
掲載した商品はすべて税抜き価格です。
プロフィル
大西陽一(おおにし・よういち)
数々の雑誌や広告で活躍するスタイリスト。ピッティやミラノコレクションに
通い、日本人でもまねできるリアリティーや、さりげなくセンスが光る着こな
しを求めたトレンドウオッチを続ける。
Photograph & Text:Yoichi Onishi