特別インタビュー

ジュピターショップチャンネル株式会社代表取締役社長
新森健之インタビュー[後編]
ニッポンの社長、イマを斬る。

2021.05.19

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“心おどる、瞬間を”。テレビショッピング業界最大手である『ショップチャンネル』が25周年を迎える。率いるのは2年前にジュピターショップチャンネルのトップに立った新森健之氏だ。「まだまだこれから」と語る氏にその軌跡、仕事哲学から事業戦略までを伺った。

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小売りは水もの。
規則性はあるようでない

2020年3月期に1634億円と過去最高の売上高を更新したとはいえど、さらに高みを目指すはずが世界中がコロナ禍に。『ショップチャンネル』も24時間生放送をストップせざるを得なかった。04年の開始から数年で売上を倍近くまで押し上げた立役者でもあったのだが。

「仕方がないですよね。社員や関係者の感染リスク回避は最優先でしたから。昨年4月の緊急事態宣言後には生放送を7時間まで縮小し、残りは録画で乗り切りました」

その後、16時間体制となり、今春以降は20時間まで戻す計画だ。

一方、巣ごもり需要で通販業界はニーズが高まってきてもいる。『ショップチャンネル』でも食品や家電製品の売上は伸びた。

「ハレの日のアイテムはキツいですけど。とはいっても、購買傾向は一定しているとは言えない。Go Toが始まったり止まったりでショッピングの流れも変わりますし、そもそも『絶対これ!』とは言い難いのがこの商売。『いま、買う人はいないだろうな』と思っていた高額ジュエリーが売れたり、逆に『リーズナブルな価格だし、いけるかな』と思ってたものがそうでもなかったり」

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時勢を見つつ商品や番組を入れ替えることもあるが、言うほど簡単ではない。買付けに年単位の時間を要する企画もあるためだ。

「『本日のお買得品』というコーナーでは仕込みが長期にわたるものもあります。放送後に万単位の注文が来ることもあって『値引き率は高い』『在庫の確保も大変』と仕入れ先との交渉は大変。例えば、A5ランクのすき焼き用牛肉は人気商品ですが、どれだけの和牛を集められるかが難題。同様に人気のロシア沖のたらば蟹は2年かけて在庫を確保してもらい、昨年末にやっと実現できた。機動力が課題です」

現場サイドに来て3年目、今年は創業25周年を迎える節目でもある。東陽町の新社屋では4Kスタジオを新設し、Pure4K放送を開始した。やりたいことが山ほどあるという新森は目を輝かせながら続ける。

「21年度からの5カ年計画で多くの打ち手を考えており、ライブコマースやAIの導入も積極的に検討していきます。商品面も、例えば自宅でフィットネスができるオンラインレッスンや、趣味講座、住宅リフォームなど、モノだけでなくコト・サービスの提供を検討しており、収益モデルの多様化を狙っていきます」

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心おどる瞬間に
どれだけ出合えるか

社長室にはスーツからシャツ、ネクタイやチーフ、靴などが並んでいた。撮影のために新森が自分で持ち込んだものでアイテムひとつひとつにとっておきの秘話もある。

「ファッションからビジネスを学んだとも言えるかもしれません。ファッションのマナーと言うと堅苦しく捉えられがちですが、要は先人の知恵で、そうするのがいちばん合理的だったから。ビジネスも同じですよね。基本のルールに従うのが結局は最短距離です。もちろん、基本ばかりでは個性が出ない。型を知ってから少しずつ崩す。そうやって革新につながっていくのだと思います」

複数のタイを手に「どの組み合わせがいいですかね?」と尋ねる新森は同社の理念である『心おどる、瞬間を。』を思い起こさせる。

「そうかもしれません(笑)。海外出張では現地でしか売っていないものを探すのがとても楽しかった。そのワクワクはお客さまと共通するものだと思うんです。心おどる瞬間にどれだけ出合えるか、『ショップチャンネル』もそんな番組でありたいと思っていますね」

最後にと、読者層である30代から40代のビジネスパーソンへメッセージをお願いすると、「私から言わせてもらえれば、まだまだこれからという年代ですよ」と笑った。

「よく言うのは『迷ったらやれ!』ということです。1%でも可能性があるなら、思いつくことはすべてやってみればいい。もちろん、スムーズにいくとは限りませんけど、そこはプロの腕の見せ所です。簡単にできることなら誰でもやっていますからね(笑)。いろいろトライした結果、やっぱりダメだったら? 全力を尽くせばあきらめもつくじゃないですか。ポジティブにいきましょう。そこから先、また進んでいけばいいだけの話なんですよ」

600_ミラノにある「アル バザール」という有名なセレクトショップで撮影した1枚
住友商事時代のイタリア出張で。セレクトショップ『アル・バザール』の店主と共に。

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プロフィル
新森健之(しんもり・けんじ) 
1959年、愛知県出身。82年慶応義塾大学法学部卒業後、住友商事入社。入社後13年間は建設機械の担当になり、中東やアジアなどに赴任。イラク駐在中はクウェート侵攻の影響から4カ月間の人質生活を余儀なくされる。2006年4月人事部長、11年4月ライフスタイルリテイル事業本部長、14年4月広報部長、18年4月執行役員就任、19年4月ジュピターショップチャンネル代表取締役社長。洋服好きでウンチクを語りだすと止まらない。イタリアの人気セレクトショップ『アル・バザール』の店主ともファッション談議で盛り上がった。撮影時のスーツはイタリアブランドの『ISAIA』、タイはイギリスブランド『DRAKES’』を着用。映画にも詳しく『明日に向かって撃て!』『ミシシッピー・バーニング』『ユージュアル・サスペクツ』『イングロリアス・バスターズ』『マイル22』などがお気に入り。

アエラスタイルマガジンVOL.50 SPRING / SUMMER 2021」より転載

Photograph: Kentaro Kase
Text: Mariko Terashima

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