特別インタビュー

ニューヨークへの
ラブレター。

2021.05.26

渋谷直角

写真・図版

昨年からリモートワークになった方も多いと思います。コロナ前からずっと「おうち時間」している僕みたいな仕事でも、やはり旅行に行けない、ライブも中止になって観に行けない、というだけですごく不自由で、ストレスを感じます。外に行けない代わりにYouTubeを見る頻度が増えて、それまでは「チャンネル登録」なんてほとんどしなかったのに、今は数十のチャンネルを登録している始末。それも悪くないと思えるのは、YouTubeきっかけで好きになった人も多いからです。

昨年のはじめ、特に好きになったのは、ニューヨークというお笑い芸人。ボケの嶋佐和也、ツッコミの屋敷裕政のコンビで、昨年秋の「キングオブコント」では準優勝、年末の「M-1グランプリ」では5位という好成績だったこともあり、今年に入ってテレビ出演も激増。よく見かけるようになりました。

もう芸歴は10年、それまでもネタ番組にはちょこちょこ出ていて、存在は認識していたのですが、彼らのことを大好きになった理由は、そのYouTubeにアップされたコントを見てから。

現実を突きつけるコント

たとえば「海辺のカフェ」というコント。カフェを経営するマスター役の嶋佐に、客である屋敷が「すごいオシャレな店ですね!」と感激する。60歳だ、というマスターに「俺もマスターみたいにカッコいい年の取り方がしたいなあ」と憧れ、実はいまの会社を辞めて、こんなお店を開きたいという夢があると話す屋敷に、「青年。迷ったら、GOだよ。リスクなんか気にしちゃダメだ」とすてきなアドバイスをするマスター。「いつだって、困ったらきっと、誰かが助けてくれるよ」と優しく、ゆっくりと背中を押してくれる。

ところが、話が激変するのはこの後。実はマスターの店は、すべて親の金でやっている、ということがわかってくる。電話をかけ、耳の遠い母親に仕送りを無心しているマスター。聞けばマスターは、60歳になる現在まで一度も働いたことがなく、カフェでもやるかと、親に頼んで先月この店をオープンしたばかりなのだ。屋敷は驚いて、「そりゃ親が金持ちならリスクゼロやんけ! 誰かが助けてくれるって親のことかい!」とあきれる。「さっきまでカッコいいと思ってたけど、親が金持ちって聞いた途端、すごくダサイっすよ」と嘆くと、マスターは平然とした顔で、こう答えるのだ。

「青年。俺みたいなカッコいいジジイって、みんな親が金持ちだよ」 このセリフにはシビれた。というか、衝撃を受けました。コントで、こんな身もふたもない言葉をサラっと笑いにしてしまうコンビがいるなんて。基本、その部分にはなるべく触れないようにして、夢に向かったり、わずかな可能性に懸けるもの。なぜなら、生まれた環境はどうしようもできないから。親は選べない。その、みんなが目を背ける残酷な格差を、ニューヨークは真正面からコントにして見せてしまうのです。

「社長」というコントも二人のスゴさを感じられる傑作。自分ではギャグのセンスがあると思い込んでいる金持ち社長の嶋佐に付き合わされ、売れない役者なのに気に入られ、「いまだけの辛抱」と社長の太鼓持ちをしている屋敷。西麻布の高級なバーで若い女性たち数人と飲み会を行い、社長のぜんぜん笑えないギャグやドッキリにひたすらヨイショ、バカウケして、場を盛り上げようとする屋敷。その最中の、苦しさと悔しさ、情けなさが入り交じった微妙な笑顔が最高。そして社長が帰ると、「ヘラヘラとこんなことしてる俺がいちばんダサイやんけ!」と激しく自分を責める屋敷。そんな最後、結局「持たざる者」の悲哀と現実をよく表した切ないオチが来る……。大好きなコントのひとつです。

コンプレックスを笑いに

ニューヨークはよく、「意地悪だ」「悪意がすごい」と評されることが多いです。ネタの切り口や着眼点もそうだし、二人ともたたずまいがスマートなので、どこか生意気に思われているフシがあるのかもしれません。でも、僕にはとても誠実で真っすぐな二人に思えるのです。「いや、こんなの変じゃん」「おかしいよ」と思うことを、純粋だから傷つき、コンプレックスに感じ、「いつか見てろよ」と思いつつ、だったらそれこそを笑いにしよう、としている。簡単には変えられない、どうしようもない社会の摂理を理解しつつ、そのなかでもがき、生きる人々を描く。

それは過去、ビートたけしの「赤信号、みんなで渡れば怖くない」や、「ダウンタウンのごっつええ感じ」における「トカゲのおっさん」のコントなどと同じ流れの、「カウンターとしての笑い」の正道だと思うし、「人間」の弱さや醜さを、それごといとおしいものとして見ている視点だと思います。昨年末、SNS上でも話題になった「ザ・エレクトリカルパレーズ」というニューヨークのYouTubeコンテンツでもそれは同じ。NSCというお笑い養成所に通っていた生徒たちの、いまでは黒歴史となっているイキっていた恥ずかしい過去の行動を、ニューヨークが2時間かけてジックリと掘り返していくドキュメンタリー。これもまさにニューヨークの目線ゆえの、「青春」の痛さ、切なさがあぶり出された傑作だと思います。

決して自分を安全圏に置いて、うわべの風俗や現象に対する冷めた視線やツッコミをしているわけではない。「海辺のカフェ」のマスターにしろ「社長」にしろ、そっち側にも「論理」があって動いていることを、コントの中でキチっと表現している。「ザ・エレクトリカルパレーズ」も、二人がNSCの後輩たちにしつこく聞こうとするのは「なぜ、そうなったのか」であって、きっかけや気持ちに寄り添おうとするから面白いのです。決して「おまえら、こんな恥ずかしいことしてたんだろ?」という突き放したスタンスではない。弱さやカッコ悪さに共鳴し、そのときの心情を理解しようとする。後輩たちと一緒になって笑おうとしている。

ニューヨークはそこを誤解されているな、と思います。確かに二人の目線は基本、ツッコミのそれではありますが、その奥には人間に対する「興味」があり、それを知り、理解することこそが面白いことなんだと二人は感じているように見える。だからニューヨークが聞き役に回ったとき、相手がどんな人であれ面白く感じるし、その相手がすごく魅力的に見えてくるのです。それってお笑い芸人の世界だけでなく、人に対する接し方として、とても重要なことだと思いません?

古びない視点に期待

今年のはじめにYouTubeにアップされたのが、先輩である「ですよ。」とニューヨークの30分トーク。これもまさにニューヨークの真骨頂ともいうべき素晴らしい回です。

ですよ。は「エンタの神様」によく出ていた、「YO! YO! ですよ!」というラップと共にあるあるネタを繰り出す、「一発屋芸人」とよく言われるタイプの芸人さんですが、そのイメージだけでは誰も想像できないであろう彼の、スゴすぎて衝撃を受けるエピソードの数々とマンガの主人公のような経歴は、ぜひYouTubeを実際に見て、ニューヨークの目線と一緒になって驚いたり楽しんでほしいです(特にサッカー好きはビックリすると思う)。ニューヨークどころか、ですよ。のことまで大好きになってしまう回のひとつ。

この原稿を書いているときに、ニューヨークの冠番組が始まるということが彼らのYouTubeでサプライズとして発表されました。内容はまだ公表されていませんが、どんな企画、トークであれ、二人の「視点」を描いてくれればそれはきっと最高の番組になるでしょう。「人間」を見つめ、それを表現したものはいつの時代も決して古びないし、つまらないものにはならない。ニューヨークはそれができる芸人なのです。尊敬!

渋谷直角(しぶや ちょっかく)
まんが家/コラムニスト。1975年生まれ。1997年にマガジンハウス『relax』でライター業を始め、同誌で2000年よりマンガ『リラックスボーイ』を描き、以降、雑誌やWebでマンガやコラムを描いている。近著に『さよならアメリカ』(扶桑社)、『続デザイナー渋井直人の休日』(文藝春秋)がある。

「アエラスタイルマガジンVOL.50 SPRING / SUMMER 2021」より転載

Illustration: Kyoko Tange

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