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ピッティはどこへゆく?【前編】
コロナ後、リアル開催に踏み切った国際トレードフェアの意味を探る。

2021.08.03

ピッティはどこへゆく?【前編】<br>コロナ後、リアル開催に踏み切った国際トレードフェアの意味を探る。

100回「ピッティ・イマージネ・ウォモ」トレードフェア(以下ピッティ)が、炎天下の7月2日、フィレンツェのバッソ要塞にて無事幕を閉じた。

今回のピッティへの出展へはリアル会場と「ピッティ・コネクト」というデジタル・プラットフォームでの参加が用意され、ハイブリット参加が339社、リモートのみ参加が57社の合計396社が国内外から結集し、長く閉ざされていたピッティ会場に息を吹き込んだ。

一方3日間の総来場者数は、今回のみ合同開催となった子供服トレードフェア「ピッティ・ビンボ」と合わせて約6000人、そのうちバイヤー約4000(外国人バイヤー25%)と、全体で通常の約3分の1ほどの規模にどどまったが、感染者約430万人、死亡者約12万8000人ものパンデミックに見舞われたイタリアで、20206月から3シーズン続けてリモート開催を余儀なくされた後の念願のリアル開催だっただけに、関係者や地元市民の歓喜は大きい。

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入場には事前予約し、ワクチン接種済みのグリーンパスか、PCR検査結果の提示が義務付けられた。

今回の開催までの背景には、セキュリティ強化や新システムを導入して臨んだ主催団体ピッティ・イマージネ協会(以下ピッティ協会)側の取り組みはもちろんだが、世界に誇るメンズ服のトレードフェアたる「ピッティ」を盛り上げようという官民連携のコラボが際立ち、イタリアにおけるファッション産業の重要度、そして服飾文化史におけるフィレンツェの立ち位置を再認識した100回目でもあった。

官民パワーがスクラム組んだピッティ開催の本当の意味

ピッティのオープニング・セレモニーは毎回、旧市街のランドマークであるヴェッキオ宮殿内の華やかな「500人大広間」で行われる。1302年から行政庁であった同宮殿は、1348年、ヨーロッパの人口を半減させたペスト禍もくぐり抜けてきた歴史深いモニュメントだ。

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オープニング・セレモニーは、荘厳なムード漂うヴェッキオ宮殿にて行われる。
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左からICE代表カルロ・フェッロ氏、CFMI会長アントネッラ・マンシ氏、フィレンツェ市長ダリオ・ナルデッラ氏、イタリア財相ジャンカルロ・ジョルジェッティ氏、ピッティ・イマージネ協会プレジデント兼ヘルノCEOクラウディオ・マレンツィ氏。

「ルネサンス=再生」を合言葉に、コロナ復興行政活動に精力的に携わるナルデッラ市長は、開口一番「ありがとう」と3回繰り返し、「21世紀パンデミックからの、まさに“再生”をも意味する、歴史的にも意味深い100回目のピッティ」であると、威勢のいい言葉で開会式の口火を切った。

続いてイタリア財相ジャンカルロ・ジョルジェッティ氏、トスカーナ州知事エウジェニオ・ジャーニ氏、イタリア貿易振興協会(ICE)代表カルロ・フェッリ氏、そしてピッティ・イマジネ協会プレジデントを兼任するヘルノCEO、クラウディオ・マレンツィ氏などなど各関連機関のお歴々が集い、ピッティの再開を祝福し合った。

ひと際背の高いジョルジェッティ財相は、2020年に前年比20%もの落ち込みにあえいだ服飾産業界に対して、スタートアップへの500万ユーロの助成金や企業内ストック比30%以内の税控除などパンデミック後の政府のさまざまな財政援助に触れ、ピッティの発展に欠かせないフィレンツェ空港拡張工事へゴーサインを出すなどの大盤振る舞いぶり。

それを受けてマレンツィ氏は「Covidリカバー基金によるCIGO給与補償なども功を奏し、2021年度のアパレル大手は1020%の利益回復に向かっている」と行政政策を称えるかたわら、「コロナ禍による生産の落ち込みにより職人技が消失の危機にある。彼らの存続なしには業界の再生はありえない」と、特に中小企業への援助の続行を訴え、ひいては今回のピッティ開催の一番の狙いは「未来につなぐサプライチェーンの保護が目的」であるという、業界を牽引する実力者らしい実感のこもったコメントは説得力があった。

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ピッティのないファッションウィークは「パネトーネのないクリスマスのようなもの」で寂しい、と語るピッティ・イマージネ協会プレジデント兼ヘルノCEOクラウディオ・マレンツィ氏。

地場産業千年王国の賜物“ピッティ”は今、未来に向けた復興のアイコンに

トスカーナ州は4万6000もの服飾関連業者が密集するヨーロッパ随一の地場産業地帯。これほどの規模に発展した背景には、中世より連綿と作りつづけ精錬されてきた意匠の高い織物、皮革、貴金属などなど多分野に及ぶ地場工房の発展の歴史があり、そこに生きる職人とクライアントが作り上げた目利きぞろいの土壌がある。奇しくも14世紀のペストによるパンデミックからはい上がってルネサンスという芸術運動をも巻き起こした。グッチ、フェラガモなど世界に名だたる大メゾンがここで生まれ、いまだ多くの世界ブランドの工場がフィレンツェ近郊に密集しているのは、ここ一帯で高品質の加工素材と技能の高い職人たちが調達しやすいから。ピッティはそんな土壌で必然的に生まれ、時代とともに発展そして変遷し、いままたパンデミック危機の波に揺られている。

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会場はメイン館含め合計3棟のみで総出展数はデジタル・プラットフォームでの出展を含めても395社、リアルの総来場者数は通常の約3分の1。やはり、コロナ前との活況の差は否めない。

「危機からの脱却には、雇用確保とイノべーションへのサポートが何よりも大切」と語るナルデッラ市長は、「ピッティのサポーター」とも呼ばれるほど復興に熱心で、2020年には国内のどこよりも早くフィレンツェをイタリア屈指のスマート・シティに変身させ、デジタル化のインフラ整備に乗り出したからこそ、20206月からの「ピッティ・コネクト」という時流に合わせたリモートトレードフェアへの切り替えも実現できた。それは ピッティを愛してやまない関係者の命綱となった。

ピッティのハイブリット開催はめでたい限りだが、会場に例年のような活況がないのはやっぱり寂しい。今回、小規模でもとりあえずインターナショナルなトレードフェア開催が可能となったため、「案外この省エネ路線でいけるのでは」というイタリア商工会議所バッシリ会長のヒヤリとする声も上がった。

かくもピッティに寄せるオピニオン・リーダーたちの胸中は驚くほど千差万別だった。

>>後半へ続く

Photograph:Mitsuya T-Max Sada
Text:Michiko Ohira

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