特別インタビュー
世代をつなぐバッグ、『キャリーオール』。
2021.05.10
ファッションエディターの審美眼にかなったいま旬アイテムや知られざる名品をお届け。

色あせた記念写真に写っている、僕がまだ小さかったころの父親は、大きな襟のスーツにティアドロップのサングラスというエッジの利いた格好で、ハンティング・ワールドの『キャリーオール』に自慢のカメラを収納していた。
そう、1976年生まれの僕にとって、『キャリーオール』とは父親世代のバッグ。無性に欲しくなったり、あえて避けたくなったりを繰り返しつつも、常に視界には入っているという、ちょっと厄介な存在なのである。
そういえば地方都市のチーマーだった3つ年上のいとこも、まだアメリカ製だったヘインズの白Tシャツとストーンウォッシュのリーバイス501®という、いまにして思えば無防備すぎる着こなしにこいつを合わせて、地元のコンビニにたむろしていたっけ。
そんな愛憎半ばするバッグを僕が手に入れたのは、4年ほど前。「1970年代後半のニューヨークトラッド」という、ニッチな設定のスタイルに合わせるために、わざわざ買ってしまったのだ。ビスポークしたフレアパンツのコーデュロイスーツに、ローデンストックのティアドロップサングラス、とどめに『キャリーオール』という格好は、海外コレクションではスナップされまくったし、われながらハマったのでは!?
でも、あとでInstagramにアップされた写真を見て仰天。そこには、あのころの父親にそっくりなオジサンが写っていたのである。血は争えない……!
なんだかうれしくなって、それ以来毎日このバッグを持ち歩いている。意外なことに、最近は再ブームの兆しもあるそうで、ついこの間も、たまたま立ち寄った吉祥寺のカフェで、若いスタッフに褒められたばかりである。
「うわあ、いいなあ。僕もお金あったらめちゃくちゃ欲しいんですよ!」
僕のバッグを手に取る彼の装いは、まるであのころの渋カジだ。自己満足といえばそれまでだけれど、そんな、ささやかな「物語」を紡いでいけることが、トラッドの魅力なんだろうな。
山下英介(やました・えいすけ)
ライター・編集者。1976年生まれ。『LEON』や『MEN'S EX』などの編集や、『MEN’S Precious』のクリエイティブ・ディレクターに従事した後、独立。趣味はカメラと海外旅行。
掲載した商品はすべて税込み価格です。
Photograph: Yuji Kawata(Riverta Inc.)
Styling: Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)