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ピッティはどこへゆく?【後編】
オピニオン・リーダーたちが語る、ピッティの現在と未来。

2021.08.05

ピッティはどこへゆく?【後編】<br>オピニオン・リーダーたちが語る、ピッティの現在と未来。

今回のピッティ開催は、パンデミックの長いトンネルを抜け出した喜ばしい「再開」であるが、同時に「リセット」の大チャンスとなるのか、はたまた厳しい淘汰の波に流されてゆくのか。

オピニオン・リーダーたちにそれぞれの想いや未来予測を聞いてみた。

ブルネロ・クチネリ氏/ブルネロ クチネリ会長兼クリエイティブディレクター
ポスト・パンデミックは「森羅万象との調和」を心がけよ

「パンデミックによる世界の災禍はゆゆしきことですが、今こそ人類が“森羅万象との調和”を顧みる機会となったのではないでしょうか。“痛みは人生の師である”と言います。個人的にはスピリチュアルな思索のための時間がたくさん取れてよかったです。私たちは日々食事を取るように、脳には学習を、そして魂に栄養を与えるのはとても大切なことなのです」

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ブルネロ・クチネリ氏。イタリア共和国労働騎士勲章やキール世界経済研究所経済賞など権威ある賞も多数受け、2018年には自らの体験と思想をつづった『ソロメオの夢』を発表し各国で翻訳され話題になった。(日本では「人間主義的経営」として刊行されている)

トレードフェア会場であるのを忘れてしまいそうな詩的な言葉に心が和む。ファッションビジネス界であえて人間の尊厳を謳(うた)い、人間主義的資本主義という独特の経営哲学で世界の注目を集め、海外の名誉あるビジネス賞も多数受賞している起業家でもあるクチネリ氏の視線は鋭く、温かい。コロナ受難の時代にも、サステイナブルな活動を推し進め、ピッティ協会ともいち早くコラボ体制をとり、20211月の第99回ピッティのリモート開催時にはソロメオ村の本社からオープニングセレモニーを世界に発信し鼓舞するなどたゆまぬ後援を続けている。

「歴史あるフィレンツェで生まれた世界最大のメンズ服のトレードフェア:ピッティのないコレクションはなんとも寂しいものです。ピッティとミラノのファッションウィークを合わせた毎年2回の7日間は、世界から関係者が結集する祭典として存続してゆくでしょう。見て、触れて、感じるリアル開催に勝るものはありません」

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コロナ下、ピッティのリモート化にあたってたゆまぬサポートを続けてきたクチネリ氏とナルデッラ・フィレンツェ市長は、共に哲学好きということもあり大親友の間柄。

ラファエロ・ナポレオーネ氏/ピッティ・イマージネ協会CEO
ピッティの未来は「ハイブリット、ピッティ・スタジオ、B&Cの共存」

ピッティのリアル開催が政府より許可されたのは今年の3月後半、それからたった60日の準備期間は「まるで嵐のようでしたが、実現できて大変うれしく誇りに思います」と達成への喜びを満面の笑顔で語ってくれたナポレオーネ氏。

今回のピッティはコロナ以前の展示会の収支決算3900万ユーロの半額にも満たない規模ではあるが、2020年のオンライン開催による売上がたったの100万ユーロだったことから比較するだけでも、確実に「再生」へのステージアップとなった。

とは言え「未来へ向けてようやくエンジンがかかったところ」で、姿なき巨大な災厄コロナを前に、次回のピッティは正直なところ具体的にはまだ何も言えないという。

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ピッティ・イマージネ協会を統率するラファエロ・ナポレオーネ氏。1988年の入社以来、時代の変遷とともに同協会の活動をファッションからアート、食、ライフスタイルへと裾野を広げてきた指導者だ。

「確実なのはリアルとオンラインの両輪でいくハイブリット開催がスタンダートとなることです」。ピッティ協会では10年ほど前よりeコマースのプラットフォーム、「e-pitti」をいち早く立ち上げ、パンデミック後は「ピッティ・コネクト」へとバージョンアップし、出展社のオンライン配信や販売のサポートに成功している。しかしその途中であぶり出された問題が、多くの企業の「デジタル化の遅れ」だ。そこでピッティ協会では、新たにデジタル・マルチコンテンツ作成部門「ピッティ・スタジオ」を立ち上げ、企業イメージをブラッシュアップするコンサルタント・サービスも始めた。そうなると未来はバーチャル化となっていくのだろうか?

「コロナの雲行きによりますが、次回はフィレンツェの街中でのイベントも盛大に企画して、日本や世界のバイヤーも大勢訪れてくれるにぎやかなトレードフェアとなることを願っていますよ」。ファッションブロガーやインタグラマーも大歓迎だそうだ。

ファビオ・アタナシオ氏/TBDアイウエアCEO
イタリア伝統の職人ものがエコ・サステイナブルな未来をつくる

今回のピッティは、ファンタスティック・クラシック、ダイナミック・アティテュード、スーパースタイリングサステイナブル・スタイルの4つの部門で展開されたが、ひときわ活気があったのがファンタスティック・クラシックのアクセサリー部門。

6年前からここにアイウエア・ブランドを出展しているファビオ・アタナシオは、ピッティ再開と聞いて真っ先に申し込んだという。彼は職人の手仕事にほれ込み、欧米に点在する150ほどのサルトリアを訪ね歩き紹介するなどして、インスタ35万人ものフォロワーを持つインフルエンサーでもある。

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ファビオ・アタナシオ氏。今回のピッティ会場内にて、イタリアとスペインの名サルトリア7工房を体系化した豪華本『Scent of Tailoring』の出版発表もした。

「確かにパンデミックでファッション界のデジタル化は加速しました。でも高品質なものであればあるほど、その色や質感、使用感などを手に取って吟味したい。出展業者とバイヤーが一堂に集まるピッティは、効率のいいチェックの場であり、出会いの場なのです。長年ひいきにしてもらっている小売店やバイヤーに再会できるのも嬉しいですね」

これからのピッティの方向性については「一昔前の職人によるメイド・イン・イタリーというコンセプトは、そのまま現在一番注目されるエコ・サステイナブルな製品であるというとこに皆が気づきはじめています。そんな世界の意識の変化に合わせて、もっと伝統素材やアルチザンなメーカーが活躍してゆくと思います」

いやはやイタリア・ファッション界の勇士たちの語りはそれぞれに個性的で熱かった。パンデミック下での企業存続への責任感もひとしおだろうが、その根底にある郷土愛、そしてファッションへのパッションが彼らを団結させているのだろう。

これからのピッティがますます面白くなりそうだ。

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Photograph:Mitsuya T-Max Sada
Text:Michiko Ohira

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